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粘土

作者: なめらかドライヤー

入室

02:16

退室予定時間

05:16


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上気した右頬を、冬の空気が切るように撫でる。全身をその冷気が包んでいるはずなのに、頬以外ではそれを感じることが出来なかった。

鈍い痛みが絶えず、左眼の下を這いずり回っている。興奮しているせいだろうか、身を切る冷気と相まって、それも心地よく感じてしまう。

目の前には、赤黒く濡れたコンクリートと、左側頭部から後頭部にかけて髪を濡らした男。鼻は折れ曲がる、というよりは潰れている。あの様子、多分目も潰れているだろう。

夕焼けを煮詰めたような、濃いオレンジの街灯が遠くから男の濡れた髪を照らしている。

肩が冷気を感じるようになり、ふと我にかえる。右手の甲こそ綺麗なままだが、指の第二関節から手のひらまでは染めたように濡れていた。

粘土を水で溶かしたような感触が、今になってじわじわと手から伝ってくる。その感触が頭まで伝わった時、彼の両腕は男の両脇を抱えていた。

膝が笑っている。唇も、手も震えている。対照的に、男の体は冷え切っているが、わずかも震えてはいない。

様々な考えが頭を巡る。今後の生活、遺体をどこに隠すか、人に見られていなかったか、家までどう帰るか、友達に借りたゲームをかえさなきゃな、どこまで逃げればいいのだろうか、あの瞬間に踏みとどまっていれば。

しかしやはり、起きてしまった事はしょうがない。そう言い聞かせる。

近くの川にひとまず男を投げ込んだあと、公園の水道で手を洗い、服も出来る限り血を流してからビニール袋に入れ、一区画離れた場所のゴミ捨て場に捨てておいた。

明日にはもう遺体は見つかってしまうのだろうか、自分の人生はもう終わってしまったな、いやもしかしたら事故で片付くかもしれない。そんな甘いことも考えながら、その日はネットカフェに泊まる事にした。何故だか、少し爽快な気分であった。

それは、実感が湧いていないだけなのかもしれない。普通という枠の外に、大きくはみ出したという実感が。

あんな事の後に、眠れはしないだろうと思っていたが、あっさり眠りにつくことができた。彼のどこでも寝られるという特技は、やはり身体に染み付いた物なのだろう。

やらずにはいられない。殴らずには、殺さずには、寝ずにはいられないという、業。

普通という枠から大きく外れた彼は、今までにない充足を感じていた。

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