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田中天狼のシリアスな日常  作者: 朽縄咲良
第七章 田中天狼のシリアスな日常・解決編
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矢的杏途龍のシリアスなQ.E.D.

 「……えと、話を戻します」


 収集がつかないので、しょうがなく俺がパンパンと手を叩いて、全員の注意を集める。


「……改めて、生徒会の皆さんです」

「こんばんは、原先生。妙な所でお会いしましたね」

「…………」


 行方会長が、爽やかな笑みを浮かべながら挨拶すると、原は目を逸して沈黙した。


「早速ですが、貴女がこんな時間に何をしようとしていたのかを、正直にお伺いしたい」

「…………」


 武杉副会長の言葉にも、沈黙を以て答える。


「――あ、因みに、先程奇名部の皆さんとお話していた内容は、副会長のスマホと通話状態にしていた矢的先輩のスマホ経由で、私達も把握していますので悪しからず。……もちろん、録音済みで――」

「……なら、わざわざアタシから聞く事はないでしょ? さっき言った通りよ! 奇名部(コイツら)が写真部から盗んだこのカメラを、手紙を受け取ったアタシが取りに来たの! それだけよ!」


 原は、黒木さんの言葉を途中で遮ると、ヒステリックに喚き散らす。

 原は血走った目で俺たちを睨み、人差し指を真っ直ぐ伸ばして突きつけた。


「捕まえるのは奇名部(アイツら)よ! 早く捕まえなさい!」

「……アンタ、最初は自分のカメラだって主張してなかったっけか?」


 矢的先輩が、呆れた顔でツッコむ。


「……アレは、つい動転して口走ってしまっただけよ!」

「……往生際が悪いっていうのは、この事を言うのよね」


 撫子先輩が、ため息混じりに呟く。

 ……正直、こうまで全ての事に対して開き直られると、こちらの攻め手が無くなってしまう……。状況証拠は十分だが、決定的な物的証拠が無いと、この人を完全に屈服させる事は出来ないだろう。

 何か、勝算はあるのか……俺は、矢的先輩を見た。


「……しょうがないなぁ。じゃあ、決定的な証拠をお見せしましょうかね……」


 矢的先輩は、頭をぼりぼり掻きながら呟いた。


「じゃあ、原先生、ちょっとそのカメラをお預かりしていいですか?」

「……嫌……アナタなんかに渡す訳ないでしょ! この泥棒が!」


 原は、ヒステリックに叫んで、カメラを固く抱き締める。

 というか、泥棒って……まさにおまゆう……。


「――でしたら、私にお預け下さい。生徒会の私なら宜しいでしょう?」


 行方会長が一歩進み出て、ニコリと微笑んだ。非公認ファンクラブのメンバーが見たら、尊みのあまり卒倒しそうなイケメンスマイルだった……。


「あ……はい……」

「ありがとうございます」


 ……あれ? さっきとは打って変わって、あっさりと手渡したぞ、原……。顔まで赤らめて……?


「……ひょっとして、原先生も、ファンクラブの会員なのかもね……」


 春夏秋冬(ひととせ)が、くすくす笑って俺に囁いた。


「ご協力あざーっす、会長。……証拠は、この中のファイルなんですよね〜」


 軽い調子でヘラヘラ笑いながら、会長からカメラを受け取ると、矢的先輩は電源を入れようとする――


「む……無駄よ! 電池が切れてるもの! 点かないわよ!」


 原の金切り声が部室に響く。

 矢的先輩は、右上のダイヤルを回す……が、原の言う通り、液晶画面には「Low Battery」と赤文字が表示されている。


「あー、確かに仰る通りですねぇ……でも」


 矢的先輩は、言葉を切ると、上目遣いで原を見た。


「……何で原先生は、このカメラのバッテリーが切れてる事を知ってたんでしょうねぇ……?」

「!…………そ、それは――」

「あー、いいっすいいっす。どうせ何を言っても、口から出任せなんですから。――安心して下さい。こんな事もあろうかと、ってヤツです。――クロちゃん!」

「あ、はい! あれですね! 先程、写真部からお借りしてきた……」


 矢的先輩に呼ばれて、嬉々とした様子でポケットをまさぐる黒木さん。……というか、クロちゃん呼び……いいのか、黒木さん?

 黒木さんは、ポケットに手を入れたままニッコリと笑って、


「てけててってけー♪ よびばってり〜!」


 と大声で言いながら、何かを取り出した。……というか、それはアレか。未来から来たタヌキ型ロボット的なアレのマネか?


「……矢的先輩! ちょっとスベりましたよ! 恥ずかしい……」


 黒木さんが、顔を赤くしながら、矢的先輩に取り出した物を渡す。直方体の黒くて小さい物だった。

 それを受け取った矢的先輩は、「ご苦労ちゃ〜ん」と声をかけると、カメラの底面の電池ブタを外して、中に入っていたバッテリーと入れ替えた。

 再度ダイヤルを回し、レンズを繰り出すと、液晶画面が明るくなる。


「さてさてさーて♪ 再生モードにして……と」


 鼻歌交じりにダイヤルを回す矢的先輩。俺たちはその周りに集まって、小さな液晶画面に注目する。

 そして、液晶画面に映し出されたのは――

 画面を覆い尽くす、肌色!


「は――?」

「キャッ!」

「……ほほう」


 それを見た俺たちの反応は様々だった。男子は困惑の表情を浮かべ、女子は目を覆い、行方会長は、興味津々の様子で覗き込んだ……て、あの、会長?

 カメラに記録されていた写真は――

 何と、豊満な男子が互いに組んず解れず、汗まみれになって絡み合う――淫靡なドアップ写真だったのだ!


「――いや、ただの相撲部のぶつかり稽古の写真だよ!」


 ……失礼しました。


「そう。これは、ウチの相撲部の練習風景を隠し撮りしたモノなのです!」

「な……何だって? キバ○シーッ!」


 一斉に驚愕する俺たち。……つか、キ○ヤシって誰だ?


「そ……それも、このアングルは……。ちょうどこの部室から奥の砂場を映すと、こうなるな……」


 武杉副会長が、窓から外を見下ろしながら呟く。


「確かに、ここなら砂場で稽古する相撲部が撮り放題だし、逆に相撲部側からは気付かれにくい……隠し撮りするには絶好の穴場だな……」

「なんとなく見えてきたわね……動機が」


 撫子先輩が頷きながら言う。


「犯人は、盗撮目的()の為に、望遠レンズの付いたカメラを十亀先輩から盗み、この部室で相撲部を隠し撮りしてから、カメラを天井裏に隠していたのね……」

「そういう事」


 撫子先輩の言葉に頷き、矢的先輩が言葉を続ける。


「さて……ここで気になるのは、『誰がこの写真を撮ったのか?』という所です」

「そんなの……誰が撮ったか、分からないじゃないのよッ!」


 原は、半狂乱で叫ぶ。でも、確かにこれだけでは、原が相撲部を盗撮していた証拠にはならない……。


「――分かるんだな、これが」


 だが、矢的先輩は怯まなかった。ニヤリと嘲笑うと、カメラのボタンを操作し、モードを変える……『動画再生』モードへと。

 矢的先輩は、一つの動画を選び、再生ボタンを押した。


 ――ドアップで映る相撲部部員のふくよかな肢体……それを映す画面が小刻みに揺れる。


『……あら? シャッターが切れない……どうなってるのかしら……?』


 突然、撮影者らしき声が入り、画面が激しく動く。そして、撮影者の顔が映り込んだ所で、矢的先輩がストップボタンを押す。

 そして、ウインクして、口の端を歪めて、カメラの液晶画面を突きつけた。


「――まだ、言い逃れなされますか? 原先生――?」

「…………」


 それを見た原は、無言のまま、力無く崩折れた。


 ――カメラの液晶画面には、原の顔が高画質で画面いっぱいに映り込んでいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日常系と呼ばれる作品や、ゆったりとした学生のノリが好きな方、経験した方には、あぁ~あるなぁ~と共感出来、その笑いが想像出来て、伏線改修や物語の展開も楽しめる作品だと感じます。 [気になる点…
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