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田中天狼のシリアスな日常  作者: 朽縄咲良
第七章 田中天狼のシリアスな日常・解決編
69/73

奇名部のシリアスな究明

 「……何よ、アナタ達……こんな時間に何やってるのよ!」

「――そのお言葉、そっくりそのままお返ししますよ」


 ヒスハラ……原先生の金切り声に、俺は冷笑を以て返した。


「先生こそ、こんな時間に他人の部室に侵入(はい)って、何をされているんですか?」

「――それは、写真部が去年の体育祭の文化部対抗リレーで優勝した時に、景品として貰ってたカメラですよね?」


 撫子先輩はそう言って、原先生が抱えている黒い物を指さした。


「う――、こ……これは……」


 オロオロと、目に見えて狼狽する原先生。彼女が大事そうに抱えていたのは、マットブラックで鈍く光る、長いレンズを装着したデジタル一眼カメラだった。カメラのストラップには、動かしたら音が鳴るよう、大きな鈴が括りつけられている。


「これは――、そう! わ、私の私物です! 何か文句でもありますか――?」


 うわ……矢的先輩の想定通りだ。


「あ、そうなんですか。随分立派な(AOS-M10)をお持ちなんですねぇ……。原先生って、カメラが趣味だったんですか? 初耳ですけど」

「え……ええ。誰にも言っていなかったけどね。――カメラ、好きなのよ」

「ふーん……」


 矢的先輩は、鼻を鳴らすと、ニコリと笑った。


「ああ、でしたら、番号を読み上げて頂けます?」

「ば……番号?」

「はい。番号。カメラの底に小さい数字が……確か8桁か9桁の……ラベルに印刷されてるんですけど……」

「な――何でそんな事しなきゃいけないのよっ!」


 原は、また耳障りなヒス声を上げる。

 それを聞いた矢的先輩は、ニヤリと冷たい笑みを浮かべる。


「――そのカメラが、原先生の物だと証明する為にですよ。――それとも、出来ません?」

「も――もうっ!分かったわよっ!」


 乱暴に吐き捨てると、原はカメラを裏返して覗き込む。


「もうっ! 小さくて読めないわよっ! ええと……M11451……433……4……?」

「M114514334……ですか?」

「そ……そうよ! それが何な――?」

「あれれ~。おかしいな~♪」


 原の言葉を遮って、嬉しそうな声を上げたのは、春夏秋冬(ひととせ)だった。……つか、『ショーテン』の主人公、転生小学生探偵家達(いえさと)コロンの声マネが上手いな、春夏秋冬(ひととせ)……。


「その製造番号……写真部が盗まれたカメラと同じ番号だぞ~」


 そう言うと、手にした紙片をヒラヒラ振る。


「せ……製造番号?」

「――これは、写真部の十亀部長が盗難されたAOS―M10の保証書です」


 俺は、春夏秋冬(ひととせ)の手から紙片を抜き取り、広げた。


「ここに、盗まれたカメラの製造番号が印字されています。……『M114514334』……原先生が今お持ちの、そのカメラと同じ番号です。製造番号は、同じ機種のカメラで同じ番号の物はありません。――つまり」

「アンタが自分の物だと言い張るそのカメラは、写真部の備品のAOS-M10だという事ですよ、原センセ」


 俺の言葉を継いで、矢的先輩が結論を突きつけた。

 原は、顔を俯かせて沈黙している。


「…………」

「何か言いたい事はありますか?」

「ち……違う……違う!」


 原は、髪の毛をかき乱しながら地団駄を踏む。――と、何かを思いついたのか、目をギラギラと見開いて叫んだ。


「……そ、そうよ! アタシが見つけてあげたのよ! 写真部が盗まれたカメラを、アタシが見つけてあげたのよぉ!」

「――はあ?」


 原の言葉に、俺たちは呆気に取られる。


「と――匿名の手紙が……アタシの下駄箱に入っていて……『写真部が盗まれたカメラが、部室棟の213号室の天井に隠されている』――って! だから、回収しに来たのよ!」

「……いや、さっきは『自分の物だ』って主張してたじゃないですか? それに、手紙が本当なら、その旨を生徒会なり先生なりに報告すればいいだけじゃないっすか? 何でこんな夜の闇に紛れて忍び込む様な真似をしたんですかね?」


 俺の指摘に、原は見下すような視線を送ってきやがった。


「あ――アタシは、アンタ達を庇ってあげようとしたのよ!」


 は――庇う? 俺たちを?


「アンタ達が、写真部から盗んだカメラをコッソリ返してあげて、表沙汰にしないであげようとしたのよ!」


 このババア、ドサクサに紛れて、俺たちに罪をなすりつけようとしてやがる!


「で――デタラメ言うな! そんな手紙、どこにあるんだよ!」

「て……手紙は、捨てたわよ! 『読んだら捨てて下さい』って書いてあったから……。でも、あったのよ!」

「口からでまかせを……」

「じゃあ、証明できるの? アタシが言う事がでまかせだという証拠があるって言うの?」


 その言葉に光明を見出したのか、原の声が俄然強気を帯びる。


「そもそも――アナタ達みたいな、チャランポランでいい加減な生徒達と、このアタシ――普通に考えて、世間はどちらの言い分を信じると思っているの? アナタ達は、もう終わりよっ! オホホホホホホッ!」


 勝ち誇ったように高笑いする原。

 ――あ、撫子先輩。な、何を構えてるですか……? そ、それはダメですよ、さすがに。

 と、


「はあ……往生際が悪いなあ……」


 矢的先輩は、大きなため息を吐く。

 そして、胸ポケットから取り出したのは、スマホ。


「……おーい。こっち来ていいよ~」


 スマホを耳に当てて、通話相手に伝える矢的先輩。

 やがて、ガラガラと音を立てて、部室の引き戸が開く。


「――! あ、アナタ達……!」


 入室した者たちの顔を見た原の顔が引き攣った。

 それを視界の隅で確認した矢的先輩は、ニヤニヤ笑いを浮かべて、生徒会の三人を紹介する。


「はーい。ここで特別ゲスト、水戸黄門様ご一行で~す」

「――て、おい! 誰が水戸黄門だ!」

「はいはい、そこのうっかり八兵衛うるさいよ~」

「しかも、助さんでも格さんでもなくて、うっかり八兵衛だと? せめて風車の弥七で……!」

「じゃ、私はかげろうお銀ですか!」

「ほほう、ならば私は柘植の飛猿か……」


 おいいいっ! メインキャラがひとりもいないご一行なんですけどお!


「……な、何でアナタ達、そんなに古い時代劇の事に詳しいのよ……」


 つか、原先生……、驚くところ、そこぉ?

 ……シリアスな空気は、百万光年の彼方へ吹き飛んでしまった……。


 おい、お前ら、返せ!

 2時間サスペンスドラマの、崖の場面(クライマックス)並に緊迫したシリアスな空気を返せぇええっ!

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