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田中天狼のシリアスな日常  作者: 朽縄咲良
第七章 田中天狼のシリアスな日常・解決編
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矢的杏途龍のシリアスな確信

 「いやー。順調順調♪」


 写真部の部室を出て、扉を閉めた矢的先輩は、上機嫌だった。


「順調……て何がですか?」


 俺は首を傾げながら聞いた。


「もちろん、捜査だよ♪」

「ああ……アレって捜査だったんですか」


 合点がいった。そもそも、奇名部で『創部記念に、皆で集合写真を撮ろう』なんて話は出ていなかった。さっき、突然矢的先輩の口からそんな話が出て、内心でビックリしていたのだ。

 つまり、記念写真云々は、十亀から「AOS−M10を盗まれた」という証言を引き出す為のブラフだった、という事か……。


「じゃ、部室に侵入した犯人は、十亀……」

「じゃねえよ」


 あ、やっぱりそうか。


「十亀先輩が言ってた事は、本当だろう。嘘を付く理由が無いし、第一、お前らが見たフードの不審者は、かなり小柄だったんだろ? 十亀先輩は、確かに大柄ではないけどよ、かといって小柄っつーワケでも無いだろ?」

「……確かに」


 十亀の身長は、大体俺と同じくらいだ。あの日見た不審者のそれとは、かなりの差がある――気がする。


「――じゃ、じゃあ、何でわざわざ写真部に行ったんですか? 十亀先輩にカマをかける為じゃ無いとしたら……」

「アレだよ。『白銀号事件』の羊と同じだよ」

「――『白銀号事件』?」


 俺は首を傾げた。聞いた事があるような、無いような……。


「あれ? お前、もしかして知らねえの、『白銀号事件』?」

「……知りません」

「おいおい……。お前、ちゃんと読書しろよ~。名作だぜ、白銀号事件」

「そうなんですか……? で、どんな話なんですか?」


 矢的先輩の言い草に、カチンときたものの、それを抑えて素直に尋ねる俺に、矢的先輩は舌を出した。


「教えてやんないよーだ。今度図書館ででも、本借りて読んでみな。つーか、推理モノなんだから、事前情報無しで読んでみた方がいいって」

「なんすか、ケチ。まあ、取りあえず、推理モノだって事は分かりました」


 図書館で検索システム使って調べれば、出てくるかな……? ……スマホを持ってれば、すぐ分かるのになぁ……。

 と、そんな事を話しながら、俺たちは、2階の奥の奇名部部室の前まで来た。


「――――ね」

「――にこれ――!」


 すると、部屋の中から、何やら大きな声が聞こえる。女の声――春夏秋冬(ひととせ)と撫子先輩?。

 ――何かあったのか!

 慌てて、入り口の引き戸を勢い良く開けて、部屋に飛び込む。


「ど、どうしたの――て、何じゃコリャ!」


 入った俺は、部屋の様子に仰天した。

 壁際に並べていた棚類は、位置をずらされてバラバラに置かれており、中央に置いてあった長机は、窓際に寄せられていた。

 その上にはパイプ椅子が2脚、縦に積み上げられて、その一番上からは、おむすびが生意気そうな顔で俺たちを見下ろし、呑気にアクビをしていた。

 ――更に、先日キレイに掃除したはずなのに、部室の中は埃まみれの状態に戻り、空中に埃の粒子が飛散していたのだった。


「――あ、シリウスくん! 見てよコレ~! また、不審者が入ってきたのかな……」

「部室の鍵は、しっかり閉まってたんだけど……」


 部屋の中に居たのは、やはり春夏秋冬(ひととせ)と撫子先輩だった。

 ふたりとも、不安そうな顔で、周りを見回している。


「や、矢的先輩! こ、コレは……? まさか、春夏秋冬(ひととせ)の言う通り、本当に――」

「あ――っ! ゴメン! それ、オレだわ!」

「「「――は?」」」


 朗らかに笑って頭を掻く矢的先輩の言葉に、呆気に取られる俺たち三人。


「いやあ~。さっき、シリウスには言ったけど、午後の授業まるまるサボって、部室で色々漁ってたのよ。で、時間切れ(終鈴)になったから、取りあえず本校舎に向かったんだけど……片付け忘れてたよ~」


 ヘラヘラとした顔で言う矢的先輩。


「……いや、矢的先輩、アンタ『大掃除だ』って言ってたじゃないですか? これじゃ、寧ろ逆に散らかしてるんじゃないですか! 何をしてたんですか、一体?」


 俺は、矢的先輩に尋ねた。

 彼は、フフンと鼻を鳴らして、胸を張って言い放つ。


「何――って、さっきと同じ。"捜査"だよ♪」

「捜査? もしかして、この前の侵入事件の?」

「しゃあ、犯人とかもわかっちゃった感じ?」


撫子先輩と春夏秋冬(ひととせ)の問いに、彼は大きく頷く。


「まあ、大体目星は付いたぜ。――あとは、どうやって尻尾を掴むか、だけだな」

「ま……マジですか? 捕まえる気ですか、犯人を?」

「モッチロン!」


 矢的先輩は、親指を立てて言った。


「皆にも協力してもらうよ。作戦はこうだ――」

「――作戦も結構だけれど」


 嬉々として、練り上げた案を披露しようとした矢的先輩に、水を差したのは、撫子先輩だった。

 彼女は、ニコリと微笑うと、荒れ果てた部室の机たちを指さした。


「その前に、この部室の大掃除をしましょう、ね」

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