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田中天狼のシリアスな日常  作者: 朽縄咲良
第六章 田中天狼のシリアスな日常・捜査編
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春夏秋冬水のシリアスな会議

 「じゃあ、始めるよ~」


 春夏秋冬(ひととせ)が、ホワイトボードの前に立って、ニコニコしながら言う。


「第387回! チキチキ! ネコちゃんの名付け会議~♪」

「お~!」


 春夏秋冬(ひととせ)のかけ声に合わせて、矢的先輩が風船のような部分を押すと鳴るラッパ? をパフパフ鳴らし、撫子先輩がタンバリンをシャンシャン振る。

 ……何だ、このノリ……?


「こら、シリウスくん!」

「――へ?」

「駄目だよ、ちゃんと参加しないと! ホイッスル吹いてよ~!」


 呆然としていたら、春夏秋冬(ひととせ)に怒られた。


「……あ、ああ、ゴメン……」


 とりあえず謝って、目の前に転がる銀色のホイッスルを手に取る。……つーか、こんなモン、どこから持ってきたし……?


「はいっ! もう一回いくよ~!」


 春夏秋冬(ひととせ)が、手をパンパンと叩いて、仕切り直しをする。


「第452回! チキチキ! ネコちゃんの名付け会議~!」


 パフパフ! シャンシャン! ピ~ッ!


 ……何だコレ?

 ――つーか、さっきより開催回数が物凄く増えてるし……。


「……つか、あんだけ苦労してホワイトボード運んできて、何を話し合うのかと思えば――ネコの名前か~い!」


 それな。

 矢的先輩の言葉に、俺は力強く頷く。


「何よ、大事でしょ、名前!」

「そうよ。これから飼っていくのに、いつまでもネコちゃん呼びじゃ不便よ。名無しじゃネコもかわいそうだし」


 女性陣は、矢的先輩の言葉に、強く抗議の声を上げる。


「ね! そう思うでしょ? シリウスくん!」

「……も、もちろん! 名前って大事っすよ! 他ならぬ俺たちが名前をないがしろにしちゃ駄目ですよね!」


 ――前言撤回。ここは、陰キャ48の達人技のひとつ『長いものには巻かれよ』を発動だ。


「な――何だよ~! 分かってるよ~。別に反対してる訳じゃないって! そんなに青筋立てて怒らんでもええやんねん!」


 俺たちから総攻撃を受けてタジタジとなる矢的先輩。

 春夏秋冬(ひととせ)は、今度はハリセンを取り出し、パーンパーンと机を叩く。


「ハイハーイ、静粛に! じゃあ、異論も無いようなので、会議を進めまーす」


 そして、ハリセンで、ニャンニャンホイホイを指し示す。


「今日の議題は、我が奇名部の新メンバーのネコちゃんに名前を付けてあげる事でーす。まず、皆さんからの意見を集めます!」


 そう言うと、ハリセンの先を俺に向けた。


「じゃ、まず、シリウスくん! 案をどうぞ~!」

「い――? い、いきなり俺ぇ?」


 いや、いきなり振られても……思いつかねえよ!

 俺は、目を白黒させながら、ニャンニャンホイホイの中で、丸まって昼寝をしているこのネコの名前に相応しい名前を、何とか捻り出そうと知恵を絞る。


「……えーと……く、クロ……ベエ……く、クロベエ!」


 さすがに、『クロ』では芸が無いと思い、後ろに『ベエ』を付けてみた。俺としては、この短時間で頑張ったと思ったのだが……。


「えー……かわいくないよぉ」

「クロベエって……平凡な名前。――まあ、ある意味田中くんらしいけど……」

「ていうか、半分白いのに『クロベエ』って……名は体を表してねえな」


 ――そこまで言う事ないじゃん!


「じゃあ……クロベエね。――一応候補にはしておくね」


 気のない様子で、ホワイトボードに『クロベエ』と書き込む春夏秋冬(ひととせ)。――いや、もういいよ、書かなくて……。


「さあ……次は、なでしこ先輩。お願いします!」

「……うーん、そうね――」


 撫子先輩は、少し考えた後、パッと顔を輝かせて口を開いた。


「ザクティアヌス!」


 オイイイイイイッ! ちょっと待てぇええいッ!


「あ! それいいかも~! 黒いから、黒髪のザクティ様のイメージにピッタリかも~」

「ザクティア……何とかって、アレだろ? シリウスの名前の元ネタマンガに出てきた……ま、いいんじゃね?」


 撫子先輩の案にいたく乗り気な二人――や、ヤバい!


「反対ハンタイ、大反対ッ!」


 俺は、両手を挙げて、全身で反対の意思を示す。


「え~……何でよぉ。いい名前じゃない、ザクティアヌス。カッコイイじゃない」

「駄目だよ! 他のヤツに名前の由来を聞かれたら……芋づる式に、俺の名前の由来もバレちゃうじゃないの!」

「何だよ、シリウス。お前、まだそんな事言ってんのかよ~」

「俺にとっては重要な事なんです!」


 コレばかりは看過できない。確かに以前よりは、自分の名前に抵抗はないけど、やっぱり不特定多数に、自分の名前のあの(・・)由来を知られるのは、抵抗がある……。


「まあ、そうね……。シリウスくんの事を考えてなかったわ……。ごめんなさい」


 意外にも、撫子先輩が折れた。


「えー……いいと思うんだけどなぁ……じゃ、一応、候補のひとつという事で――」


 春夏秋冬(ひととせ)は名残惜しそうな顔で、ホワイトボードに『ザクティアヌス』と記入する。ひとまず、最終決定には至らなかった事に、俺はやれやれと胸を撫で下ろした。


「――じゃ、次はアンディ先輩! 張り切ってどーぞ!」


 と、春夏秋冬(ひととせ)が、矢的先輩を指す。

 矢的先輩は、椅子に深く腰掛け、足を組み、低い声で厳かに宣う。


「フフフ……このオレの案で、たちまちこの会議は決しようぞ……! 俺の案は――」


 矢的先輩は、そう言って、ニヤリとほくそ笑む。

 ゴクリ……と、固唾を飲む俺たち。


「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

「…………」

「…………いや、さっさと喋れえっ!」


 春夏秋冬(ひととせ)が、手にしたハリセンで、矢的先輩の頭をフルスイングした。

 パ――ン! と清々しい音を立ててハリセンがジャストミートした。


「おぶぅッ!」


 吹っ飛ぶ矢的先輩。


「あ……ゴメン、アンディ先輩。つい……。――でも、ツッコミって……ちょっとカ・イ・カ・ン……かも」


 少し、恍惚の表情を浮かべる春夏秋冬(ひととせ)……。


「……アクアちゃんが変な性癖に目覚めちゃったら、アナタのせいよ、矢的くん……」


 撫子先輩が、テーブルにおでこを強打してノビている矢的先輩に囁いていた。




 その後も、ネコの名前案を、俺たち3人で出し合った。

 だが、出てくる案は、『セバスちゃん』『パトカー』『デスサイズ』『シュピーゲル』『ザニンジャ』などなど……。どれも中途半端で、決定的な名前は出てこない。というか、疲れてきていて、適当な名前しか、俺たちの脳には浮かばなくなっていた……。


「うーん、困ったよう。名前が決まらないよ〜」


 頭を抱える春夏秋冬(ひととせ)


「……て、そういえばさ」


 俺は、ふと気づいて、春夏秋冬(ひととせ)にそれをぶつけてみた。


春夏秋冬(ひととせ)には、無いの? 名前の案……」

「――え? あたし?」


 目を丸くする春夏秋冬(ひととせ)。と、顔を赤くして、ブンブンと手を横に振る。


「い、いやあ、いいよ! あたしの案なんて……それに、あたしはこの会議の議長だからさ! そ、その……ちゅーりつをたもたなきゃいけないし……」

「あら、全然構わないわよ。アイデアがあるなら言ってみて?」

「そうそう! よくよく考えたら、お前一人だけラクしてるんじゃねえか! オレらはもう頭ん中はスッカラカン…だから、今度はお前が考える番だぞ!」

「え――でもぉ……」


 躊躇する春夏秋冬(ひととせ)に、


「いいから、遠慮なく言ってみてよ。春夏秋冬(ひととせ)の案で、俺たちの頭に新しいアイデアが浮かぶかもしれないしさ」


 俺はそう言って背中を押してやる。


「そ……そう?」


 おずおずと言う春夏秋冬(ひととせ)に、俺たちは力強く頷いてみせる。


「わ――分かった! じゃ、あたしが考えた名前を言うね! ……笑われるかもしれないケド!」


 そう言って、春夏秋冬(ひととせ)は目を閉じて、


「…………おむすび……」


 と、小さく言った。俺たち三人は、その言葉に、思わず顔を見合わせる。


「――おむすび……」

「え……えーとね! このコ、背中が黒くて、お腹が白いじゃん。丸まって寝てると、海苔を巻いたおむすびみたいだな〜って。……だから、おむすび……。て――ダメ、だよねぇ、やっぱり……」

「「「いや、いいじゃん、ソレ!」」」


 俺たち三人の声がキレイにハモった。


「可愛らしい名前じゃない。私は好きよ!」

「何か、間抜けそうな所が、コイツに合ってると思うよ!」

「変な名前だけど、奇名部のメンバーとしては、逆に相応しいな!」


 ――と、言う訳で。


 一時間半に渡って紛糾した、『第452回ネコの名付け会議』は、「おむすび」という、議長の鶴の一声によって、無事に全会一致をみたのであった――!

ネコの名前候補に出てきた『デスサイズ』『シュピーゲル』…はい、完全に作者の趣味です。

ちなみに、一番最初に飼った、ウチのネコの名付けもソレ系統だったりします(笑)

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