表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田中天狼のシリアスな日常  作者: 朽縄咲良
第六章 田中天狼のシリアスな日常・捜査編
57/73

田中天狼のシリアスな鈍感

 「……こ、これは確かに……」


放課後、奇名部の部室の前で、鍵穴の状態を目視確認した武杉副会長は、唸りながら顔を上げた。


「ほらな。俺らが言った通りだろ?」


 矢的先輩が、ドヤ顔で胸を張る――いや、偉そうに胸を張る意味が、全く分からないんですけど……。


「――これは、由々しき事態だと言うべきだろうな……」


 副会長に続いて、鍵穴を確認した行方会長も、難しい顔になる。


「……どうする? 安全を確認できるまで、部室を閉鎖した方がいいかな?」


「いやいやいや! それには及ばない!」


 慌てて首を振る矢的先輩。


「ほ、ほら! 中にはネコも居るんだし! 部室を閉鎖なんかしちゃったら、餓死しちゃいますよ!」

「……だけどなぁ……」


 武杉副会長は、煮えきらない顔で頭を掻く。まあ、当然の事だろう。万が一でも生徒(俺たち)に危害が及べば、生徒会の責任問題に発展する。リスクを負いたくないのは当たり前だ。


「いや、多分大丈夫ですよ」


 しょうがないので、助け舟を出す事にする。


「何でそう言い切れるんだい? 田中君」

「……前回も今回も、不審者は、他に人が居ないタイミングを狙って室内に入ろうとしています。前回は、たまたま俺たちが室内に居たのに気付かないで入ってきましたが……。犯人が俺たちを傷付けようという意思は無いんだと思いますね――それに」


 俺は、キズの付いた鍵穴を指さす。


「犯人は、交換した後の鍵は持ってない様ですから……部屋の出入りの時だけに気を付けていれば、そんなに恐れる事は無いと思います」

「うん、そこら辺の推理は、さっき瑠奈君からも聞いたよ」

「……そういえば、ルナちゃんはどうしたんですか?」


 と、春夏秋冬(ひととせ)が尋ねた。この場に黒木さんの姿は無い――俺もソレは気になっていた事だ。


「ああ……黒木君は、『仕事がありますから』と言って、来なかった。……そんなに急ぎの仕事がある訳でも無いんだけどな……?」

「――いつも、こういう、謎やオカルトが絡む様な案件には、自分から首を突っ込んでくるのだが……今回は珍しい……どうしたのだろうか?」


 副会長と会長は首を傾げる。


「……田中君。貴方が黒木さんに報告した時に、何かあったのかしら?」

「え……? 何かあったか……ですか?」


 まあ……、あった。


「何故か分からないんですけど……ビンタされました」

「はあ?」


 俺の言葉に、この場にいる全員が驚いた顔を向けた。


「な……何で? 何でビンタされたんだ?」

「た……田中! 貴様、ウチの書記に、何か不埒な事をしようとしたのではないのか?」

「いや、してませんし!」


 噛み付かんばかりの、武杉副会長の迫力に辟易しながら、俺は必死に否定した。


「何で、って、ソレは俺が一番知りたいんで! ……教室でこんな物騒な話をするのもアレだなぁと思って、踊り場に来てもらって、そこで話をしただけなんですけど……そうしたら、最後に『紛らわしい事しないで下さい!』って、パーン……と」

「……え、それだけなの? シリウスくん?」

「……確かに、良く分からんな……」

「いや、単にお前の顔面が不快だっただけなんじゃねえの、シリウス?」


 と、春夏秋冬(ひととせ)と行方会長と矢的先輩は、俺と同様に首を傾げるだけだった……

 ……って、オイ矢的、誰の顔面が不快じゃ!


 ――しかし、

 撫子先輩と武杉副会長は、明らかに何かを察した様な表情になった。

 ふたりは、俺に非難がましい目を向けた。


「おい、田中……。それはイカンだろう……」

「田中くん……貴方、控え目に言って最低よ……」

「え、ええっ?」


 ゴミを見るような目で言われて、ショックを受ける俺。


「そ、そこまで言われる様な事……俺、黒木さんにしたんですか……?」

「うわあ……無自覚かよ……黒木君……不憫な」

「……本当に分かってないの……田中くん?」

「いや、分からないから困ってるんですって! 武杉先輩、撫子先輩! 分かるなら、教えて下さいよ!」


 藁にも縋る思いで、二人に懇願するが……、


「……いや、コレばっかりは、他人に教えてもらう物ではないので……ね」

「貴方が自分で気付かないと意味が無い事よ……それが青春……」


 意味が分からん!


「――あの、俺も良く分かってないんですけど、良ければ俺にだけでも教えてくれません?」


 矢的先輩達が、ウズウズしながら、撫子先輩に聞いてきた。

 撫子先輩のゴミを見るような目が、更に厳しさを増し、まるで、床にへばり付いて取れなくなったガムを見るような目になった……。


「矢的くん……」

「は、はいっ!」

「他人のプライベートかつデリケートな事に、無闇矢鱈に首を突っ込まないの……分かるわよね(・・・・・・)?」

「……! い……イエス・ユア・ハイネス!」


 覿面に怯えた顔で最敬礼する矢的先輩。春夏秋冬(ひととせ)と行方会長も、撫子先輩の迫力に気圧されて、口を噤ぐのだった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ