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田中天狼のシリアスな日常  作者: 朽縄咲良
第六章 田中天狼のシリアスな日常・捜査編
53/73

田中天狼のシリアスな登校

 奇名部メンバーでカラオケに行った翌日……、


「お――――っす、シリウス! おはよーっ!」


 矢的先輩が、登校する俺の背中を思いっ切り叩きながら、鬱陶しいテンションで声を掛けてきた。

 俺は、渋い顔をしながらも、オトナの対応で、挨拶を返す。


「や"、や"まどぜんばい"、おばよ"うござい"まず……」

「な、何だその声! ガラガラどころのレベルじゃねえぞ!」


 俺の声を聞いて、驚愕する矢的先輩。

 俺は、付けていたマスクをずらして、囁くように喋る。なるべく喉の声帯を刺激しない様に……。


「昨日のガラオゲで……喉を潰しちゃっだみたいで……」

「何だよ〜、体とおんなじでヒンジャクな喉だなぁ……」

「体とおんなじは余計でず……ゴホッゴホッ!」


 俺は、うっかり強く言い返そうとしてしまって、盛大に咳き込んだ。

 昨日は、結局10曲近くを歌い上げた。どうせ誰も知らないからと、開き直って持ちネタ以外のマイナー曲に初挑戦してみたり……。慣れない曲を無理やり歌ったのが祟った結果が、この声である。


「オレなんか、全然ヘーキだぜ! 聴けよ、この美声!」

「……頭とおんなじで、バカみだいに頑丈なんでずね……」


 矢的先輩は、特撮ものや、ロボットアニメ主題歌を歌いまくっていた。どれも、ハイトーンボイスありの、アップテンポなシャウト系の曲ばかりだったのだが、見事に歌いこなしていた……相変わらずしつこくて、絡みつくようなキモい歌い方だったけど……。

 あんな歌い方して、喉を潰していないのは、素直に感服する。

 ……歌い方はキモいけど。


「ところで、お前も部活棟に行くのか?」

「あ、はい"……。ネゴにエザをやりに……って、『お前()』?」


 俺は、矢的先輩の言葉に引っかかった。


「矢的先輩も、部活棟に用事が?」

「うん、そう。ちょっと置き勉を取りにな」


 しれっと言い放つ矢的先輩。驚いて、彼を改めて見ると、確かに手ぶらだ。


「……部室に私物置いてるんでずか? 部室の私的使用は止めてくだざいよ……」

「はいはーい! 以後善処しまーす!」

「……善処(・・)って……それ絶対にまたする気マンマンなヤツじゃないでずか……」

「おっはよー! アンディ先輩、シリウスくーん!」


 背後から、元気な声がかけられた。

 春夏秋冬(ひととせ)が、ニコニコ笑いながら、小走りでやってきた。


「お! おはよーっ、アクア!」

「お……おばよう、ひどどぜ……」

「うわっ! 酷い声……シリウスくん、風邪でもひいたの?」


 春夏秋冬(ひととせ)も、俺の声にビックリする。


「昨日のカラオケで喉潰したんだってさ」

「あ、そうなんだ。大丈夫? あ、そうだ!」


 春夏秋冬(ひととせ)は、ポケットから小さな包みを取り出して、俺の前に差し出した。


「はい、のど飴! 1つしか無いんだけど、良かったら」

「え! い、いいの……?」


 俺は、ビックリして……ドキドキした。

 女の子に物を貰うというのも、俺にとってはスペシャルレアイベントだったし、昨日の出来事が脳裏を過ったのもある。


「ポケットから飴玉出して……て、まるで大阪のオバちゃんだなぁ、お前」

「アンディ先輩、ヒドーい! 誰がオバちゃんよぉ!」

「ほ、ホントでずよ! しづれいでずよ、ヤマドゼンバい"……グオっ、ゴホッ! ゴホッ!」

「あー、ちょっと! シリウスくん、ホントに大丈夫?」



 結局、春夏秋冬(ひととせ)も、「ネコちゃんに会いたい〜!」と言って、部活棟までついてくる事になった。

 俺たち3人は、職員室で丘元先生から部室の鍵を受け取り、部室棟に向かう。


「そういえば、なでしこ先輩はどうしたの?」


 道すがら、春夏秋冬(ひととせ)が尋ねる。


「んー? ナデシコなら、柔道部の朝練に行ったよ。今度、県大ベスト4の逍遥館高校と練習試合するんだと」

「へぇ〜。最近、柔道部のみんな、頑張ってるよねえ」

「そうだな。ウチのクラスの柔道部員の面構えも、前とは全然違ってきてるよな。目が血走って(・・・・・・)頬が痩けて精悍な(・・・・・・・・)顔つきになってきたし……時々、授業中に絶叫したり(・・・・・・・・・)な」


 ……いや、それはあまり良い傾向では……明らかに精神にキてる人の様な気が……。




 俺たちは、部活棟の階段を登り、2階の突き当たりにある、213号室……奇名部の部室に向かう。


「……あれ?」


 部室のドアの鍵を取り出し、鍵穴に挿そうとした矢的先輩の手が止まった。

 しゃがみ込み、鍵穴の辺りをじっくりと観察し、立ち上がった矢的先輩は、俺たちを手招きした。


「…………ちょっと、これを見てみろ……」


 俺と春夏秋冬(ひととせ)は、言われるままにドアの鍵穴を覗き込み、


「「――――――――!」」


 顔を見合わせ、絶句した。


 213号室の、取り替えたばかりの新しい鍵穴の周りには、昨日までは無かった、無数の引っかき傷が付いていた――!

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