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田中天狼のシリアスな日常  作者: 朽縄咲良
第五章 田中天狼のシリアスな日常・怪奇?編
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田中天狼のシリアスな部室受領

 「うわ、ホントに一日で片付けたのか……?」


 柔道部の皆さんが、「お疲れっしたッ! 押忍ッ!」と言って帰っていった後、確認にやって来て、213号室を見た武杉副会長が、半分感心半分呆れた感じで言った。


「そ……そんな事より……、ネコは何処に……?」


 その武杉副会長の背中に、その長身を隠しながら、恐る恐る覗き込む行方会長。

 本当にネコに弱いらしい……。こんな姿を非公認ファンクラブの会員が見たらどう思うだろうか? やっぱり幻滅……はしないだろうなぁ。「会長ったら、あんなに素敵なのに、ネコには弱いんですかぁ? いや〜ん、ギャップ萌えキター!」とか言って、卒倒しちゃうんだろうな……。

 ――なんて事を、俺は心中で考えながら、部室の隅の、何の変哲もない段ボール箱を指さす。


「あ、ネコはあそこに入ってます。名付けて『ニャンニャンホイホイ』」

「ネーミングは、あたしでーす」


 春夏秋冬(ひととせ)がニコニコして手を挙げた。

 俺は咳払いをひとつすると、話を続ける。


「――この部屋に置いてあった古いバスタオルを敷いて、マタタビパウダーを振りまいて、チャイチョール入れた小皿を置いておいたら、5分で掛かりました」


 まるで俺の言葉に答えるように、“囚人”の「にゃ~ん」という鳴き声が、箱の中から聞こえてきた。――コイツ、まさか人語を解するのか……?


「い、今は、バスタオルに自分の匂いを付けたりとかで、忙しくリフォーム中なので、当分は出てこないと思いますよ」

「……そ、そうか。なら、大丈夫……か?」


 明らかにホッとした声の会長。


「じゃ、この部室貸借申請書に記入をお願いします」


 書記の黒木さんが、バインダーに挟んだ1枚の書類を、奇名部部長の矢的先輩に差し出す。

 矢的先輩は、「ハイハーイ♪」と、鼻歌を歌いながら、書類に必要事項を書き込む。


「……でも、大丈夫か? 幽霊はともかく不審者は存在していて、しかも、実際に入ってきたんだろう?」


 武杉副会長が、心配げな顔で尋ねてきた。


「ダイジョーブ、大丈夫! 一応、用心の為に鍵を替えてもらったし、夜の見回りも強化してくれるんだろ?」

「……ウチの部長の考えは、楽天的すぎるとは思いますけど、まあ、大丈夫だと思います。おそらく、アイツ(・・・)が動くとしたら夜中だと思うので……。部室棟に人が居る時間帯にだけ、部室を使うようにすれば、危険は無いと……思います」

「……そうか。矢的(コイツ)が言うだけでは信用ならなかったが、田中君もそう言うのなら、大丈夫だろう」


 いつの間に、そんなに信頼篤くなったんだ、俺……?

 武杉副会長は、ポケットから真新しい鍵を取り出して、俺に手渡した。


「コレが、取り替え済みの、部室の鍵だ。もし無くしたりなんかしたら、再複製代で5万円を払ってもらうからな。くれぐれも紛失しないように」

「ちょっ、待てよスギ! そういうのは、部長の俺に渡すのがスジだろうが! 何でそのモブ部員Aに?」

「そりゃ、お前になんか渡したら、渡して5分で失くしそうだからに決まってるだろ」


 武杉副会長の、矢的先輩に対する言葉には、とりつく島も無い……その言葉には、諸手を挙げて賛同したいが。


「――本来なら、副部長の撫子くんに渡すのが筋なんだろうが……あの状態だからな」


 そう言って、武杉副会長は、入り口の扉に目を遣る。

 扉の裏から、顔半分だけ出して、恐る恐る様子を窺う撫子先輩の姿があった……。


「……だから、大丈夫だってばー、ナデシコ!」

「……分かってる。さっきも大丈夫だったし。頭では分かってるだけど……どうしても……」


 さっきは平気そうに、柔道部の人たちに指示しまくってたのになあ……。やっぱり、100パーセント恐怖を克服できた、という訳では無いらしい。


「まあ、それはおいといて……」


 武杉副会長はゴホンと咳払いすると、真剣な顔になって言った。


「とりあえず、職員会議ではもう報告を上げていて、さっき矢的が言っていた通り、当直の見回りの強化はして貰える事になった。防犯カメラの増設は……予算を組み次第になるので、少し時間が掛かるが――」

「……君たちも、何か不審な点や、不審な人物を目撃した場合には、遠慮せずに私や武杉に報告して欲しい。――何処の誰かも分からない者が、未だ野放しでどこかに存在しているという事は歴とした事実だからな。何をしようとしていたのかも分からない。くれぐれも油断は大敵だ」


 武杉副会長の言葉を、行方会長が引き継いで言った。


 その言葉を聞きながら、俺は――あの夜ドアを開けて入ってきた、フードを被った不審者の黒い影を思い浮かべていた。

 そして、引っかかる疑問を感じていた。



 ……一体、あの人物は、何の為にこの213号室に入ってきたのだろうか? 合い鍵まで用意して……。


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