表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田中天狼のシリアスな日常  作者: 朽縄咲良
第五章 田中天狼のシリアスな日常・怪奇?編
43/73

田中天狼のシリアスなお泊まり

 埃が付いて、半分曇りガラスの様になっている、部室棟213号室の窓の外は、真っ暗だ。

 蛍光灯も無い部屋の中も、床に直置きした携行用ランタンの周り以外は、重苦しい闇に包まれている。


「矢的先輩、今何時ですか?」


 俺は、時間を確認したくて、隣でバリバリと、3袋目のポテトチップスを食べ続ける矢的先輩に尋ねた。


「う〜ん? ……んだよ、面倒くせぇなぁ」


 矢的先輩は、ブツブツ言いながら、手についた油を舐めて、ポケットからスマホを取り出した。


「えー……と、午後9時42分」

「ありがとうございます」


 ……まだ、それだけしか経ってないのか……。俺は、遅々として進まない時間の流れに絶望した。


 ――何で、こんな事に巻き込まれてしまったのか。

 213号室の安全を証明して、撫子先輩に奇名部の部室にする事を賛成してもらう為、矢的先輩が考え付いたのが、「部室に一日泊まり込んで、心霊現象が起こらない事を確認する」実証実験だった。

 あまりに安直で頭の悪い発案だったが、まあ、それはいい。……矢的先輩一人でやってくれるならば。

 ……何で、俺まで巻き込むんだよ、このバカ!

 ――もちろん俺は、矢的先輩の話を一度は断った。断固として。

 しかし、俺が断ると、矢的(ヤツ)は嫌らしい笑いを浮かべて、こう言ったのだ。


「いやー、オレ一人でもいいんだけどさ〜。折角だから、親睦を深める意味でも、一緒に付き合ってくれたら嬉しいなぁと思ったんだけどさぁ。オレと一緒は嫌って事……? あ、もしかして、実はお前もユーレイが出るんじゃないかってビビってるんじゃないの〜?」


 なんて、撫子先輩や春夏秋冬(ひととせ)、更に生徒会の面子もいる前で言われちまったら、断るに断れないだろうが!


「え? ビビってる? 誰が? ひょっとして俺が? 俺がビビってる、と? アハハハ、面白い冗談ですね。そんな訳ないし! や、やるに決まってるじゃないッスか! ――やってやんよぉぉっ!」


 嗚呼、女子生徒がいる手前、カッコつけてタンカを切ってしまった、あの時の俺を殴りつけたい……。

 怖いに決まってるじゃん! 真っ暗な教室なんて、何もなくても不気味なのに、ここは極め付きの怪談マシマシ、曰く付きの部屋なのだ。

 そんな部屋に、バカ先輩と二人っきりで、ランタン一つしか灯りの無い状態で一泊するとか……頭がおかしくなりそうだ。


「お前は食べないの? ポテチ美味いぞ」


 矢的先輩が、4つ目のポテトチップスの袋に手を伸ばす。……良くこの不気味な状況下で食欲が沸くな……。

 とはいえ、確かに小腹が空いてきたのを感じる。


「じゃ、少しだけいただきます……」

「ほいよー」


 矢的先輩が、開けたポテトチップスの袋を、俺に渡してきた。


「ありがとうございます……」


 俺は、ポテトチップスの袋をまさぐり、2・3枚摘んで口に入れた。

 ――次の瞬間、ソレを思いっきり吐き出した。


「――か、カハっ……辛っ! な、何ですか、コレ!」

「え、コレ? 先週新発売された、『地獄の辛さがクセになる! ハバネロマキシマム味』だけど」

「ふ、ふはへふは(ふざけるな)〜!」


 口の中でダイナマイトが炸裂したかの様な、熱さと痛さを感じた俺は、慌てて目の前のペットボトルを呷り……盛大にむせた。


「痛っ! つか、よりによって炭酸飲料⁉ 口と……喉が……!」


 俺は、のたうち回って苦しむ。


「おいおい、大袈裟だなぁ。ほら、水」


 矢的先輩が、自分のペットボトルを渡してきた。俺は、それをひったくるように受け取ると、ごくごくと飲み干した。


「あ――! お前、オレの水、全部飲んじゃったじゃねえかよ。……しょうがないなぁ」


 矢的先輩は、そう言うと立ち上がった。


「ちょっとオレ、購買の自販機で水を買ってくるわ。その間、留守番してて」

「――――へ?」


 俺が聞き返す暇も無く、矢的先輩は素早く部室のドアを開け、


「じゃーな!」


 と一言言って、照明も消えた廊下へ飛び出していった。


「あ――……ちょっと……」


 呼び止める暇も無く、彼の足音は遠ざかる。

 ――――行ってしまった。

 ………………………………………………………………

 …………………………………………いや、ちょっと待て!

 て事は、俺、この部室に一人っきりじゃん……!

 そう自覚した瞬間、俺の心の中は恐怖でいっぱいになった。


「……………………」


 息を殺して、辺りの気配を窺う。

 ――――静寂。何も聞こえない。落ち武者の唸り声も、女性のすすり泣く声も、歴研部員の呪詛の声も――


 …………カリ……カリカリ……


「!」


 と、突然、崩れた机の山の辺りから、乾いた音が聞こえてきて、俺の心臓は跳ね上がった。


 ……カリカリ……カリ…………


 もう嫌だっ! 俺はガクガク震えながら、ズリズリと後ずさりして出口に向かおうとする。足が震えてしまって、立てなかったからだ。

 音は、まだ断続的に続いている。


 ……カリ……カリカリ…………にゃ~ん――


「て、ネコかよっ!」


 そうだった。すっかり忘れていたが、この部屋には、先住民が居たんだった。

 ランタンを机の山に向けると、満腹になったネコが、満ち足りた顔で毛繕いをしていた……。


「……ま、全く! お……驚かせやがって」


 ホッとして、へたり込む俺。……どっと疲れた。

 と、


 ――コツ……コツ……コツ……


「!」


 今度は、廊下から物音が聞こえた。俺の心臓は、再び早鐘のように鼓動を打ち始める。

 足音のようだが……矢的先輩の足音とは違う気がする。――それに、


「……二人?」


 足音は二人分聞こえた。――しかも、だんだんこちらに近づいてくる!

 俺は、震えながら、できるだけ気配を殺そうと、小さく縮こまる。できる事なら、足音が遠ざかってくれる事を期待しながら……。

 しかし、その願いは天に届かなかった。

 二つの足音は、213号室の前で止まった。磨りガラスの向こう側に、ぼんやりとした黄色い光が浮かんでいるのが見えた。


(――ひ、人魂……?)


 俺の心臓は、ジョジョの効果音の様に、ドドドドドドドドド! と鳴り続ける。

 脳裏に、これまでの人生のハイライトがリバイバル上映されはじめ――、

 そして、部屋の引き戸が、ゆっくりと開いた――!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ