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田中天狼のシリアスな日常  作者: 朽縄咲良
第五章 田中天狼のシリアスな日常・怪奇?編
42/73

撫子先輩のシリアスな抵抗

 「はいはーい! オッケーでーす!」


 武杉副会長の提案に真っ先に賛成したのは、春夏秋冬(ひととせ)だった。


「……絶対、嫌」


 しかし、意外なところから反対の声がドアの向こうから聞こえてきた。

 撫子先輩が、ドアの陰からジトーッとした顔で両手で×マークを作っている。


「え――? 何で~、なでしこセンパ~イ?」


 口を尖らせる春夏秋冬(ひととせ)


「あれ……撫子。君も、ネコがダメだったのかい?」

「……違う。――猫は好きです。……でも」


 隣の行方会長の問いに(かぶり)を振る撫子先輩。でも、何か言いたそうにモジモジしている。


「あ――、そうか! 分かった」


 と、ポンと手を叩いたのは、矢的先輩だった。

 矢的先輩は、ニヤニヤして言った。


「ナデシコ、お前この部室が怖いんだろう? 昔っからお化けとか妖怪とかムリだったもんな、お前」

「…………!」


 撫子先輩は、キッと矢的先輩を睨んだが、部室の中には一歩たりとも入ろうとしない。

 どうやら、当たりらしい。


「あー……そういえば、曰く付きの部室だったんだよね、ココ……忘れてた」


 春夏秋冬(ひととせ)も、そのことを思い出し、気味が悪そうに部室の中を見回す。


「……まあ、一見、そこまでヤバい雰囲気がするって訳でも無いですけど……。『火の無いところに煙は立たず』とも言いますしね……」

「おいおい、どうした、シリウスまで! ユーレイ? 祟り? そんなモンある訳無いじゃあないの!」


 矢的先輩が、強い口調で、ビビる俺たちを叱咤する。


「幽霊も妖怪も祟りも霊障も不可思議現象も、全部人間の思い込みだぜ! 気の持ちようで――」

「フ――――――――ッ!」


 矢的先輩の話を遮ったのは、足元の子猫だった。

 キャットフードが盛られた皿に顔を突っ込んでガツガツ食べていたのに、突然顔を上げ、何も無い虚空に向かって唸り始めたのだ。


「……何だ? どうしたんだ?」

「これは――アレです! 人間より遙かに高い五感を備えたネコが、人間では感知できないモノに対して反応する、っていうアノ現象!」


 目を煌めかせて興奮する黒木さん。


「やっぱり、何か(・・)が居るんですよ、この部室! 凄い~!」

「……黒木くん。オカルトマニアの君が興奮するのも分かるんだが……今の話の流れで、その発言は……」

「あ…………すみません……」


 黒木さんは慌てて謝ったが、もう遅い。

 春夏秋冬(ひととせ)は、一目散に部室から飛び出して、ドアの向こうに身を潜めていたし、撫子先輩に至っては顔を真っ青にして、下り階段の前まで退避していた。


「……て、なにやってんすか、矢的先輩」


 矢的先輩(バカ)はというと、傍らに積まれた段ボールの山に頭から突っ込んでいた、。おいおい、さっきのご大層な心霊現象全否定の大口は何だったんだよ……。


「……い、いや。ちょっと、段ボールの中身が無性に気になってだな……調査したんだよ。――うん、怪しいモノは入っていないようだナ!」

「何それ……苦しすぎる言い訳なんですけど……」


 俺は、深くため息を吐き、武杉副会長に尋ねる。


「俺たちが、この部室を使うかどうかの話は置いといて、この子猫を誰かに引き取ってもらうとか、別の所に移すとかはダメなんですか?」

「……それも考えたんだが、うまくいかなくてな……」


 武杉副会長は、困った顔をして言った。


「どうやら、このネコは、この部室をえらく気に入ってしまったようで、どうしてもここから離れようとしないんだ……。捕まえようとしても、このネコが素早く逃げてしまって、無理だった」

「――で、ネコが出て行かないのなら、ここを俺たち奇名部の部室として宛がってやって、ついでにネコの面倒を見させよう、という事ですか」

「ま、そういう事だね」




 その後、色々侃侃諤々(かんかんがくがく)すったもんだしたのだが、結果的に、俺たち奇名部は、生徒会の提案を受け入れる事にした。

 結局、部の(矢的先輩の邪な思惑を抜きにしても)念願だった部室を手に入れられるという魅力があったし、春夏秋冬(ひととせ)的には、ペット禁止のマンション住まいである彼女が、学校内でとはいえ、子猫が飼えるというのも、抗いがたいメリットだったのだ。


 ――たとえ、この部室が曰くありげな事故物件(疑惑)だったとしても。


 しかし、頑として反対し続ける人が一人――撫子先輩だ。


「幽霊なんていませんよ」

「嘘。だって、あの時、猫が何かに向かって唸ったじゃない」

「あれは――、多分虫か何かが飛んでたから……」

「でも、213号室に心霊的な噂が立っているのは確かでしょ」

「あんなの、よくあるデマですよ……」

「あら、田中くん、『火のない所に煙は立たない』って言ってたわよね?」

「ぐ…………」

「幽霊なんて怖くないって! 死んだヤツより生きてるヤツの方が、生命パワーが強いんだから、あいつらは俺たちに手出しなんか出来ないって!」

「あら? じゃあ、幽霊はやっぱり居るんじゃない」

「いや……居ませんってば、幽霊」

「嘘。だって、あの時――」

 ――――(以下ループ)


 こんな調子で、俺たちと撫子先輩の話し合いは、何を言っても平行線のまま……。

 どうやら、撫子先輩の心霊アレルギーは、かなりの重度のようだ。

 すると、話が進まない事に焦れた矢的先輩が放った一言が、膠着した事態を動かした。


「じゃあさ、『幽霊なんか居ない。祟りなんかも無い』って証明できれば、お前も生徒会の提案に賛成するんだな、ナデシコ!」

「証明なんて出来ないわよ。幽霊も祟りも、絶対にいるし、あるもの」

「…………」

「…………でも、そうね。少なくとも、『213号室に心霊現象は起こらない』ときちんと証明されれば、賛成してもいいわ……それが私の妥協点よ」


 矢的先輩は、その言葉に奮い立った。


「おっしゃ! 分かった! そこんトコ、オレたちがばっちり証明してやんよぉ!」


 そして、今。

 俺たちは、日もとっくに暮れた後の、真っ暗な213号室の片隅で、じっと息を潜めている。この部屋で、『心霊現象的な事象が何も起こらない』という事を証明する為に。


 …………ていうか、どうしてこうなった?

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