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田中天狼のシリアスな日常  作者: 朽縄咲良
第四章 田中天狼のシリアスな日常・奮闘編
34/73

田中天狼のシリアスな文化部対抗“障害物”リレー

 文化部対抗リレー出場者全員による、多数決の結果は――言うまでもなく、種目変更賛成。

 反対は、奇名部部員の俺たちだけだった。


「異議あーり! これは不当な投票である! こんな不合理は許されな――いっ! 断固抗議するぅぅぅっっ!」


 当然、納得できない矢的先輩は、血相を変えて行方会長に詰め寄る。


「矢的っ! 諦めろ! もう決まった事だ!」


 二人の間に割り込んで、矢的先輩を押しとどめる武杉副会長。それを見て、慌てて俺も矢的先輩を止めに入る。


「矢的先輩、落ち着いて! しょうがないですって! 切り替えましょう!」

「ええい、離せぃ、離せえええぃ! 殿中でござる! 殿中でござるぞぉぉぉぉ!」

「……いや、それはどっちかというと、止めてる俺らの台詞です、先輩」


 ……緊迫した雰囲気が一気に崩れた。


「どうした、不満なのか、矢的」


 行方会長が、微笑みを浮かべて、男二人に羽交い締めにされている矢的先輩に話しかけてきた。


「不満も不満じゃないも無いっすよぉ、会長ぉぉぉ!」


 噛みつきそうな勢いで行方会長に詰め寄ろうとする矢的先輩。俺と武杉副会長は、必死で彼を止める。


「あたし達、今日まで一生懸命、リレーの練習をしてきたんです。それなのに、急に種目を変えちゃうって、酷いと思うんですけど!」


 いつの間に近づいてきたのか、春夏秋冬(ひととせ)が、珍しく強い口調で会長に言った。


「――そうだな、確かに酷いかな、私は」


 春夏秋冬(ひととせ)の言葉に、微かに眉を顰める会長。


「でもな、昨日の予選会を観た時に思ってしまったのだよ。――結果が見えててつまらないな……と」

「は――?」

「ぶっちゃけた話、今回の競技変更は、私や先生方やご来賓の皆様の『競ったスリリングな戦いを観たい――』というエゴの結果だという事だ。奇名部(キミたち)には本当に申し訳ない事なのだがね……」

「いや、ひっでえ話だな、そりゃ!」


 矢的先輩が、激高する。その言葉に、気まずそうに目を伏せる副会長。

 だが、行方会長は、ニヤリと笑って首を傾げてみせる。


「――そうだな。でも私は、君が――そして、君が率いる奇名部の諸君は、そんな逆境を跳ね返して、見事優勝して、我々に深い感動を与えてくれるものだと確信しているのだがね」

「え――――? ……あ、ああ、そうなんすか?」

「えと……ま、まあ、それ程の事は……あるケド」


 おいおい……先輩も、春夏秋冬(ひととせ)も、そんなミエミエのお世辞に乗せられるなよ……。にやけてるぞ、顔!


「だって、そうだろ? 撫子がいて、アクアくんがいて、何より君がいる。競技変更くらい物ともしないポテンシャルを、君たちは持っていると思うのだがな――」


 あのー……、会長。一人だけ、名前が挙がってないですけど……。


「それとも、私の買いかぶりだったかな?」

「――分かったよ! 分かりましたよ! その期待、見事応えてやりましょうよぉ!」


 矢的先輩と|春夏秋冬は、目をギラギラと輝かせて叫んだ。


「「やってやんよおおおおおおっ!」」


 ――ああ、完全にノセられちゃったよ、この人たち……。


「そうこなくてはな!」


 そう言って、会長は破顔する。そして、入場門の向こうにいる奇名部の一人に声をかける。


「――で、君も賛成してくれるかな、撫子?」

「――賛成も何も」


 撫子先輩は、穏やかに――それでいて皮肉げに微笑する。


「貴女が、一度決めた事は決して翻す事が無いのを知っていますから。何を言っても、もう無駄でしょう、彩女さん?」

「さすが撫子! 私の性格をよく解ってくれているな!」

「ええ…………、色々(・・)ありましたからね……」


 ――何だろう、色々(・・)って?

 多分、この場に居合わせた人間の多くがそう思ったのだろうが、誰もそれを口にしなかった。

 深くツッコんだらヤバい……そんな雰囲気がプンプンしていた。

 誰だって、命は惜しい。


「――と、いう事だ!」


 行方会長は、大きく声を張り上げる。


「反対していた、奇名部全員の賛成も頂いた! 皆、整列してくれ! 『文化部対抗障害物リレー』を開始するぞ!」


 「おお――っ!」と、その場の全員が、会長の言葉に応える。――――俺以外。

 

 『奇名部全員(・・)』って…………俺だけスルーされてるんすけど(涙)。




 「いや~、災難だったねえ、矢的」


 トラックに並び、スタートの号砲を待つ対抗障害物リレーの第一走者。

 奇名部の第一走者である矢的先輩に、そう嫌みったらしく話しかけてきたのは、写真部の第一走者である十亀部長だった。


「いや、別に。リレーだろうが、障害物リレーだろうがカンケー無いっすよ」


 集中しているのか、前を見据えたまま、素っ気なく答える矢的先輩。


「それに、急に障害物リレーになって対応が難しいのは、他の部も一緒でしょ?」

「まあ、そうだよな……他の部はな(・・)


 十亀部長は、そう言うと、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。


「撮影会、楽しみだなぁ……」

「…………冗談じゃなかったんですか?」

「え? 何の(・・)とは言ってないぞ? フフフフ」

「……そういえば、ちゃんと掃除したっすか?」

「…………何の?」

「写真部の部室ですよ」


 そう言って、矢的先輩は、十亀部長を鋭く睨んで、それからニヤリと微笑った。


「すぐオレたち(奇名部)に引き渡せるよう、荷物をまとめておけよ、スダレロン毛!」

「――――な!?」


 十亀部長が、矢的先輩の言葉に驚いた次の瞬間、


 パ――――ンッ!


 スタートの号砲が、耳をつんざいた。

「やってやんよおおおおおおっ!」は、リアル野球盤(「左で打てや」の時)のS谷選手のイメージです(笑)

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