田中天狼のシリアスな決断
「そこまで嫌なら無理には言わんよ。また新しい候補を探してみるさ。シリウス、お疲れちゃ~ん」
もはや興味無しの顔で、こちらにひらひらと手を振る矢的先輩。
「え~……あの――?」
意想外のリアクションに、拍子抜けしてしまって、何故か戸惑ってしまう。……何だこの気持ち……?
と、それまで黙って事の成り行きを見守っていた撫子先輩が、俺の隣に微笑みかける。
「ところで春夏秋冬さん、あなたはどうするの?」
「――え」
突然声をかけられてびっくりした様子の春夏秋冬。
「いや、そんなのどうするもこうするも、承知するはずないでしょ――」
「貴方には聞いていないわ、田中くん」
「……失礼しました」
微笑みながら向けられた凄まじい殺気にあてられて、直立不動で最敬礼する俺。撫子先輩の背中に浮かび上がったのは、般若か、それともサタンか……怖ぇ~。
春夏秋冬は、目をパチクリさせながら、おずおずと言葉を紡ぐ。
「……正直私は、面白そうだなあ……って、思っちゃったり、して」
「ヒ、ヒトトセさん?」
「……でも、部活に入っちゃうと、シリウスくんと『炎極』の話をする時間が減っちゃいそうで、ちょっと迷ってるんだよね……」
「――――」
春夏秋冬の言葉に、何とも言えない様な困った感情が、俺の胸に去来した。いや、『炎極』バナから解放されるのなら寧ろ望むところなのだが、そんな顔で言われると、実に断りづらい……。
というか、正直、春夏秋冬との時間から解放されても何もする事が……無いんだよなぁ、これが。矢的先輩の言葉が図星で、ムカつく!
「――という事は、シリウスが『奇名組』に入れば、問題は一挙に解決じゃないか? 『奇名組』の活動は何しても自由だからな。部活の時間に何の話をしても無問題だぞ!」
「だってさ、シリウスくん!」
矢的先輩の一言に、目を輝かせる春夏秋冬。
困る。そんな嬉しそうなキラキラの笑顔でそんな事言われちゃうと……揺らぎそう。
「……だってさって言われてもなぁ」
「――単刀直入に言うわね、田中くん」
撫子先輩が言う。
「正直、私たちは貴方自身はいようがいまいがどうでもいいの。あくまでも、貴方の『名前』が欲しいだけなの。もしどうしても『奇名組』の方針に賛同していただけないなら、それでもいいわ。幽霊部員でも構わないから、名前だけ私たちに貸してくれない?」
「撫子……それはさすがに直球過ぎ……」
撫子先輩の、歯に衣着せなさすぎる、ナイフのような切れ味の言葉に、さすがの矢的先輩も引いている。
場を取りなす様に、ゴホンと咳払いをした矢的先輩は、真面目な顔つきで俺に向かって口を開く。
「シリウス、撫子はああ言うけどな。俺はお前の名前だけが欲しいんじゃないぞ。いや、確かに名前は欲しいんだが、お前の為にも言ってるんだ」
矢的先輩はそう言うと、俺につかつかと歩み寄り、言葉を継いだ。
「つるんでればきっと楽しいから。今までみたいに一人でいるよりも。絶対に! それは俺が――『奇名組』部長として保証してやるから!」
「…………」
矢的先輩の眼鏡の奥から輝く目をじっと見据えて、俺は暫し考える。今の状況、そして、これからの高校生活……。
そして溜息を吐きながら言った。
「……はあ、分かりましたよ。入部すればいいんでしょ、入部すれば? まったく、人の事をさんざん言ってくれちゃって――あ、ストップストップ! ハグはいい! やめろ、臭い! やめろ――!」
これで第1章は終わりです!




