チュートリアル
三話目更新です。まだまだ戦闘とかは起こりません。
気づくと榊は草原に立っていた。何処までも広がっていそうなだだっ広い草原に、だ。凄まじいグラフィックに呆然としていると、唐突に誰かの声が響き渡る。
「こんにちは。異邦人様」
「……こんにちは」
その唐突に響いた声に驚きながらも挨拶を返した榊に謎の声は満足そうな響きで頷く。
「良い挨拶です。出会ったら挨拶というのは礼儀の基本ですからね」
挨拶は基本。挨拶しない無礼者は人間ではないとでも言いたげな謎の声。それに少し引いている榊を置いておいて、謎の声は話を進める。
「ここではROのチュートリアルをします。宜しいですか?」
「ああ」
「では、まず異邦人様のゲーム内での名前を設定してもらいます。そのパネルに入力してください」
榊の目の前に半透明なパネルとキーボードが出現する。榊は名前が分かりやすい方が高津と合流しやすいだろうと思い、名前をカタカナにするだけにし、打ち込む。
「サカキ様ですね。……同名の異邦人様がいらっしゃるようですが、問題ありませんか?」
「構わない」
サカキの準備が終わったのを見て、謎の声は次の工程に進める。
「了解しました。では、次に異邦人様の容姿を決定します。オススメは異邦人様の現実の姿を元にすることですね。一から容姿を作ることも可能ですが、これはあまりオススメしません。上手く容姿が作れず変に崩れてしまうことが多いからです。どうされますか?」
素人がグラフィックを一から作ろうとすることなど、不可能に等しい。素人の人で何日間も掛けて容姿を作る人もいるらしいが……それ程時間をかけるのも普通は難しいし、面倒なことだ。だから現実の容姿を元にして作ることができるようになっているのだ。
「俺の容姿を元に作るって……ああ。だから頭をすっぽり覆う機器が存在するのか」
「はい。その機器……名称はそのままヘッドギアと言うのですが、それで読み取らせて頂いています」
あのギアで顔のパーツを読み取れるのか、ハイテクだなと感心している榊。それに謎の声は得意になりながらチュートリアルを続ける。
「それで、どうされますか?」
「じゃあ、現実の容姿を元にする方向で頼む」
「了解しました。では、どうぞ」
サカキの現実の容姿が浮かび出された。短髪の黒髪に黒目という至って普通の容姿だ。髪色はそのまま、眼の色を紅く変更して、背を少し低くし……と様々なことを試していき、ある程度弄った所で完了ボタンをサカキは押した。紅い光彩を持つ、短髪黒髪の少し女っぽい男になった。元々サカキは少しばかり女っぽい見た目で、それを若干コンプレックスにしていたので修正しようとしたが結局上手くいかなかった形だ。
「それで完了ですか?」
「ああ」
「それでは、次に性別を教えてください。異邦人様と違う性別を選択することも可能ですが、現実に影響が出る場合がありますのでご了承ください。出た場合は此方は責任を一切負うことがありません。なお、性別決定後はこれに同意したとみなします」
「勿論、男で」
性別をサカキは勿論男なので男としたが、稀に男なのに女を選択する阿呆がいるらしい。所謂ネカマ、と呼ばれるプレイだ。しかし、今までのMMOとは違い、ROはVRMMOだ。現実との差異に精神が病んでしまうという事例が実際に起こったことがある。
「了解しました。では、職業の決定に移ります」
今度はサカキの目の前に半透明な一覧表が現れる。職業の一覧表だ。
「職業は様々なタイプがありますが、ほぼ全ての職業に職業レベルというものが存在します。それが上がることによってより上位の職業に進化したり新たな職業固有のスキルを獲得したりするわけですね。なお、職業は特殊な条件を満たすことで後から変更可能です」
「へぇ……沢山あるんだな……」
サカキが表をスクロールすると、騎士や暗殺者。戦士、術師、執事など様々な一次職業が並んでいた。
「暗殺者とか厨二病くさいが、騎士って柄でもないしな……」
紅い光彩だと暗殺者が合いそうだな、となんとなく思ったサカキは結局暗殺者を選択ボタンを押した。
「暗殺者で宜しいですか?」
「それでいいかな」
「では、初期装備を選んでください。職業が暗殺者なので、ナイフや短刀などが宜しいかと」
装備一覧が半透明な一覧表として再びサカキの前に現れる。それは長刀、長槍、ヌンチャクなどの武具表と体全体を覆う鎧や、黒いローブなどの防具(服装)表に分かれていた。そして、武具表には可愛らしい文字で職業によるオススメ!とありナイフやクナイなどが記述されていた。
「じゃあ……ヒ首で。あと服装は黒い漢服がいいかな」
サカキはナイフや短刀のようなオススメの中にある王道風のものではなく、同じくオススメの中にあるがイマイチ印象の薄いヒ首と、ヒ首は荊軻という中国の偉人が使っていたという知識から武具に合わせるために中華風の衣装を選んだ。
「了解しました。じゃあ、最後に異邦人様に支給されるアイテム類の説明に移ります。まず、一つ目は低級回復薬。これはHPを少し回復してくれる薬のようなものです。次に金貨10枚。金貨1枚が銀貨100枚。銀貨1枚が銅貨100枚が基本レートになるかな。レートは基本的に固定されているよ。ええと、何の変哲もないパン一つで銅貨5枚かな。ちなみに金貨の上は古代金貨ね。古代金貨1枚で金貨50枚ぐらいかな」
「金貨を10枚もくれるのか。太っ腹だな」
驚くサカキに謎の声は調子を良くしながらサカキの目の前に腰につける茶色のバッグのような物を出して説明を続ける。
「いやいや、まだまだ此処からですよ。俗に言うアイテムボックスも異邦人様にプレゼントすることになってるんです。そのアイテムボックスはゲーム内でも買えますが、最初にプレゼントするのは高性能なアイテムボックスですから。無限とは言いませんが、かなりの量が入ります。耐久度があるので気をつけてくださいね」
「へえ……耐久度が全部無くなると中のアイテムはどうなるんだ?」
「運が良ければその場に散らばりますが、運が悪いと全てロストなんてこともあります。アイテムボックスは圧縮された異空間ですから、それが破壊されるとアイテムも巻き込まれることもあるんです」
そう、アイテムボックスは沢山物を収納できるように作られている魔法のバッグ。広い空間を圧縮に圧縮を加えて圧縮し作られているモノであるが為に、破損したらその空間は消失してしまう。
その消失に巻き込まれて全てのアイテムをロストするということは良くあることなのだ。その為にサカキは知らないことだがギルドハウスや自分だけの家を買ってそこに別のアイテムボックスを置いて収納したり、各国に属さない中立銀行に預けたりなどができるようになっている。
「それは怖いな。耐久度はちゃんと確認しておけってことか」
「はい。では、所属する国の確認に移ります。こちらをご覧ください」
サカキの前にこれから行く世界の地図が表示される。これから行く世界といっても、現実世界の地図とほぼ同じなのだが。ROの世界は現実の世界をある程度小さくしたものである為だ。
「これ、地図には国が表示されてない地域があるけど……」
「ああ、それですか。それは異邦人様が建てた国や、人の住めない地域などです」
異邦人が建てた国。つまり、プレイヤーも国を建てることが可能ということ。冒険するだけでなく、国すらも建てることがができるという事実にサカキは戦慄する。予想を遥かに上回るその自由度に。
「自由度が凄いって聞いていたが、建国すらできるのか。それは凄いな」
「はい、特定の条件を満たせば建国や革命などを起こすことができます」
「それで、どこに所属されるか決まりましたか?」
サカキは元々所属する国は決めてあった為、迷うことなく答える。
「ああ。古エリシャ王国で頼む」
「了解しました。これでチュートリアルは以上となります。スキルなどはあちらに転送されてから決定してください。では、良い旅路を!」
その言葉を最後に、サカキの視界は闇に染まった。
次の更新は明日です。
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