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セミの鳴く頃に  作者: 水無月
4/4

夏休み、始まり3

「ご飯できたよ」

「はーい」



呼ぶとすぐ返事が返ってきて、食卓に座った。麺についていたタレを掛けて冷やし中華を目の前に置く。


「「いただきます。」」


今日あったばかりの女の子に手料理を振る舞い、食卓を共にするなんておかしな状況だが、美味しそうに食べる彼女をみて不思議と満足した。二人共お腹がすいていたこともあり、ペロリと平らげた。




「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」


二人分の皿を下げ洗おうとしたところ「作らせちゃったから」と皿洗いを引き受けてくれた。そんな彼女の後ろ姿をみながら、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。




「見知らぬ男と二人同じ屋根の下って嫌じゃなかったの?」

「そうね、二人同じ屋根の下っていうのは気になったけど、私にとっては別に見知らぬ男の子でもないし、別にどうってことないわよ。誠はどうせ私のこと襲う度胸もないんだろうし」

「襲っちゃうかもよ?」

「きもい」

中二男子の精いっぱいの見栄を見せたものの、きもいと切り捨てられる。ちょっと傷ついたかも。

「冗談だよ。きもいとか普通に傷つくわ。まあこれから一ヶ月よろしくお願いします」

「うん。よろしく」



軽く挨拶をかわしたものの緊張のせいか次の話題が出る事もなく、彼女は洗い物を終え、テレビを見にソファに座ったので会話が途切れた。なんとも気まずい空間である。

幼い頃、何度か会ったことがあると言われてもピンと来ない。それに加え、中二の今の時期になっても友達のできない俺が上手にほぼ初対面の女の子と会話ができるわけがない。そんな言い訳を心の中でしていた。ふと、庭で絵を描こうと思っていたことを思い出した。そして、俺は逃げるようにリビングを後にした。





 外に出てみると朝とは比べ物にならないくらいの暑さになっていた。セミが今日もうるさく鳴いている。日照りが強いのでビーチ用のパラソルをなんとか差し、絵描きを始める。


のどかで変哲もない風景と夏っぽさ、それと気分で水彩絵具を使うことにした。まだ真っ白いキャンパスに筆を初めて入れる瞬間は、緊張と期待が渦巻く。

色を重ね徐々に彩られていく過程に胸が高鳴り、頬が緩む。それでも手が止まらない。そこにある風景を閉じ込めて作品に命を込める。あぁやっぱり絵を描くのは楽しいな。




 気づくと二時間ほど経ち、汗が全身から吹き出ていた。絵は完成した。我ながらよくかけている。自画自賛をしていると視線を感じた。唯である。彼女はソファに座りながらリビングで涼しそうに庭が一望できる窓から俺を興味深そうにみていた。

目が合い、彼女が微笑みながら手を振った。その姿が向日葵のように輝いて見えて思わず目をそらした。ずっと見ていたいけども目が合うと恥ずかしくて目をそらしてしまう。

もう一度みてみると、無視されたと勘違いをして悲しそうにしている姿が見えたので、顔から火が出るような感覚を我慢しながら手を振り返した。セミは飽きることもなく泣き続けていた。









 「絵なんて掛けたんだねー。上手くてびっくりした」



汗をかいた身体を洗い流すために風呂に入り、出てきた後に言われた。もちろん、服は着ている。彼女は「へぇ、よくかけてる」なんて言いながら、さっきからずっと絵を見つめていた。

「唯一の趣味なんだ。これが」

「へぇ、上手いわけだ。将来は画家かな」

「俺ぐらいのレベルならゴロゴロいるよ。プロになったってろくに飯も食えやしない」

「ふーん。残念。こんなに上手いのに」

「ありがとう。数こなせば君だってこれくらい描けるようになるよ」

すると、彼女はいたずらっぽく笑った。

「まず、数をこなせないから無理かな。それに絵を描いている誠の姿を見ていた方が楽しいかな」

「もしかして、ずっとみてたりした?」

「ずっとではないけど、見てたよ。楽しそうに絵を描いてる姿」


顔が赤くなる。彼女も少し顔が赤くなっている気がする。いや、これは罠だ。平静を保て、勘違いをすると昔からロクなことがない。平然を装いながら俺はこう言い返すしかなかった。




「そりゃどうも」


次は6/11にでも投稿しようと思います。

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