第1話
彼の日課は早朝と夕方のランニングだ。
散歩と称して一緒に走っていて分かったのは
彼が必要以上に運動をすることだ。
太っていたら分かるが、彼は平均より痩せていて且つ、
当直後のどんなに疲れている時でも走ることを欠かさない。
“なぜ、そんなに無理して走るのだ?”と問いかけても
「健康にいいから。継続しないとね」と彼は笑っていたが、
顔に影ができていたので何か理由があるらしい。
まだ信用してくれないと分かってとても悲しくなった。
朝昼晩きちんと食事をとっている彼が
ダイエットをしているとは考えにくいが、
そこまで彼を駆り立てるものがどこにあるのだろうか。
彼と生活を始めて約1年。
彼の生活が崩れてきた。体を動かすたび痛そうに顔を顰める。
彼に何度尋ねても
「弓月、大丈夫だよ。どこも悪くないよ」と話を逸らされる。
毎日の行動を共にすれば
いやでも彼が大量の薬を飲むのを目にするし、
何か大きな病気にかかっているのではないかと
心配してもどうしようもない。
私はしょせん狼で人の病気に詳しくないのだから。
体を動かすのがつらいのにも関わらず
いまだに日課であるランニングを彼は行っている。
彼の体はどうなってしまうのだろうか。
私は彼が務めている病院に忍び込むことを決めた。
勤務後にその病院で診察を受けているらしく、
最近は病院から帰ってくるのが遅い。
だから病院に忍び込めば何かわかるかも知れないと私は考えた。
愛育総合病院では毎週月曜日に
入院患者のためのアニマルセラピーを行っている。
そこに紛れ込めば目立たないはずだ。
彼も小児科医として
アニマルセラピーの現場に来るだろうから何とかなるだろう。
たまに意地悪をしてくる彼を驚かすことを楽しみながら、
そして彼の体調が良くなることを祈りながら
日曜の夜こっそり彼のベッドに潜り込んでだ。
うなされる彼を
“大丈夫だよ、きっと良くなる”と抱きしめた。
穏やかな表情で眠った彼の耳元で
“明日を楽しみに…”と呟いて眠気に身を任せた。