プロローグ
吾輩は犬である。正確には黒銀の毛並みを持つ狼なのだが、
今から100年近く前に犬として人間に飼われていたことがある。
皆が思っているように人間は怖くて醜いだけではないのだ。
今から暖かい人間と私の物語を話そう。
「主さまが人間なんかに飼われていたなんて嘘だぁぁ…!!!
主さまはこのGremlinを守る尊いお方で、
人間は俺たちをいつも狩ろうとしている化け物じゃないか!?」
「ジェダイド、落ち着きなさい。主さまは嘘など申しません。
落ち着いてお話を聞きましょう。」
「うん、フローライト。でも、
いつも俺たちを狙ってる人間が優しいなんて信じられなくて…」
「フローライトの言うとおりだぞ、ジェダイド。
われらの中にも、悪い奴といい奴がいるように
人間の中にもいい人はいるんだろう。」
「うん、オニキス。わかった、最後までしっかり聞く。」
あの頃の私はなんの力もない唯の狼で、
密猟者に狙われ重傷を負っていた。
私は狼の中でも人間たちの間では
絶滅とされている種だったらしく、
密輸して高く売りだそうとしていたらしい。
密猟者から逃げている間に暗い顔をした一人の人間に出会った。
どこを歩いているかもわかってないような
朦朧とした表情でさまよっている男で
普段は気にしないで逃げるだろうが、
どうしても放っておけなかったのだ。
今思うとあの人の温かい何かに惹かれたんだろう。
暗い表情のあの人に“大丈夫か?”と声掛けながら寄り添うと、
あの人は驚きながらも、私の応急手当てをしてくれた。
医者として、傷付いた私を放っておけなかったらしい。
「大丈夫かい、君!?」 “触るな!!”
私のことを心配してし、
怪我に手を伸ばした彼をつい威嚇してしまった。
「大丈夫、落ち着いて。君のことを直してあげるから。」
彼の手当てと手厚い看護のおかげで私の怪我はだいぶ回復した。
しかし、彼があのときしていた表情が気になって
どうしても彼から離れられないでいた。
「もう、森へお帰り」
という彼に逆らって、彼を抱きしめ唇にキスをした。
“一緒にいて”と“私が守るから”という思いを込めながら。
そうして私は彼の家でペット【弓月】として
飼われることになったのである。
彼との合同生活は思った以上に快適だった。
彼の温かい手に撫でられると
不思議な力があるのかと思うくらい気持ちよく、
すぐに眠ってしまう。まるで赤子のように。
優しく、前向きな彼が
なぜ彷徨っていたのだろうと考えながらも、
彼からは何も出ずあの瞬間まで分かることはなかった。
もっと早く言ってくれれば…
私も何か出来たかも知れないのにといまだに後悔をしている。