空を舞う鳥の色は
「あー」
朝になって、ベッドから起き上がった私は伸びをしました。
私、ぼーっとしていると良く言われますので、意外に思われるかもしれませんが、基本、早寝早起きなんです。ですから、朝はすっきりと起きられます!でも、あまりに早く起きて、一階に降りて行きますと、使用人さんたちに驚かれますので、起きても、しばらく部屋でじっとしています。
とりあえず、着替えることにします。
そして、最近、欠かせないのが、鏡の前での体型チェックです!
パンパン、まるまるだった私の顔もウエストも引き締まり、今では見事なくびれが出来てます!完璧なボディに仕上がったのではないでしょうか?!・・・あっ、自分で何を言ってるんでしょうか?!調子に乗って、申し訳ありません!
とにかく、この体型を『魔法学園』卒業までキープしたいものですね!・・・長い。
アンバー公爵様は未だ職場復帰はしていません。
ですが、一時期、酷く痩せ、顔色も悪かった状態からはずいぶんと良くなり、私たちがアンバー公爵家にお邪魔した時は、庭に来て、私たちが『のらさん』たちと遊んでいる様子を眺めています。
それから、私にはカルゼナール王国の歴史のお話を、ルークには騎士団団長だった御祖父様のお話を、そして、シュナイダー様とリバーには五大公爵としての心得をお話して下さいます。
アンバー公爵様のお話は長いと言えば長いのですが、とても興味深い内容ですし、楽しいのです。
「お父様、いってらっしゃい」
母と双子が王城へと向かう父を見送ります。
父は皆を抱きしめてから、出掛けて行きました。
最近、父はとてもお疲れの様子です。
アンバー公爵様がいない穴を埋めようと毎日頑張っているからでしょう。
五大公爵は職務を全うすることが不可能だと国王陛下が判断されるまでは、その座を離れることはありません。
それに皆様がアンバー公爵様の職場復帰を信じて疑わない訳ですから、今は空席にしているだけなのです。
ルークから聞いた話によると、どうも王城内では不穏な動きがあるようです。
アンバー公爵家はカーライル公爵家や他の五大公爵家とは違い、昔からずっと公爵の地位にありました。王族と婚姻に至ったケースも一番多く、どんな貴族からも認められる由緒ある公爵家なのです。
そして、現アンバー公爵様は特に周りの方に尊敬され、信頼を集めているのです。
ですから、他の五大公爵家に不満がある貴族も、今まではアンバー公爵様が間に入れば、誰しもがそれを抑えてくれましたが、アンバー公爵様の不在のせいで、不満が膨れ上がるばかりなのだそうです。
特に不満の矛先となるのは元は男爵家でしかなく、ここ何代か、魔力量が低い方が跡を継いでいる、ダンレストン公爵家です。
おまけにここへ来て、サラ姉様とジャスティン殿下の結婚を反対する声が上がるようになってしまったのです。
それに腹を立てたサラ姉様のお父様がさる貴族の方に不用意な発言をし、それがあっという間に皆の知るところとなり、更に不満を煽る結果になってしまったのです。
これに関しては、私の父がサラ姉様のお父様を厳しく叱責しました。それで何とか治めてもらえないかと、ダンレストン公爵様からさる貴族の方に謝罪をしました。
実は私の父であるカーライル公爵からの厳しい叱責は何よりの罰だと恐れている方が多いらしいのです。
ともかく、それで一応、治まったとのことですが・・・もちろん、安心出来ません。
何故こんなことになってしまったのでしょうか。
サラ姉様程、ジャスティン殿下の正妃としても、将来の王妃様としても相応しい方はいません。なのに・・・。
それに五大公爵である皆様は立派な方です。王族の盾としての役目を全うしようとしているだけで、権力をひけらかして、偉ぶってなんかいません。不満を持たれるいわれはないはずです。
・・・私は最近こんなことを考え、憂鬱になるばかりです。
自分には何も出来ないし、将来、リバーがこんな苦労をしなければならないと思うと余計に憂鬱になります。
「池の掃除をして来ます」
昼食を終えた私がそう言いますと、
「ちゃんと帽子を被るんですよ。手袋も忘れないでね。レディが日焼けするなんて以っての外ですよ」
と、母が言いました。
「はい」
もちろん、母の言い付けは守りますよ?
・・・それにしても、最近、母が何かにつけ、レディはこうあるべきですよ。なんてことを良く言うようになりました。何故でしょう?
はっ!私がレディらしくないからですよね!気をつけます!
私、めだかさんにお話しながら、餌やりや池の掃除をします。初めは使用人の皆さんに怖がられていましたが、今では慣れてしまったようですし、中にはめだかさんに話をして下さる方もいます。めだかさんも嬉しく思っていることでしょう。
掃除を終えた私は気持ち良さそうに泳ぐめだかさんを見つめながら、レオ様のことを思います。
レオ様は王城で起こっている事を知っているのでしょうか。余計な心配を掛けたくないからと誰も知らせていないかもしれません。
私もローズマリー様との時間を邪魔してはならないと手紙を出すのを控えていました。・・・私の手紙は分厚いですからね。
レオ様の誕生日まではまだ2ヶ月近くあります。
それに、もしかしたら、レオ様はローズマリー様と離れたくないからと、日を延ばすかもしれません。
「はー・・・」
私は溜め息をつくと、体を丸めて、膝に額をつけました。
しばらくそうしていましたが、頭上に何やら気配を感じて、
「?」
何だろうと思い、私は顔を上げました。
すると、銀色の鳥さんが空を舞っていたのです。




