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お見舞い

 アンバー公爵様が倒れてから、1ヶ月が経ちました。


「のらさん!」

 

「わぉん!」


 『のらさん』が走って来て、私に飛びつきました。

「久しぶりね!」

「くぅーん」

 『のらさん』は私に体を擦り寄せて来ました。

 今日はアンバー公爵家に遊びに来ています。

「カサンドラ様。リバー」

 2匹の大型犬さんと一緒にシュナイダー様が歩いて来ました。「来て下さってありがとうございます」

 シュナイダー様と会うのも1ヶ月振りです。

 アンバー公爵様は倒れた後、自宅療養を続けており、職場復帰はしていません。

 アンバー公爵様が暇をしているから、遊びに来てくれないかと誘われたのです。

「礼なんかいいんだよ。キャスもお会いしたがっていたし、具合はどう?」

 と、リバーが聞くと、シュナイダー様はほんの少し表情を曇らせて、

「ずいぶん痩せました。本人も気にしているようなので、あまり驚かないようにしていただけると有り難いです」

 私は無理に笑顔を作りますと、

「私、アンバー公爵様に聞きたいお話がたくさんあるんです!」

 シュナイダー様は私を見て、

「祖父はその為に勉強をしていたくらいなんですよ」

「楽しみです!」

 と、私が言いますと、シュナイダー様は目に見えて表情を緩めました。


 シュナイダー様のご両親や御祖母様に挨拶をしてから、私とリバーはシュナイダー様に連れられ、アンバー公爵様のお部屋に向かいました。

 ある部屋の前に来ると、シュナイダー様はドアをノックして、

「御祖父様。カサンドラ様とリバーが来て下さいましたよ」

「おお・・・入りなさい」

 アンバー公爵様の声がしました。思ったより元気そうです。

 シュナイダー様がドアを開きました。

 ベッドのヘッドボードにもたれて座っているアンバー公爵様の姿が見えました。

 「・・・」

 驚かない様に言われていましたが、私は思わず、息を飲んでしまいました。リバーも同じです。

 アンバー公爵様は先々月の交流会の時に比べるとずいぶん痩せて、顔色も悪いのです。

「こんにちは。ご無沙汰して、申し訳ありません」

 先にリバーが我に返って、挨拶しました。

 私も笑顔を見せて、

「こんにちは。アンバー公爵様のお話を楽しみにして来たんですよ」

 と、言いますと、アンバー公爵様は頬を緩めて、

「私も楽しみにしておったぞ。さあ、こちらに来なさい」

「はい」

 私とリバーはアンバー公爵様の側に来ますと、「あれ・・・」

 サイドテーブルの上に置いてある便箋に目が向きました。この字は・・・。

「ああ・・・レオンハルト殿下からだ。全く、誰が知らせたんだか・・・心配して下さったようで、手紙を送って来られたんだ」

 私の目線を追ったアンバー公爵様が言いました。

「レオ様って、酷い筆不精なのに、アンバー公爵様には違うんですね!」

 と、私はつい腹立たしげな声を上げてしまいました。

 だって、便箋いっぱいに書かれてますよ!扱いが違い過ぎます!

 「殿下が筆不精・・・?」

 と、シュナイダー様が首を傾げます。

「そうだよ。キャスなんて馬鹿みたいに分厚い手紙を定期的に送ってるのに、レオ様の返事なんて、たった三行くらいだよ」

 と、リバーが言いました。

「馬鹿みたいって、失礼ね!だいたいあれは三行にもならないわ!」

 と、私がぷりぷりしてますと、アンバー公爵様が私の手を取って、

「まあまあ。そう怒りなさんな。可愛らしい顔が台なしになるよ。さあ、座りなさい」

「は、はい。申し訳ありません」

 私は赤くなりながら、謝りますと、椅子に座りました。


 リバーとシュナイダー様がお部屋から出た後は、私はアンバー公爵様からカルゼナール王国の歴史の話を聞いていました。

「では、その後は蘇生魔法が使われた事はないんですね」

「ああ。元々蘇生魔法は神を冒涜する禁忌の魔法と言われていたからね。・・・ここだけの話だが、呪文が書かれた巻物は王城のどこかに隠されているらしい」

「うわあ。おとぎ話みたいですね!一体どこにあるんでしょう!」

「前にレオンハルト殿下とシュナイダーが探しに行ったことがあったなあ・・・」

「レオ様とシュナイダー様が?意外です!」

 アンバー公爵様はくすりと笑うと、

「シュナイダーはレオンハルト殿下に引っ張られて、無理矢理だったが、なんだかんだで楽しそうだったな」

「へえー・・・私も一緒に探してみたかったです!」

「ああいうのは男のロマンだから、レディは邪魔になるらしいぞ」

「えー。除け者ですかあ?」

 私は不満げに言いました。

 アンバー公爵様はまた笑いますと、

「君には本当に感謝しているよ」

「はい?」

「シュナイダーはけして多いわけではないが、感情を表に出せるようになったのは君と会うようになってからだと思うんだ。・・・それに以前は私の話を聞いているだけだったのに、自分から話をしてくれるようになった。君の話も良くしてくれる。『落とし穴』は傑作だったぞ」

「?!」

 ぎゃー!もう忘れてたのにー!

 私が真っ赤になってますと、

「これからもシュナイダーやレオンハルト殿下と仲良くしてやって欲しい」

「はい。もちろんです。それに、私の方が頭を下げて、お願いしたいくらいですよ」

 アンバー公爵様は目を細めると、

「今日はありがとう。とても楽しかった」

「私もです。また来てもいいですか?まだまだたくさん聞きたいお話がありますもの」

「もちろん」

「早く元気になって下さいね。父もまだまだアンバー公爵様を頼りにしてるんですから」

 すると、アンバー公爵様は首を振って、

「カーライルは私が導く必要はない。父親に負けないくらい素晴らしい五大公爵となった。これからは若いカーライルが引っ張って行くべきだ」

 私は首を振りますと、

「そんなことありません。それに、シュナイダー様だって、まだまだアンバー公爵様にお話したいことがあるはずです。レオ様だって、2年の間の話とか、これからのこととか聞いて欲しいはずです。アンバー公爵様からの助言だって・・・」

「・・・」

 アンバー公爵様は困ったような顔をしています。私が今にも泣きそうだからです。

 泣いてはだめです!

 すると、アンバー公爵様はどきっとする程細くなった腕を伸ばして、私の頭を撫でると、

「大丈夫。私はまだまだ死にはせんよ」

 と、言いましたので、

「あ、当たり前ですー・・・」

 ・・・私は結局、泣いてしまいました。


 この日以降、私たち双子とルークはアンバー公爵家に集まるようになりました。




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