悪役令嬢、いじける
「キャスちゃん、絵が下手ー」
クリス殿下がきゃっきゃ笑いながら言いました。
・・・意外に遠慮がないですね。さすがレオ様の弟君です。
私はクリス殿下とお絵かきをして、遊んでます。
「クリス。失礼なことを言わないの」
と、シーア様が注意しましたが、クリス殿下が私の描いた絵を皆に見せて、
「ほらー。下手でしょう?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
シーア様、シュナイダー様、ルークが固まります。
ちなみに優秀なリバーですが、絵は私とそう変わらない腕前なので、そっと目を反らしました。・・・見てられませんよね!分かります!
「カサンドラ様、それは岩ですか?」
と、ルークが、
「お魚さんじゃないかしら」
と、シーア様が、
「『のらさん』ではないのですか?」
と、シュナイダー様が言いました。
「違うよー」
クリス殿下はまたきゃっきゃと笑います。
「リバーは分かる?」
と、ルークが聞きましたので、リバーは絵から目を反らしたまま・・・。
「クリス殿下のお顔でしょう?」
「正解!」
「えっ!クリス殿下?!」
私のとんでもない絵がクリス殿下のお顔だと知った皆さんは驚きましたが、それ以上にクリス殿下だと分かったリバーに対する驚きの方が大きいようで、
「凄いわ。やっぱり双子ですね」
シーア様は非常に感心しているようですが・・・。
「あ、あはは、は・・・」
リバーはぎこちなく笑いました。
・・・シーア様には申し訳ありませんが、感心されても、私とリバーは嬉しくありません。何故なら、リバーが描いても同じ様になるから、分かるだけのことなんです。
それにしても、何故、私とリバーは芸術的才能が全くないのでしょうか。ひど過ぎます。
まあ、絵の腕前はさておき、私はシュナイダー様とシーア様が話をしているところをちらりと見ました。
あの誕生日パーティーから、普通に会話が出来るようになったのではないかと思います。
シーア様はシュナイダー様に対して、礼儀正しい態度に距離を取ることを心掛けています。
マイナスからのスタートだから、先は長いと思うけど、まずは普通のいとこ同士に戻れるように頑張るわ。と、シーア様はおっしゃいました。
意外にガッツがあるのですね。尊敬します。
そんなお二人ですが、読書や音楽の趣味が合うんですよね。
本はお二人とも冒険物が好きです。
・・・私、冒険物より、カルゼナールの歴史を知ることが楽しくて仕方ないです。そして、その歴史から妄想を膨らまることが更に楽しいのです。
音楽はシュナイダー様は演奏はしませんが、聴くことは好きなので、色んな楽曲を知っています。ですから、ピアノが得意なシーア様と作曲家についての話を良くしています。
・・・私、ちんぷんかんぷんです。ピアノも弾けません。
加えて、お二人とも乗馬好きです。シーア様は意外に活発な方なんです。
・・・私、馬さんに餌をあげようとしたら、頭を食べられそうになって、馬さんの涎だらけになったり、リバーのポニーさんに追いかけ回されたりされ、そのせいで、馬さん恐怖症になり、乗馬は諦めました。
当然ながら、こんな私とシュナイダー様は趣味が合いません。
逆にシーア様とは合います。私が協力しなくても、お二人は上手く行くかもしれません。だいたい私が協力したら、逆にまとまるものもまとまらなくなりそうです。
それから、私はチェスをしているリバーとルークを見ます。
私の可愛い弟はあの色気があれば、どんな女性もイチコロでしょう。長めの前髪をかき上げる仕草が堪らんです。はい。
ルークだって、初恋の方もいますし、もし、ダメでも、愛嬌がありますから、レオ様馬鹿を全面に押し出したりしなければ、良い人と巡り会えるはずです。保証しますよ!ルーク!
そして、レオ様はヒロインと結ばれ・・・。
もしかしなくても、この中で私だけがひとりぼっちになるのではないでしょうか?!
あーあ。空しくなって来ました。酸っぱさ強めのレモネードを一杯キューッ。と、やりたくなります。
すると、
「キャスちゃん、鳥さんの絵を描いて?」
と、クリス殿下がこてんと首を傾げながら言いました。
ぐはっ!いちいち可愛いです!
「でも、私が鳥さんを描いても、ちっともそれらしくなりませんが・・・」
と、私が言いますと、クリス殿下はにっこり笑って、
「面白ければ何でもいいの!」
私、複雑な気持ちになりましたが、
「分かりました!鳥さん、馬さん、何でもあれです!」
こうなったら、とことん描いてやろうじゃないですか!
ついでにクリス殿下に練習台になってもらいましょう!将来の甥っ子、姪っ子に好かれるおば様になる為に!
その後、皆さんが帰られて、
「ぷはーっ!」
お仕事帰りのサラリーマンさんがビールを飲み干すように、腰に手を当て、酸っぱくしたレモネードを飲み干しました(椅子には座ってます)。
「キャス。行儀悪いよ」
と、リバーが注意します。
「今だけ許して・・・」
リバーは眉を上げて、
「どうしたの?絵を描きすぎて疲れた?」
「そ、そりゃね・・・」
あれからいくつ絵を描いたものやら・・・クリス殿下はおなかを抱えて、げらげら笑ってました・・・絶対、レオ様に性格が似ているに違いないです!
「クリス殿下、コレクションにするって言ってたじゃないか。良かったね」
「良くないわよ。帰って来たレオ様に散々馬鹿にされて、笑われるに決まってる!」
「まあ、頑張って。僕にお鉢が回って来ないようにしてね」
リバーは笑いながら、ダイニングルームから出て行きました。
このー!腹黒さんめー!
「はー・・・」
人生とは空しいものです。
皆が幸せになるのはいいですが、私は所詮ひとりぼっちです。ちぇっ。
私がいじいじとグラスの水滴を指でつついたりしていると、
「お嬢様」
執事のタリスさんがやって来て、「レオンハルト殿下からお手紙が届きましたよ」
「ありがとうございます」
私は笑みを見せて、タリスさんから手紙を受け取りました。
ですが・・・。
「はー・・・」
レオ様の手紙なんか読んでも、何の気分転換にもなりませんよ。
どうせ、私は元気に稽古に励んでるぞ。くらいしか書いてないんですからね。ちぇっ。
それでも、私は部屋に戻ってから、レオ様からの手紙を開封しました。
すると、パッと見て、いつもより文章が多いことに気付きました!レオ様もやれば出来るではないですか!
「なになに・・・」
私はレオ様からの手紙を読んで・・・。
「ぎゃあああああっ!」
た、大変ですっ!




