悪役令嬢、将来を考える
カサンドラ・ロクサーヌ、13歳になりました!
いやー、早いものですね。12歳は魔法が使えるようになったり、王城へお邪魔させていただくと言う経験をしましたが、11歳時に色んなことがあったせいか、それに比べると、あっという間でしたね。
忘れてはいけないことと言えば、レオ様ですよね。ぼーっとしている私でも、さすがに忘れませんよ。
レオ様はルークの御祖父様の元にいるのは13歳の誕生日までと決めているらしいのですが、レオ様は私たちの中で一番誕生日が遅いので、帰って来るまで、まだ半年近くあります。長いですねー。
長いですが、レオ様からの手紙は恐ろしいほど短いです。朝から晩まで稽古をしているわけではないでしょうに、もうちょっと頑張って欲しいものです。
そんな私は、今、サラ姉様に手紙を書いています。
サラ姉様とジャスティン殿下は『魔法学園』に入学しました。
学業優先と言うことで、五大公爵家の交流会は出たり、出なかったりです。特に一番遠いカーライル家主催の交流会には来れなくなりました。
ですから、サラ姉様にはあまり会えなくなりました。寂しいです。うっ。
でも、卒業したら、多分、すぐに結婚されるのではないかと思いますので、更に会えなくなるかもしれません。お妃様修業があるらしいですからね。結婚式の準備も大変らしいですし・・・うっ。ううっ。ジャスティン殿下が恨めしいです。・・・内緒です。
そんなサラ姉様には心配事があります。もちろん、ジャスティン殿下の浮気を疑っているわけではないです。
ダンレストン公爵家で直系の子孫はサラ姉様、次期公爵のサラ姉様のお父様だけです。ですから、次の次の五大公爵は直系ではない親族から選ばなければなりません。そうなると、魔力量に不安が出て来ます。
五大公爵は最低でも、魔力量が一万はなくてはならないそうですが、ダンレストン家の親族の中にそれに届く方がいないそうなのです。
それがサラ姉様の心配事です。五大公爵だけでなく、その家族も、自分のことだけを考えるわけにはいかないのです。まあ、貴族として生まれれば、当然のことですが。
私の父にその話を聞いてみると、父はやや深刻な表情になって、ダンレストン公爵家はここ100年の間に魔力量が下がる一方なのだと言いました。サラ姉様も高い方ではありません。
魔力量が低い人間は五大公爵にはなれません。魔法が全てではないですが、初めに魔力が高い人間から選ばれたわけですから、それを無視するわけにはいかないのです。
でも。と、父は明るい表情に戻ると、サラ姉様とジャスティン殿下の間に生まれるお子さんを公爵に据えれば、問題は解決するそうです。ジャスティン殿下はああ見えて(失礼です)、魔力量が高く、全属性持ちだそうで、サラ姉様の魔力量が低くくても、それを補うどころかお釣りが来る程だそうです。必ず王族の方の血が上回るらしいんですよね。
なら、心配はないんですね。良かったです。
良かったのですが、私はサラ姉様の心配事を知り、今後の自分のことを考えるようになりました。
父は『キャスはお嫁さんに行く必要はないんだよー』なんて言ってますが、五大公爵家の令嬢がそれでいいのでしょうか。
いい訳がないですよね。ええ、分かってます。分かってますが・・・。
ゲームならエンディングを迎えて終了ですが、私の人生はまだまだその後も続くのです。
ヒロインが誰と結ばれるかは分かりませんが、私・・・悪役令嬢カサンドラが誰かと結ばれるわけがありませんし・・・。
「あ!」
私、思い付きました!
カーライル家はカルゼナール王国の王族と婚姻にまで至ったことはありませんが、他国の王子様に嫁いだケースは、他の五大公爵家より、圧倒的に多いらしいのです。
他国に嫁ぐ・・・有りじゃないですか?!
レオ様とヒロインの邪魔をして、お二人の絆を強め、卒業を待たずに、他国に逃げちゃいましょう!・・・と、そこまで考えて、ハッと我に返りました。
「私ったら、お馬鹿さんですね!他国の王子様どころか、誰だって、私みたいな残念な人間と結婚したいなんて思うわけないのに!私ったら、本当にお馬鹿さん!」
自分のお馬鹿さん加減に自分で笑っていますと、
「キャス・・・」
「?!」
いつの間にか、リバーが私の部屋のドアを開けて、立っていました。
リバーはいよいよおかしくなったか・・・と、言うような目をしています。私は慌てて、
「ち、ちょっと!一応、レディの部屋よ?勝手に・・・」
リバーは眉をしかめて、
「何度もノックしたよ。なのに、何の返答もないんだから、心配になって、ドアを開けるのは、当然でしょ?」
「あ、そうなの。ごめんなさい」
リバーは私の側に来て、
「他国の王子がどうとかって言ってなかった?」
「ああ。カーライル家って、五大公爵家の中で一番、他国の王子様と結婚したケースが多いって聞いたから、私もそんなことに・・・」
「それはないよ」
リバーが即答しました。
あら?もしや、リバーも、お父様と一緒で『キャスはお嫁さんに行くことなんかないんだよー』って、言うんでしょうかね。ふふっ。もう。お姉ちゃん子なんだから。ふふふっ。
しかし、リバーはにっこり笑うと、
「キャスが何かやらかして、国際問題になったら困るから、僕が全力で阻止するよ」
「はぅっ!」
ショックです!私、そんなに危なっかしいですか?!
私が泣きそうになりましたが、
「キャスには幸せになって欲しいから、好きな相手と一緒になればいいんだよ」
リバーはそう言って、私の頭をなでなでします。
「リバー・・・」
「まあ、お父様も僕も全力で邪魔するから、そんな勇気のある輩はいないだろうね」
そう言ってから、リバーはとってもいい笑顔になりました!
「・・・」
あのー?どっちなんですかー?
「あ」
リバーは時計を見て、「皆、そろそろ来るかもしれないよ」
「あ、そうね。下に行きましょう」
今日、シュナイダー様とルークにシーア様、クリス殿下が遊びに来るのです。
しっかり、おもてなししましょう!
私が張り切って、部屋から出ようとしてますと、
「キャス」
と、リバーが私を呼びます。
「え?」
私が振り返りますと、リバーはとても優しい表情を浮かべていて、
「キャスが本当に好きになった人なら、僕もお父様も認めるよ。いつかはね」
「リバー・・・」
私は目を細めますと、「私もそうだからね。リバーの相手にちょっと妬いちゃうかもしれないけど・・・」
「まあ、僕たちの仲の良さに相手の方が妬くかもしれないけどね」
「そうかもしれないわね」
と、言って、私もにっこりと笑いましたが・・・。
ああ・・・私、泣きそうです。
オールドミスになった私が甥っ子に夢中になっている様子がやけにリアルに想像出来てしまいました!
でも、それでいいのです!ですから、他国には絶対に行きません!
キャスはカルゼナール王国の歴史を知ることが最近の趣味になっています。
そして、自分に当て嵌め、勝手な妄想をしています。




