今の自分。その2
その後、着替えたリバーと母、私の3人でお茶をすることになりました。
おやつはラズベリーパイ。甘酸っぱいラズベリージャム、サクサクのパイ・・・うーん、絶妙です。
「リバー、どこで遊んでいたの?」
と、母が聞きました。
「池で釣りをしてたんだ」
「釣れた?」
「うん、これくらい大きいの」
リバーは両手を大きく広げます。
ふっ。リバーも子供ですね。それじゃあ、60センチ以上になります。有り得ません。ブラックバスなら有りかもしれませんが、この世界にはいません。ちなみに鰐もいません。そもそも池ですしね。
有り得ませんが、元は25歳の私。突っ込まずに黙っておいてあげます。
母も私と同じ心境でしょうが、
「それはすごいわね!」
と、驚いてみせます。母の鑑です。
リバーは満面の笑みを浮かべ、大きく頷きました。
「それで、その魚はどうしたの?」
と、母は続いて、聞きます。
・・・聞かないで良かったのに。
「戻したよ。池の主だから」
と、リバーはしれっと言います。
「あら、残念ね。お会いしたかったわ」
と、母は本当に残念そうに、「でも、主を捕まえたら、だめよねぇ」
ん?もしや、母は信じているのですか?
意外に天然ですか?
リバーはからかっているのですか?
ひどい息子ですね。
お茶の後、私はリバーの後に続いて、リビングから出ました。
「ねえ、リバー?さっきのことだけど、お母様のこと、からかったの?」
「うん?お母様だって、信じてないよ」
「そうかなあ」
私が首を傾げていると、リバーが振り返って、
「キャスは元から信じてないよね」
私はどきっとします。反応なしは、5歳らしからぬ態度だったかもしれません。
「そ、そるは(それは)」
どもりつつ、噛み噛みしつつ、弁解しようとしましたが、
「キャスは魚の図鑑、良く眺めてるだろう?この辺りにそんな大きな魚がいないこと分かってるでしょ」
「あ、そっか」
うっかりしてました。
前世の私はお魚好きでした。でも、大きな魚ではなく、小さなお魚、金魚とかグッピーとか・・・特にめだかさんが好きで子供の頃から飼っていました。泳ぐめだかさんを眺めているだけで、癒されたものです。
この世界にもめだかさんがいるのか知りたくて、父にお魚図鑑をおねだりしました。
結論から言いますと、めだかさんはいません。
さすが異世界です。魚はカラフルで、図鑑を見ていると、目がチカチカします。
ですから、めだかさんみたいな地味な魚は(いや、めだかさんは可愛いです!でも、客観的に見てです)いません。
私がめだかさんを思い、溜め息をついていると、
「キャス」
リバーが私の手を取って、「僕の部屋に来て」
「え?なに?」
「いいから」
私がリバーに連れられて、リバーの部屋の前で来ると、
「ちょっとだけ、ここで待ってて。それで、僕が呼んだら、入って来てね」
リバーはそう言うと、中に入って、ドアを閉めました。
「何だろう?」
私が首を傾げていると・・・。
「キャスー。いいよー」
と、リバーの声が聞こえて来たので、
「あ、うん。入るねー」
私はドアを開けました。
リバーの部屋にはドアの正面に出窓があり、その前に勉強机が置いてあります。
勉強机の前でこちらを向いていたリバーでしたが、
「キャスにプレゼント」
と、言ってから、脇に寄りました。
一瞬、ぽかんとしてしまった私でしたが、その目は勉強机の上に置かれた物に釘付けになりました。
多分、悪役令嬢らしき吊り目が更に吊り上がっていたかもしれません。
「め、めじゃきゃしゃん?!」
どもり、噛み噛みを気にしている場合ではありません。
私は走って行くと、金魚鉢のようなガラスの入れ物の中を悠々と泳いでいる小さな魚を凝視します。
めだかさんではありません。ありませんが・・・。
「キャスが言ってた魚にちょっと似てない?」
私はリバーに顔を向けると、何度も頷きました。
めだかさんよりも、キラキラシルバーって感じで、背に青いラインが入っていますが、それ以外はめだかそのものです。
すごい!奇跡のようです!
「こ、これ、どうしちゃにょ?」
リバーはにっこり笑うと(有り難いことにどもり、噛み噛みを見事にスルーしてくれてます)、
「ウィル(牧師の長男です)が見つけたんだよ。前にキャスが言ってた魚のこと、僕、ウィルたちに話してたんだけど、一昨日、牧師館の近くにある池にいたって、教えてくれてんだ。それで、今日捜しに行ってたんだよ。僕も半信半疑だったけどね。どう?」
「ち、ちょっとキラキラ感強いけど、この癒される感じは同じだじょ!」
「良かった」
私はまた小さな魚に目を向けましたが、やばいです。鼻がつんとしてきました。
「・・・リバー、あんなに汚れながらお魚さんを捕ってくれたんだね・・・小さいし、大変だったよね・・・」
「まあね」
リバーはちょっと照れ臭そうに、それでいて、ちょっと得意げにしています。
「リバー!ありがとう!」
私はリバーに力一杯抱きつきました。