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二人の公爵

 公爵同士のバトル勃発かと思いきや・・・

「おや。あまりにご立派なお体をされているので、気付きませんでした。私の娘がいたんですね」

 父は私を見て、言いました。

 バドレー公爵様は腕を組むと、私を見て、馬鹿にしたように笑い(な、何故ですか?)、それから、また父に顔を向けると、

「カーライル公爵。お嬢さんの教育を何とかされた方がいいのではないですか?」

「と、申しますと?」

 と、父が首を傾げます。

「ろくに挨拶もせずに、自分の父親の方が偉いなどと言ったのですよ」

 な、何ですと?!

「おや、まあ・・・」

 父が何とも言えない顔で私を見ました。

 私は違います!と、言うように首を振ってましたが、

「レオンハルト殿下やアナスタシア殿下と親しいからと言って、自分まで偉くなった気でいるのでは?」

「いや、娘はそんな性格では・・・」

「レオンハルト殿下の婚約者気取りになっているのではないですかな」

 はいっ?!


 私は何が何だか分かりませんでしたが、ふと父を見ますと、父が恐ろしい顔になっていて、

「はあ?誰がレオンハルト殿下の婚約者ですって?・・・誰があんなにべたべたと馴れ馴れしい方に私の娘をやるものか・・・」

 これにはバドレー公爵様の方が唖然として、

「しかし、周囲の人間共が・・・」

「カサンドラは誰にもやりません!」

 と、父が声を張り上げます。「娘がレオンハルト殿下の婚約者になるなど、私が生きている間、いえ、死んだ後も有り得ないと言い触らしてもらって、結構です!」

 バドレー公爵、マーガレット様がぽかんとしています。ついでに私も開いた口がふさがりません。

 お父様・・・この状況で、何を言ってるんですか?


 すると、父はポンと手を打ち、

「そうそう。マーガレット様。お母様が捜してらっしゃいましたよ。戻られたら、どうでしょう?」

 と、マーガレット様に向かって、にっこり笑って言いました。

 マーガレット様は呆気に取られましたが、

「はい。ありがとうございます」

「それで、申し訳ないのですが、カサンドラを一緒に連れて行ってもらえませんか。私、バドレー公爵とは久しぶりにお会いしたので、少し、お話をしたいんですよ」

「「え」」

 私もマーガレット様も驚きましたが、

「お願いしますね。マーガレット様」

 父はにこやかながらも、半ば強制しているようです。

「・・・かしこまりました」

 マーガレット様はお辞儀をしました。

「ありがとうございます」

 と、父はまたにっこり笑って言いますと、バドレー公爵様に向かって、「さあ、バドレー公爵。行きましょう」

 バドレー公爵はとても渋い顔をしつつ、

「・・・そうですな」

 父の後に続きました。


 父とバドレー公爵様を見送りながら、

「お、お父様・・・大丈夫かな・・・」

 と、私が呟きますと、マーガレット様が鼻を鳴らしてから、

「私の父の方が灰にされるわよ。では、あなたは、一人で戻って下さいね」

「はい?一人って、マーガレット様はどうされるんですか?」

 と、私は聞きましたたが、マーガレット様は華麗に無視しますと、父とバドレー公爵様が行ってしまった方向へすたすたと歩いて行きます。

「えっ。待って下さい!」

 私はマーガレット様の後を追いました。


 私、一人で戻れないんです!置いて行かないで下さい! 



 私の父とバドレー公爵様の後を追うマーガレット様の後を、更に私が追いかけます。

 父とバドレー公爵様はテラスの階段から、庭園へ下りて行きました。

 私たちは木の陰に隠れて、様子を伺います。

「私と親交を深める気などないだろう。何の話があると言うんだ?」

 と、バドレー公爵が不機嫌そうに言いました。

 父は振り返りますと、

「先に謝っておきます」

「何をだね?」

 父はにっこり笑って、

「実は、私、最初から話を聞いていたのです。迷子になった私の可愛い天使を捜していたもので」

「ー・・・」

 最初から聞いていたことにはびっくりしましたが、父の台詞に鳥肌が立ちました。私の可愛い天使って・・・。


「さ、最初からとは・・・」

 当然のこと、バドレー公爵様は動揺しているようです。

「あまり、感心しませんね。血の繋がりがないとは言え、あなたのお嬢さんでしょう?気の進まないことをさせるのは可哀相だと思わないのですか?」

 血の繋がりがない・・・。そうなんです。実は・・・

「母は再婚よ。私は連れ子」

 と、マーガレット様は素っ気なく言いました。


「おまけに誰かに見聞きされてもおかしくない場所では、バドレー公爵の品位が問われますよ?宜しいのですか?それに、ああいった話がレオンハルト殿下の耳に入ったら、どうなると思いますか?バドレー公爵はレオンハルト殿下のことをあまりご存知ないでしょうが、殿下はそんなことを許す方ではありません。眉一つ動かさず、バドレー公爵家の領地を没収しろとおっしゃるでしょう。脅しではないですよ」

 バドレー公爵様は途端に顔色を悪くさせると、

「・・・わ、私は、ただ、娘がアナスタシア殿下と親しくなってくれて、その・・・ついでに、レオンハルト殿下とも親しくなれたらと思っただけで・・・す、少し言葉の選び方を間違えただけのことで・・・」

 と、弁解を始めました。

 父は顎を触りながら、

「なるほど。まあ、分からなくもないですが・・・」

「そういうカーライル公爵は子が二人とも、レオンハルト殿下やアナスタシア殿下と親しいので、将来も安泰と思っているんでしょうな」

 バドレー公爵様は嫌味ったらしく言いましたが、父はくすりと笑って、

「いえ。私はあなたと違って、王族方と懇意になって、権力を得ようなど思っておりませんから」

「なっ?!」

「そんなことに子供たちを使う程、落ちぶれてはおりませんよ」

 お父様、きっぱり言い過ぎです!

 バドレー公爵様は真っ赤になると、

「若造がいい気になりおって!五大公爵だからと言って、私たちより偉いことにはならんのだぞ!」

「ええ。分かっておりますよ。私たちは他の貴族家より偉いなどと思ったことはありません。そういう教育をされますからね。私の父は五大公爵は王族の盾であって、それ以上でもそれ以下でもないと言うのが口癖でしたから。あ、せっかく出ましたので、私の父の話をしましょうか」

「何・・・?」

 「私の父、前カーライル公爵は、私が15歳の時に倒れましてね。心臓の病でした。医者からは安静にしていても、持って、3年。次に倒れたら、どうなるか分からないと言われましたよ。・・・私は父がいなくなるという恐怖と次期カーライル公爵になるというプレッシャーに耐えられず、ずいぶん荒れましてね。まあ、あなたもご存知でしょうが」

「・・・それで?」

 バドレー公爵様は苛立ったのか、先を急かします。

「父が亡くなったのは19歳の時でした。私はその頃はまだ、真っ当な人間になろうとしていたところで、五大公爵になるには到底無理だと思っていましたからね。カーライル家を五大公爵家から除外してもらおうと思い、父の葬儀が済んだ次の日に王城へ出向いたのですよ」

「な、何・・・」

 バドレー公爵様は驚きます。わ、私も驚きました。

「王城の廊下を歩いていたら、ある話を耳にしました。ある方が、取り巻き連中にこう話していたんですよ。『奴が早くにくたばってくれたお陰でカーライル家には遊び人の腑抜けた一人息子しかいない。あれは五大公爵と名乗る資格などない男だ。これでカーライル家は五大公爵家で初めて没落する家になるかもしれんな。まあ、その方が死んだカーライルも安心して、あの世に行けるだろう。さあ、これから祝いの酒でも酌み交わそうではないか』とね。・・・私は人生で初めて怒りに震えると言う経験をしましたよ。そして、その時に決めまたのです。死に物狂いで努力して、誰にも文句を言わせないくらい立派な五大公爵となってやろうと。そして、私の父の死がさも喜ばしいことのように言ったある方を見返してやろうとね。・・・おや?どうされました?顔色が良くないようですが」

「・・・」

 バドレー公爵様はもう真っ青です。

「しかし、感謝しているのですよ。まだ立派とは言えませんが、今の私があるのはそのある方のお陰ですからね。直接お礼を言いたいくらいです。それから・・・」

 そう言いかけた父の姿が消えました!

 と、思ったら、次の瞬間にはバドレー公爵の背後に立っていました!いつの間に?!

「こう言ってやりたいのです。カーライル家を、私を見くびるな。貴様のような人間が五大公爵となることを夢想する資格すらない。とね」

 父のその声は聞いたこともない恐ろしい声でした。

 バドレー公爵は震え始めると、ついには尻餅をついてしまいました!


 父はそんなバドレー公爵を冷ややかに見下ろして、

「高望みはせず、ご自分の領地をしっかり守ることがバドレー公爵の役目だと思うのですが?それから、お嬢さんが嫌がることを無理強いしないようにしていただきたいものですね。もう一度、言っておきますが、アナスタシア殿下を利用して、レオンハルト殿下に近付こうなどと考えない方があなたの身の為ですよ。ですが、マーガレット様は幸いにもあなたの血を受け継いでおりませんので、美しく、聡明なお嬢さんでらっしゃいますから、レオンハルト殿下の心を射止めることが出来るかもしれませんね。あなたの余計な横槍がなければ、ですが。それから、私の娘がろくに挨拶もせずに・・・などと言う話はあなたの誤解と言うことで宜しいですね」

「・・・」

 バドレー公爵様は何もおっしゃいませんでした。


「では、ごきげんよう」

 父は優雅にお辞儀をすると、尻餅をついたままのバドレー公爵様を残し、その場から去りました。




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