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迷子とたくらみ

 私、シーア様に化粧室に行くと言ってしまいましたので、一応、行ってみることにしたのですが・・・。


「広すぎて分かりません!」

 先程、お城の方に化粧室の場所を聞いたのですが、間違えてしまったようです。

 特に行きたかったわけではありませんので、戻ろうとしましたが、大広間への道順も分からなくなりました。

 私、もしかして、方向音痴なのではないでしょうか・・・。

「リバー。お父様ー。お母様ー」

 全く意味ないですが、小声で呼んでみました。


 しばらく、その場に止まって、様子を伺っていましたが、

「あ」

 窓から見える景色に目を奪われ、テラスに出てみました。

 庭園にはお花がいっぱいです。たくさんの色で溢れています。・・・レオ様はこの風景も描いたのでしょうか。

「きれー・・・」

 私はしばらく見とれていましたが、

「何をやってるんだ!」

 そんな鋭い声が背後から飛んできて、

「ごめんなさいっ」

 と、思わず、謝ってしまいました。

 ですが、振り返ってみると、誰もいません。

 ん?私ではないのですか?


 私が顔だけ廊下に出してみますと、10メートル程離れた所に立っているのは、マーガレット様でした。

 後ろ姿ですが、マーガレット様だと分かります。

 私と同じドレスの色に同じ金髪ですからね。ただ瞳の色は違って、マーガレット様は銀色がかった灰色の瞳で知的に見えます。

 そんなマーガレット様と向かい合って立っているのは、恰幅のいい50代前半くらいの男性です。も、もしかして、お父様、つまり、バドレー公爵様ですか?


 あまり褒められたことではありませんが、私は話が聞こえるところまで、そろーっと移動しました。

「せっかく、アナスタシア殿下と親しくなれたと思ったら、お前も見ただろう。ずっと、カーライルの娘と一緒にいたではないか。カーライルの双子はレオンハルト殿下とも親しい。おまけに・・・くそっ。何でもカーライルに持っていかれるではないか!」

 バドレー公爵様は苛々と足を踏み鳴らしています。「良いか。マーガレット。アナスタシア殿下にもっと取り入って、レオンハルト殿下と引き合わせてもらえるように頼むんだ」

「ですが、レオンハルト殿下は1年以上もこちらには帰って来られないのですよ?」

 バドレー公爵様と違って、マーガレット様は落ち着いた口調です。

「だから、その間にもっと親しくなれと言っているんだ。いちいち言わせるな!その空っぽの頭でも分かるだろうが!・・・男子でないお前に出来ることと言ったら、レオンハルト殿下に見初めてもらうことしかないだろう。我が儘三昧だったアナスタシア殿下には最近までろくに友人がいなかったそうだ。ちょっと持ち上げさえすれば、頼みを聞いてくれるだろう」

 そ、それって、シーア様を利用して、レオ様に近付けってことですか・・・?そんな・・・シーア様には今までお友達がいませんでした。でも、お友達が出来て、今日のパーティーのことだって、とっても、喜んで・・・なのに・・・。

 おまけにあの言い方はなんなんでしょうか!マーガレット様は才女ですよ!何が空っぽの頭ですか!

 私はむかむかしてましたが、更に・・・。

「あんな口先だけの若造に大きな顔をされるのはもうたくさんだ」

 と、バドレー公爵様が続けて、吐き捨てるように言いました。

 今の流れで言いますと、口先だけの若造とは父のことですか?

 父は口先だけの人ではありません!立派な人です!まったく、失礼な人ですね!


「必ずカーライルを五大公爵の座から引きずり下ろしてやる。その為には何としても王族との繋がりが必要なんだ。分かっているな」

「そうですね」

 と、言いながらも、マーガレット様は少し肩を竦めました。何だか、どうでもいいわ。と、思っていそうです・・・。

 バドレー公爵様もそれに気付いたようで、

「何だ。その態度は。文句があるのか」

「文句はありませんが、ただ疑問が。万が一、王族方と懇意になれたと言え、バドレー家は魔力量に不安があります。もし、カーライル公爵家が五大公爵家から除外されたところで、バドレー家が五大公爵家に加われるとは、到底思えないのですが。少しお考えが甘いのではありませんか?」

「黙れ!」

 バドレー公爵様は顔を真っ赤にして、「よくもそんな生意気な口を・・・」

「事実を述べたまでです」

 マーガレット様は全く怯みません。

 しかし、バドレー公爵様がぐっと拳を握り締めて・・・?!

 殴る?!と、思った私は、

「あーっ!人がいて、良かったでしーっ!」

 と、声を上げながら、転がるようにして、お二人の前に出て行きました。


 バドレー公爵様はびっくりされてましたが、

「おま・・・いや、カーライル公爵家のご令嬢でしたな」

「・・・」

 お前って、言おうとしましたか・・・?あ、それよりも、「は、はい。カサンドラ・ロクサーヌと申します。お会いで」

 と、きちんとご挨拶しようとしましたが、

「で、何かご用ですかな?」

 と、バドレー公爵様が言いました。途中で遮らないで下さい!

「え、えっと・・・」

 よ、用なんかあるわけがありません。私だって、出来れば、近付きたくなんかありませんでしたよ。でも、あのままでは、マーガレット様が大変なことになっていたかもしれません。

 私が何も言えないでいると、

「おや?お父上と違って、喋るのは不得手ですか?」

 バドレー公爵様はにやにや笑いながら、「まあ、口が達者だからと言って、偉くも何ともないですがね」

「ち、父はっ、偉いです!」

 私は思わず、そう口に出してしまっていました。


「何・・・?」

 バドレー公爵様の顔色が変わります。ひぃっ!

「そ、にょ、わ、私の父は口先だけの人間ではありま・・・もがっ?!」

 いきなりマーガレット様が私の口を塞いで、

「この方は迷っておられるようですわ。私が、大広間まで、お連れしますから」

 私はマーガレット様の手をどけようとしましたが、びくともしません!

「ふがーっ!」

 ち、窒息します!

 マーガレット様は私の口を塞ぎながら、

「・・・余計なことをしないで」

 と、小声で言いました。

 私は行きたくないと首を振りましたが、マーガレット様は私を無理矢理引っ張って行こうとします。

 

 と、その時。


「おや。これは、これは、バドレー公爵。ご無沙汰をしております。ご機嫌麗しいようで大変結構でございます」

 明るく朗らかな声が聞こえて来て・・・。

「?!」

 父です!お父様ー!会いたかったですー!!


 バドレー公爵がハッとして、振り返りますと、

「カーライル、公爵、久しいですな」

 明らかに忌ま忌ましげな顔をされています。こわっ。

「バドレー公爵が大臣でしたら、度々お目にかかることが出来るのですが、困ったことに、議員に見る目がないようで、残念で仕方がありませんよ」

 そう言って、父はやれやれと首を振りました。

「まあ、私は人気取りなどせんからな」

 バドレー公爵様は父の言葉に気を良くしたようですが・・・。


 うーん。父の嫌味に気付いていないのでしょうか?

 8人の大臣は3年任期で議員の投票で決まります。立候補することは出来ません。誰が誰を選んだと言うことが分からないようにしていますし、自分が誰に投票したかを他人に話したら、議員辞職と言う厳しい罰が下されます。

 それから、使えない人間が大臣となった場合には選んだ責任として、五大公爵からの厳しい叱責が待っているのです・・・。

 と、言う事で、実力と人望が本当にある方が大臣に選ばれるのです。

 ですから、父は、バドレー公爵に、実力もなければ、人望もないと暗に言っているんですよねー。・・・バドレー公爵様は気付いていませんが。


 気付いてはいませんが、元から、お互いを嫌い合っているせいか、私の父とバドレー公爵様の間に重苦しい空気が広がり始めて・・・。


 も、もしや、公爵同士でバトル勃発ですか?!



 ちなみに王城内での私闘は禁止されています。

 非常事態時、訓練以外で攻撃魔法を使うことも禁止です。



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