シーア様とシュナイダー様
現在、私はアナスタシア殿下と一緒にいます。
プレゼントを受け取り終えたアナスタシア殿下はとてもお疲れのようです。
「何か甘いものでも取ってきましょうか?」
「いえ、そんな、とんでもないです。それに、私、こんなにたくさんの方にお祝いしていただいて、胸がいっぱいで・・・しばらく、何も入りそうにないです」
アナスタシア殿下は夢心地と言った様子です。
ぐはっ!何て可愛らしいことをおっしゃるのでしょう!私はやっぱり食べられるものでお腹いっぱい、胸いっぱいになりたいです!
私がそんなお馬鹿なことを思っていますと、
「キャス様。あの、お願いが・・・」
「はい。何でしょう?」
アナスタシア殿下は赤くなりながら、
「サラ様と同じように、シーアと呼んでくれませんか?あ、その、アナスタシアは長いと思いますので、あまり深く考えずに呼んでいただけたらと・・・」
「?!」
ぐはっ!何て可愛いらしいのでしょう!
私はアナスタシア殿下の両手を取ると、
「何でもします!」
「え・・・キャス様、別に何でもしてくださる必要はないんですよ?ただシーアと呼んでもらいたいだけで・・・キャス様?」
アナスタシア殿下を愛称呼び出来るなんて、嬉しいです!実は、『シーア様』と呼んでいたサラ姉様が羨ましかったのです!将来、姉妹となることも正直羨ましいですが、こればっかりは無理な話ですからね!
「うん、うん」
と、私は腕を組みながら、何度も頷きました。
「・・・」
シーア様は溜め息をついて、「良く自分だけの世界に入られるって、本当だったんですね・・・」
・・・え?誰のことですか?
「ここにレオ兄様がいてくれたら良かったんですけど・・・」
と、シーア様が寂しそうにぽつりと言いました。
「アナス、シーア様・・・」
「それに、要らぬ憶測を呼んでいないか心配なんです。お兄様とレオ兄様の仲が悪いと思われたりしていないか・・・あんなにお互い思い合っている兄弟はいないのに」
「そうですね」
私は先程の噂話を思い出しました。
でも、レオ様はなんだかんだでジャスティン殿下が大好きですから、二人が争うなんて、有り得ないことです。
それに、レオ様はジャスティン殿下を守りたいと思うが故、自分を追い詰めてしまったくらいなんですから。
「全て私のせいなのに・・・」
シーア様は俯きました。
「シーア様。それはもういいっこなしですよ。レオ様は誰の為でも、誰のせいでもなく、ご自分の為に、ご家族から離れたんですから。本当のことを知っている方はたくさんいらっしゃいます。だから、気にする必要はないんですよ」
と、私が言いますと、シーア様は顔を上げて、
「キャス様・・・」
私はにっこり笑って、
「シーア様は今日の主役なんですから。そんな悲しい顔は似合いませんよ」
シーア様は目を細めましたが、
「・・・そうですよね。ありがとうございます。キャス様」
と、言って、とても愛らしい笑顔を見せました。
「あ、そうですわ。プレゼント、とっても可愛いですね。無作法ですけど、どうしても見たくなって、開けてしまったんです」
「気に入っていただけました?」
「はい。とっても!」
シーア様はにっこり笑って、「実は私、ピンク色が好きで、ピンク色の物を集めているんです」
「ええ。シュナイダー様が言ってましたよ」
「え」
シーア様は驚いて、「まさか覚えていて下さったなんて・・・」
「プレゼントだって、最後はシュナイダー様が決めたんですよ?シーア様にはこれが似合うって」
シーア様は目を潤ませると、
「そうなんですか・・・嬉しいです」
「・・・」
・・・良かったですね。シーア様。
私はシュナイダー様の姿を捜して、
「あ、シーア様。あちらにシュナイダー様がいますよ。改めて、お礼をおっしゃってみたら、どうです?リバーが一緒ですけど、リバーなら気を利かせて、二人きりにしてくれるはずですし。私はちょっと化粧室に行きたいので、ご一緒出来ませんが、シーア様だって、シュナイダー様と二人きりでお話したいでしょう?」
シーア様は首を振って、
「そんなこと、私と二人だけでお話するだなんて、シュナイダー様はきっと嫌だと思うはずです」
「大丈夫ですよ。シーア様は変わられたのでしょう?シュナイダー様もちゃんと分かっていますよ」
「・・・」
シーア様は少し黙った後、私を見て、「キャス様はいいんですか?だって、キャス様も・・・」
私は首を振ると、
「私・・・実は恋とかまだ良く分からないんです。分かっていなかったんです。シュナイダー様を好きだと思っていましたけど、シーア様を見ていて、そこまでじゃないなって、気付いたんです。・・・ごめんなさい。シーア様は本当にシュナイダー様が好きなのに」
「そんな・・・でも、思いは人それぞれです。結論を急ぐ必要はないのではないでしょうか」
「・・・そうですね。では、ゆっくり考えてみます。でも」
私はシーア様の後ろに回ると、そっと肩を押して、「シーア様は、シュナイダー様のところに行かなくてはなりませんよ」
シーア様は頷きますと、
「分かりました。・・・私、シュナイダー様の所に行きます」
シーア様はお辞儀をすると、シュナイダー様の元へと向かいました。
「・・・」
私はそれを見送っていましたが、シーア様がシュナイダー様に話し掛けるところまでは見ていられず、その場を離れました。
ゲームのカサンドラはシーア様の取り巻きとして、シーア様がシュナイダー様と結ばれるように協力するのです。
・・・良かったではないですか。初めて、悪役令嬢らしいことが出来たのですから。
なのに・・・悪役令嬢になんてならなければ良かったと思う私はおかしいですよね。




