お友達になれますか?
アナスタシア殿下が招待客の方々にお礼の言葉を述べた後、国王陛下がパーティーの開始を告げました。
今、私たちはアナスタシア殿下へプレゼントを渡す順番が来るのを並んで待っているところです。長ーい行列が出来ています。
アナスタシア殿下は前もってプレゼントの受け取りは遠慮させて頂きますとの旨を皆様に伝えていましたが、是非にとの声がたくさんあったので、今回だけならと言う事になりました。
「喜んでくれるといいですね」
私は隣のシュナイダー様に言いました。
「ええ」
と、シュナイダー様が答えます。
何かの握手会みたいだなあ・・・と、私が思っていますと、
「今頃、聞くのも変かもしれませんが、昨日、お怪我はありませんでしたか?」
「あ、はい。大丈夫です。昨日は本当にご迷惑を・・・」
「もういいですよ。私は何も大したことはしていませんし、騒動を治めたのはカーライル公爵様ですから」
「・・・そうですね。父がいなければどうなっていたことか・・・」
「お母様に絞られたのでは?」
「はい・・・2時間の説教を・・・」
「・・・大変でしたね」
「いえ、私が悪いので・・・」
私がしょんぼりと肩を落としますと、
「また行きましょうね。苦難の先にあるジェラートをあまり食べられませんでしたからね」
そのシュナイダー様の声はどことなく私を励ましているような感じがありましたので、私はそれに応えようと、慌てて背筋を伸ばしました。
それにしても、シュナイダー様は苦難の先がどうとかと言うフレーズが気に入ったようですね。
私は大きく頷きますと、
「次はお店の中で食べます!絶対に!」
すると、正面を向いていたシュナイダー様が私を見て、微笑みました。
私は驚いてしまいましたが、笑みを返しました。
やっーと!私たちの番になりました!
「私とリバー、シュナイダー様、ルークの4人から、プレゼントです。お誕生日おめでとうございます」
私はアナスタシア殿下にプレゼントを渡しました。
「皆さん、ありがとうございます!」
アナスタシア殿下は満面の笑顔になりましたが、
「アナスタシア殿下。おめでとうございます」
と、シュナイダー様から、花束を渡されますと、途端に真っ赤になって、
「あ、ありがとうございます・・・」
と、やや俯きながら言いましたが、口元は綻んでいます。嬉しいんでしょうね!分かります!
今のアナスタシア殿下は同性の私から見ても、ドキドキするくらい可愛らしいです!
ですが、シュナイダー様は安定の無表情です。うーん・・・。まだ距離がありますねー。
後がつかえてきましたので、残念ですが、私たちはアナスタシア殿下から離れました。またお話する機会はあるでしょう。
「カサンドラ様。カサンドラ様」
ルークが何だか嬉しそうに声を掛けて来ました。「向こうを見て下さい!ローストビーフがありますよ!カサンドラ様の好物ですよね!良かったですね!」
「好物なんて言った覚えはないですよ!ルークが食べたいだけでしょう!」
と、私は文句を言いましたが、「さあ、行きましょう!目標はローストビーフですよ!」
「え?行くんですか?」
行きますとも!大事な使命がありますからね!腹が減っては、なんとやらです!
私とルークは張り切って、ローストビーフがあるコーナーへと向かっていましたが、
「あ、ルーク、スイーツコーナーはどっちかしらね・・・」
私はルークの方に顔を向けました。ローストビーフも大事ですが、スイーツの場所は確認しておかなければなりません!
ところが・・・。
「危ない」
と、ルークが言います。
「え?」
私がまた進行方向に顔を戻した時には、「ぎゃっ!」
「きゃっ」
人とぶつかってしまいました。
私は謝ろうと、口を開きましたが、
「ー・・・!」
言葉が出ませんでした。
私がぶつかったのは、私の新たな使命である『マーガレット・フォスター様と友達になる』に必要不可欠な方である、マーガレット・フォスター様本人だったのです!
私はとてつもなく動揺しながら、まじまじとマーガレット様を見ました。
何てことでしょう!ドレスの色が被っています!デザインも何となく似ています!
マーガレット様は私と同じで悪役顔をしています。つまり、私と同じで女の子らしい色が似合わないのです。何だかお仲間って感じです。気が合うかもしれません。も、もしかしたら、これをきっかけにお友達になりませんか?って、誘われたりして!
何て楽観的なことを思っていましたが、
「あなた」
と、マーガレット様はこれでもかと眉をしかめますと、「人にぶつかっておいて、じろじろ見るばかりで、謝罪の一つもないのですか?」
と、言いますと、つんと顎を上げました。
あっ!私ったら、何て失礼なことをしてしまったんでしょう!
「申し訳ありません!」
私が慌てて、頭を下げますと、
「申し訳ありません。自分が気付くのが遅かったせいです」
ルークまで頭を下げました。ちょっと、ルークったら!何も悪くないのに!
すると、マーガレット様がルークをじろりと見て、
「あなたは何も悪くないのに何故謝るのですか?まるで専属の騎士みたいですね」
ルークはちょっと間を空けましたが、
「・・・ええ。そのようなものです。この方は大変、危なっかしいので」
「えっ!」
私、びっくりしました!
マーガレット様も驚いたようですが、
「そうですか。でしたら、しっかり護ってあげて下さいな」
と、言いますと、堂々とした足取りで行ってしまいました。
「・・・」
私はそんなマーガレット様を呼び止めることも出来ず、見送っていましたが、
「どちらのご令嬢でしょうね」
と、ルークが言いました。
私はそれで我に返ると、
「ルーク!ごめんなさい!あなたは何も悪くないのに!」
ルークはにこっと笑って、
「いいんですよ。自分がもっと気をつけていれば、良かったんですから」
「だけど・・・」
「カサンドラ様のことだから、あのご令嬢の迫力に言葉が出なかったのではないですか?」
少々違いますが・・・。
「ま、まあね・・・」
あー、どうしましょう。ぶつかった上に、じろじろとマーガレット様を見てしまうなんて・・・第一印象最悪です。
私は溜め息をついてしまいましたが、
「あの方はマーガレット・フォスター様と言って、バドレー公爵家のご令嬢なのよ」
「へえ、通りでー。カサンドラ様にない威厳があるんですねー」
と、ルークがとってもいい笑顔で言いました。
「・・・」
ちょっとムッとしましたが、一緒に謝ってもらったので、堪えましょう!「そ、それで、聞きたいのだけど・・・」
「はい?」
「私、あの方とお友達になれると思う?」
と、私は聞きました。
すると、ルークはにこっと笑って、
「なれないでしょうね!」
これ以上ない程、言い切りました。
や、やっぱりですか・・・。自分でもそう思いますが・・・。
ですが、そんなにいい笑顔で言われてしまうと、傷付きます!




