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今の自分。その1

「お母様、リバーはどこですか?」

 さっきから捜しているのに可愛い弟は見当たりません。

 刺繍をしていた母は顔を上げて、

「領地の男の子たちと遊びに行ったわ」

「そうですか・・・」

 領地の男の子たち・・・カーライル公爵家の領地に住む平民の子供たちです。

 中には、平民を下に見る貴族もいますが、カーライル公爵家は違います。それは五大公爵家もです。常に民に見本となる領主であること。五大公爵家は大変です。

 ですが、領民と遊ぶ公爵令息も珍しいのです。

 リバーは気さくなタイプで、初めての人でも物怖じしません。ええ、姉とは違います。噛みませんしね。ちぇ。


「もうすぐ帰って来るわよ」

 私が母の側に行くと、母は刺繍の手を止めて、私を抱き寄せてくれました。

 カサンドラには同じ年頃のお友達はいません。

 そんな私には弟であるリバーが唯一のお友達と言っても過言ではありません。

 だから、私に何も言わずに出掛けられると、寂しかったりします。

 ゲームのカサンドラがヒロインとリバーの仲に嫉妬したような激しさはありませんが、私にもそんな面があったのでしょうか。

 困ったことに、カサンドラ・ロクサーヌとして転生し、とりあえず今の段階では、ぼっちだった野崎明日香とは違い贅沢な生活を送っています。

 確かに、公爵令嬢として、礼儀作法を身に付けるための努力はしていますし、男の子であるリバーと我が国の歴史だけではなく、他国の歴史に言語、数学・・・等々、同じように学んでいます。それらはけして、楽ではありません。

 ですが、毎日専属シェフの美味しい料理を食べ、可愛いドレスを着させてもらっています。毎日、昼寝もしています。どもり、噛み噛みも温かい目で見てもらってます・・・。


 そして、何より、自分を愛してくれる両親がいます。強い絆を感じる弟がいます(そう。魂の片割れです。大袈裟ではありません!)。


 これが、贅沢と言わず、何と言うのでしょう。

 こんな生活、自分にはもったいないです。いいのでしょうか。


 そんなことを母に抱かれながら考えていた私ですが、廊下をばたばたと走って来る音がしたと思ったら、私たちがいる部屋のドアが開きました。

「あれ、キャス、何、甘えてるの?」

 シャツの袖を捲り上げ、泥で汚したサスペンダー付き膝丈ズボンにブーツといった格好のリバーが私たちを見るなりそう言ったので、私は母から、少しだけ離れると、

「何よ。ただいまも言わないで」

 と、拗ねたように口を尖らせながら言いました。

 ええ、拗ねていますよ。だって、リバーは瞳を輝かせています。さぞ楽しかったでしょうよ。外で思い切り遊んで来たのでしょうよ。

 でも、前世で乙女ゲームばかりやっていた私ですから、外で遊ぶことなんて、ちっとも羨ましくなんてありませんよ。けっ。・・・あ、ありませんからね!


「・・・」

 リバーが私を見つめます。

「な、なに?」

 もしや、私の心を読んでいるとか?

 しかし、リバーはにこっと笑うと、

「ただいま。着替えて来ます」

 と、言うと、さっさと行ってしまいました。


 外で何をして遊んでいたか、教えてくれると思っていた私はまた拗ねました。


 でも、けして、羨ましいわけではありません。ええ、けっして。



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