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主のいない部屋

「この度は妻や子供たちを、お誘い下さり、誠にありがとうございます」

 父が代表して、ジャスティン殿下、アナスタシア殿下、クリス殿下に向かって、挨拶しました。

 私たちも頭を下げます。

 現在、私たちは王城に来ています。

 王城は外観が黒い色なので、お城と言うより、大きな要塞みたいです。戦争を繰り返していた頃の名残でしょう。

 ですが、一歩中に入れば、白を基調としながらも、あちこちに金色でアクセントが施されていたり、廊下には約3メートル毎にたくさんの花が生けられていたり、赤い絨毯がずーっと敷かれていたりと、とても華やかです。


「お礼なんて良いのです!私の方が感謝するべきですもの!」

 と、アナスタシア殿下は言うと、私の元へ駆け寄って来て、「キャス様。わざわざお越しくださって、本当にありがとうございます!」

 と、おっしゃいますと、私の両手を握りました。

「い、いえっ!お誘い下さって、本当にありがとうございます!」

「泊まって下さらないのは残念だけど、精一杯おもてなしをさせていただきますね」

「き、恐縮です」

 実はまだ愛想のいいアナスタシア殿下に慣れていません。つい戸惑ってしまうと言うか、最初の印象が強過ぎるんですかね・・・すみませんっ!


「キャスちゃん」

 クリス殿下が私のスカートを引っ張って、「僕のお部屋に行こー」

 ぐはっ!可愛いです!

「あら、ダメよ。クリス。その前にレオ兄様のお部屋に行かないと」

 と、アナスタシア殿下が言いましたので、私がきょとんとしてしまうと、

「是非、カサンドラ嬢に見せてあげたいんだ」

 と、ジャスティン殿下が言いました。

「で、でも、レオ様がいないのに・・・」

「気にすることはないよ。レオも君に見せたいって言っていたし、私は毎日入ってるし・・・」

「・・・」

 え?毎日?弟君が不在なのに、毎日お部屋に入ってるんですか?ドン引きです。レオ様のベッドで寝て、枕元を涙で濡らしてたりとか・・・ぎゃあっ!怖過ぎます!


「あのー・・・何だか変な想像してない?」

 と、ジャスティン殿下が口元を引き攣らせながら言いました。

 え?違うのですか?


 父は仕事に行ってしまいました。

 絶対こっちには来ないように!と、念を押されました。自分が火を吐きまくっているところをどうしても見られたくないようです。

 それから、ジャスティン殿下たちが王城の居住棟を案内してくれることになりました。

「まあ、綺麗なお庭」

 テラスに出ると、見事な庭園が一望出来ます。

「大きな噴水ですねー」

「でも、設計を間違えて、水の噴き出し口が高過ぎる位置にあるんです。そのせいで、少し離れたところにいてもびしょ濡れになっちゃうの。気をつけて下さいね」

 ま、間違い過ぎです!噴水を設計した方の命は無事なのでしょうか?!

「だから、周りに小石を置いてるんだよ。芝生が枯れちゃったから」

 ・・・でしょうねー。

「お客様がいない時は水を止めてるの。可笑しいでしょう!」

 と、アナスタシア殿下が笑い、

「笑っちゃうよねー!」

 と、ジャスティン殿下も笑いました。

 ・・・呑気な兄妹ですね。

「・・・レオ兄様はとっても怒ってたの。みっともないって。僕もそう思うんだけど・・・」

 クリス殿下は私にだけ聞こえるように言いました。呑気な兄妹と違って、不満なようです。

「居住棟には国賓級の客は来ないから、大丈夫だよ。アナスタシアの誕生パーティーの客もこの庭の前は通らないから」

「・・・」

 うーん、そういう問題なのでしょうか?レオ様はやっぱり苦労してたんですね。同情します。


 そんなこんなで、

「ここがレオの部屋だよ」

 ジャスティン殿下はそう言ってから、扉を開きました。

 いいのかなあー・・・と、思っていた私ですが・・・。


「わあっ!」

 歓声を上げてしまいました。


 大きな水槽が3つもあって、色んなお魚さんが泳いでいます!

 12歳の男の子にしては、シックなお部屋ですが、それが、水槽を引き立てています。お部屋の趣味もいいとか、やるじゃん!さすが色男っ!って、感じです!

「わあー・・・」

 あんまり派手なお魚さんはいません。「とっても素敵ですねー」

「私たちで毎日餌をやってるんだよ」

 あ、ああ、それで毎日お部屋に入ってるんですね。納得しました。変な想像しちゃってすみません。


「・・・」

 それにしても、レオ様がいないお部屋に私がいるって、変な感じです。

 何だかちょっと切ない気持ちになります。

「どう?いい部屋だろう?」

 ジャスティン殿下は何故か自慢げです。

「ええ。とってもいいお部屋ですね」

「気に入った?」

「は、はあ・・・」

 私が気に入ったところで、どうなるわけでもないですが。

「レオの妃になったら、毎日見られるよ!」

 ジャスティン殿下はにっこにこな笑顔で言いました。

「?!」

「サラも喜ぶと思うんだ。いい考えだと思わない?」

 な、何を言ってるんですか!サラ姉様を喜ばせたいからって、変なことを言わないで下さい!

 私は一言文句を言ってやろうとしましたが、

「寒い!」

 ジャスティン殿下が急に震え始めました。

 んっ?!

 私がジャスティン殿下の後ろの方を見ますと・・・。

「・・・」

 リバーがとーっても冷たーい目で見てました。

 わ、私も寒いです!見なかったことにしましょう!


「キャスちゃん」

 クリス殿下が私の袖を引っ張りました。

「はい?」

「こっち来て」

 クリス殿下が私の手を引いて行きます。

 そして、本棚の前に来て・・・。

「さすがレオ様。たくさん本を読むのねえ」

 と、私が感心していますと、

「これ」

 クリス殿下が一冊のスケッチブックを差し出して、「内緒ね」

 えー、見たとばれたら、後が怖いなあ。と、私は思いましたが、興味を引かれてしまい、スケッチブックを開きました。

「うわあ・・・」

 レオ様のスケッチブックにはお魚さんや花に、シュナイダー様の家にいる犬さん、さっき見た庭の風景画も描いてあります。あ!めだかさんに『のらさん』までいます!

 どの絵も生き生きして、躍動感があります。

 レオ様、凄いです。画家さんになれますよ!

「レオ様、凄いですね」

「はいっ」

 と、クリス殿下は自分が褒められたかのように嬉しそうな顔をしましたが、「あ、次だよ」

 次?

 私は言われた通り、次のページを開いて・・・。

「え・・・」

 そこには私の顔が描かれてありました。

「これ、見せてもらったの。大事なお友達だって。きっと、仲良くなれるって」

「わ、私、こんな顔してたかな・・・」

 笑顔の私です。自分じゃないみたいです。「綺麗に描き過ぎですよねえ・・・それに、私、こんなに楽しそうに笑うことなんて出来ないと思うんですけど・・・」

 笑う練習をしていたくらいなのに。

 すると、クリス殿下がにこっと笑って、

「ううん。キャスちゃん、こんな風に笑うよ!絵とおんなじだよ!」

「っ・・・」

 思わず涙が出て来てしまい、私は慌てて拭うと、「きっと、レオ様と一緒にいると、楽しいからでしょうね」

「はいっ」

「ありがとうございます。クリス殿下」

 私はお礼を言ってから、スケッチブックを閉じました。


 そして、私たちはレオ様の部屋を後にしました。


 やっぱりちょっと切ないですけど、もう辛くはないですよ。レオ様。



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