鳥さんを作りましょう
誕生日の次の日から、早速、魔法の基礎を学ぶことになりました!
治癒魔法しか出来ない私は、同じ水と光の属性を持つ、母、マリアンナが基礎を教えてくれます。
ちなみに私、しつこいようですが本当に治癒魔法しか出来ません。
改めて、調べてもらった結果、防御する魔法すら出来ないことが分かりました。
有り得ない結果にお茶目な父、アンドレアスもさすがに衝撃を受け、キャスを外には出せない!なんて、言い出しました。
と、言うわけで、私、自分の身を守る術が全くないのです。つまり常に丸腰状態です。戦争になったら、真っ先に死にます。平和な時代に生まれて良かったです。
リバーは父が時間があれば教えるそうですが、それ以外は執事のタリスさんが教えるそうです。
今までずっと色んな事をリバーと一緒に学んで来ましたが、初めて別々になります。
何だか切ないです。
「じゃあ、鳥を作ってみましょうか」
と、母が言いました。
「はい?」
いきなりですか?
「鳥は治癒魔法しか出来ないあなたでも作れるのよ。言わば、あなたの言葉を伝える、あなたの分身だから」
「分身・・・」
「想像しやすいでしょう?魔法は想像することから始まるのよ。今まで見たことのある鳥を頭の中に浮かべるの。それだけに集中してみなさい」
「は、はい」
私は頭の中に鳥さんを思い浮かべました。
鳥さん・・・鳥さんと言っても、すずめさん、カラスさん、鳩さん・・・あっ!この世界にはいません。
ええと、あ、サラ姉様の鳥さんは蜂蜜色の体に濃いグリーンの目をしてましたね。まさに分身でした。と、言うことは、私の鳥さんは金色の体に青い目をしていると言うことです。ん?じゃあ、リバーも同じってことですよね。どうやって、見分けをつけるんでしょうか。
ん?では、黒い髪、黒い瞳なら、鳥さんは真っ黒ってことですか?!
「キャス?」
「うーん。真っ黒はさすがに・・・」
「キャスっ」
「そうなると、金色の鳥さんはカッコイイですね・・・」
「キャス!!」
「えっ?!」
私はハッと我に返ると、「ひぃー」
目を三角にさせた母の顔が目の前にありました。
怒鳴られるー。と、思いましたが、
「はあぁぁぁー・・・」
母は盛大に溜め息を付いて、「独り言している時は誰が邪魔したって、とんでもなく集中してるのに、鳥を想像することには全く集中出来ないのねぇぇぇー・・・全く別なのねぇぇぇー・・・」
母はただただ嘆いています。・・・す、すみません。
私、集中力をつける訓練から始めました。魔法とは全く関係ありません。はぁ。独り言をしている時の集中力はどこから来てるんでしょうか。
「うわぁー。シュナイダー様の鳥さんは綺麗ですねー」
私とシュナイダー様の頭上には水色の鳥さんが舞っています。
「なんてことない水色ですが」
「そんなことないですよ!幸せを運ぶ鳥さんみたいです!」
シュナイダー様は首を傾げて、
「何ですか?それは」
「え、えっと、何かのお話にあったんです。ですから、シュナイダー様の鳥さんを見てると幸せな気分になります!」
「・・・」
シュナイダー様は眼鏡をくいっと中指で上げると、「・・・それは良かったです」
おっ!その仕草いいですね!なんて思いながら、シュナイダー様に見とれていると、
「わぉん!」
『のらさん』が飛び掛かって来ました。
母に許可を貰って、シュナイダー様は『のらさん』を我が家に連れて来てくれるようになりました。
とても人懐っこい『のらさん』には母も苦手意識が薄くなるのか、直接触れることは出来ませんが、餌を与えられるようになりました。
その際、『のらさん』は尻尾が切れるんじゃないかと言うくらい振ります。サラ姉様の時と同じです。どうも、美人さんが好きらしいです。
「・・・シュナイダー様」
「はい?」
「ありがとうございます。『のらさん』を連れて来てくれて」
私は『のらさん』のお腹を撫でながら、「私が寂しがってると思ったからでしょう?遊びに来てくれることも多くなりましたし・・・」
「・・・私がそうしたいだけですから。礼なんて、いいのです。それに私も、その、寂しかったりするもので」
シュナイダー様の頬がほんの少し赤くなります。私は微笑んで、
「私よりも、ずっと長い間一緒でしたもんね」
「あの方とこんなに長い期間、会わないのは初めてなので、何だか調子が出ません」
「ほとんど生まれた頃から一緒ですもんね」
・・・寂しいのは私だけじゃないですよね。それに、ぐすぐす泣いてたルークだって、今、リバー相手に剣術の稽古をしている最中です。『殿下に負けてられない』って。
私ももっとしっかりしなきゃです!
「私も早く鳥さんを飛ばせるように頑張らないと!」
と、私が張り切って言いますと、
「それでは、出来るようになったら、私の元まで飛ばして下さいね」
と、シュナイダー様が言って・・・ええっ?!
「えっ」
私は驚いて、声を上げます。
「えっ」
シュナイダー様も私につられるように声を上げましたが、「・・・その、別に最初でなくていいんですが・・・その、何だかすみません」
「い、いえ。一番、最初に飛ばしますね」
私は赤くなりながら言いました。
「・・・はい。待ってます」
シュナイダー様はそう言って、俯くと、『のらさん』の頭を撫でました。
私とシュナイダー様はそれから無言で『のらさん』を撫で続けました。
そんな私たちを見ながら・・・。
「ちっ。・・・一人いなくなったと思ったら」
「・・・リバー、怖いよ」
「さあ、もう一本」
「いや、自分に殺気向けなくても・・・」
「つべこべ言うな」
「ひいぃぃぃー」
何てやり取りがされてました。ルーク、何かごめんね・・・。
その夜。帰宅した父は、
「キャスは?」
と、ただいまも言わずにそう聞きました。
私がお出迎えに来ていないからです。
「今、鳥を作ることに集中しているところなんです。やっと、やる気を出したんですから、邪魔しないで下さいね」
母は『邪魔しないで』を強調しました。
「そう・・・」
父はしょんぼりしましたが、「昨日まで、あの子は集中力がないって、嘆いてたのに」
「シュナイダー君に鳥を飛ばすと約束したそうですわ。やっぱり目標が出来ると違いますわね」
母は上機嫌で言いましたが、父とリバーは舌打ちしました。
その時。
「ぎゃああああっ!」
私の悲鳴が響き渡りました。
「キャス?!」
何事かと、父たちが私の部屋に駆け付けます。
「あ!お父様!見て下さい!鳥さんが出来ました!」
そう言って、私、得意顔をしながら、勉強机を示しました。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
勉強机の上には、よちよち歩くひよこさんがいます!可愛いです!可愛過ぎて、悲鳴が出ました!
唖然としていたリバーでしたが、
「それ、飛ぶの?羽とはまだ言えないものしか付いてないけど」
何をおっしゃいますやら!
「鳥さん!リバーのところまで飛ぶのです!」
と、私、命令しました。
ところが。
私の鳥さんはよちよちと3歩進んだところで、こてんと転びました。あ、あれ?
「か、可愛い・・・。可愛いキャスが作ったら、鳥もこんなに可愛いくなるんだね!いいよ!これでいい!キャス、良くやった!空を飛ぶだけが鳥ではない!」
父は感動(?)のあまり震えていましたが・・・。
「良いわけがないでしょうっ!!!」
母の雷が落ちました。
父とは違い、母は怒りのあまり震えていたようで・・・。
その5日後にようやく私は鳥さんを飛ばせるようになりました。
もちろん、シュナイダー様の元へ飛ばしましたよ!
伝言は・・・『こんにちは。また遊びに来て下さいね』でした!私ったら、もっと、気の利いたこと言えないんでしょうかね!情けないです!
そして、シュナイダー様の水色の鳥さんは、『ありがとうございます。またお邪魔させてもらいます』と、言いました・・・。
それを聞いたリバーが鼻で笑いました。
・・・意味が分かりません。




