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名前をつけるなら(リバー視点)

 皆さん、こんにちは。リバー・ロクサーヌです。またお話し出来て嬉しいです。姉よりはずっと上手にお話し出来るはずですから、もっと、出番を増やしてくれても良いと思うのですが、面倒臭いそうです。ちっ。・・・あ、失礼しました。


 レオ様が旅立たれて、2ヶ月が経ちました。

 姉は初めの頃は毎朝、泣き腫らした目で起きて来ましたが、最近はそんなこともなくなり、普段通りに過ごしています。

 ですが、池を泳ぐめだかさんを見ながら、ぼーっとしていることがあります。

 多分、キラキラシルバー(姉がそう表現しています)のめだかさんを見て、銀髪のレオ様を思い出すのでしょう。


 シュナイダーとルークは前よりもカーライル家に遊びに来ることが多くなりました。

 その度にルークが姉と一緒になって、池の前でぼんやりしています。はっきり言って、うっとうしいです。

 おまけにジャスティン殿下とサラ様にクリス殿下も来てくれるようになったのですが、ジャスティン殿下とクリス殿下まで、姉とルークと同じように、池の前でぼんやりと過ごすのです。勘弁してくれと言ってやりたいです。めだかさんも落ち着かないと思います。

 そんな4人を、僕とシュナイダー、サラ様は呆れつつ、眺めています。サラ様はジャスティン殿下のどこがそんなにいいんでしょう?謎です。


 ですが、僕もレオ様が遊びに来た時にいつも一緒に過ごしていた客間に一人でいたりすると、姉に膝枕されていたレオ様のことを思い出してしまいます。あれだけ腹立たしかったのに、しばらく見られないと思うと不思議と寂しかったりします。

 あ、そうでした!姉の話によりますと、もう膝枕はやめるとレオ様は言ってたそうです!やっぱり寂しくなんかないです!とてもおめでたいことです!


 更に1ヶ月経った頃、姉宛にレオ様からの手紙が初めて届きました。

「信じられない!」

 なのに、どういうわけか、姉は珍しく怒ってます。

「どうしたの?」

「レオ様の手紙よ!『キャス。元気そうだな。私も元気に稽古に励んでいるぞ。またな』これだけよ?!もう暗記しちゃったったわよ!」

「・・・」

 レオ様のとんでもない筆不精っぷりが明らかになりました。

「初めての手紙でこれだなんて、この先は一体どうなるの?私はたくさん書いたのに。もうっ」

 姉はむくれてしまいました。

 まあ、男なんて、そんなものですよ。毎回、分厚い手紙を送り合っている姉とサラ様の方がおかしいと思います。


「まあ、レオ様は皆から手紙が来るだろうし、大変じゃないかな。大目に見てあげなよ」

 なんて風に僕がレオ様のフォローをしてあげると、姉はちょっと考えて、

「そうよねえ。皆、レオ様に手紙を送りたいわよね。まっ。しょうがないか」

 そう言って、うんうんと頷きました。

 いつまでも怒りを引きずらないところが姉の良いところだと思います。まあ、ちょろいですよね。ふっ。

 その後、3ヶ月に1通しかレオ様の手紙は届かないことになりますが、姉の方はめげずに分厚い手紙を定期的に送ることになります。


 姉はそれでもレオ様からの手紙を大事そうに持つと、

「リバー!おやつの時間よ!今日はドーナツだって!最後の丸いのをどっちが食べるかじゃんけんしましょう!」

 と、喜々として、言いました。

 最後の丸いの・・・ドーナツ型を取っていく過程で最後に余った生地を丸めて揚げただけの小さなボールのような物のことです。

 『落とし穴作戦』でお気づきかもしれませんが、姉は昔からおやつに関しては、並々ならぬ情熱を燃やしています。

「・・・じゃんけんね。うん。分かった」

 別にじゃんけんなんかしなくても、僕は譲るのですが、それでは意味がないそうなので、じゃんけんをしてあげます。


「「じゃんけんぽん!」」

 姉はグー。

 僕はチョキ。

「やったー!」

 勝った姉は大喜びです。「リバーったら、弱いわね!」

 負けた僕は微笑みながら、思います。

 いい加減、初めにグーばかり出していることに気付けと!物事を深く考えなさ過ぎです!こんなことで世の中を渡っていけるのでしょうか?!心配です!


 でも、まあ、いいんですよ。姉が笑っていてくれるなら。


 レオ様と約束しましたからね。



 あの日、レオ様が旅立った日。レオ様と僕は別れの抱擁を交わしました。

 そうしながら、レオ様が他の方に聞こえないように話した内容は・・・。

『私はずっとリバーを妬んできた』

『は・・・』

 王子様が僕をですか?意味が分からず、僕は唖然としてしまいましたが、

『双子の弟として、キャスの側に当たり前のようにいられるリバーが羨ましかったのだ』

 そう言った後、レオ様は少しの間黙りましたが、『そして、当たり前のようにリバーを選ぶキャスにも苛立った。双子なのだからと納得しようとしたが、それでも、なかなかそういう感情が捨てられなくて・・・リバーに勝てるわけがないと分かっているから、余計にそうなったのかもしれない。私はそんな自分をとても恥じた。・・・このことはどうしてもキャスには話せなかった。私は本当に心が狭く、自分勝手な人間だ。情けない』

『レオ様・・・』

『だから、こんな子供っぽい独占欲も執着心も捨てる。そうしなければ、キャスとリバーの友として、相応しくないからな』

 僕は思わず溜め息をついてしまうと、

『子供なんだから、子供っぽくったって、いいじゃないですか。レオ様は難しく考え過ぎるんですよ』

 レオ様は苦笑いして、

『まるでカーライルみたいだな』

『褒め言葉として取っておきます』

 と、僕が澄まして言うと、レオ様は今度は楽しそうに笑いましたが、

『リバー。本当に私に言われるまでもないだろうが、キャスがいつも笑顔でいられるよう守ってくれ。キャスにはずっと笑っていて欲しいんだ』

『多分、あなたのせいでしばらく泣くことになるでしょうが、大丈夫ですよ。任せて下さい』

 すると、レオ様はようやく僕から離れて、

『約束だぞ』

 とてもとても真剣な表情で言いました。



 レオ様。


 僕を妬み、姉に苛立った。それは。


 子供っぽい独占欲と執着心。それは。


 姉にはずっと笑っていて欲しい。それは。


 あえて、名前を付けるなら、『恋』と言うものではないのですか?


 捨ててしまったら、もう育つこともないのですよ?

 もしかしたら、一生気付かないままかもしれませんよ?


 僕は恋をした経験がありませんから、レオ様が姉に恋をしていたのか・・・なんてことは、はっきりとは分かりません。


 でも、何かが終わってしまったような・・・そんな気がするのです。



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