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解放

 レオ様は王族の一員として生まれた事に誇りを持っていました。

 ジャスティン殿下を守り支えていくために完璧な王子にならなくてはならないと思っていました。

 レオ様の高すぎる誇りと理想は自らを追い詰め、自身が思っている以上に重荷になっていました。

 しかし、その重荷はアナスタシア殿下を蔑み、責めることで、ふっと軽くなるのです。

 それに気付いてからは、更にアナスタシア殿下に辛く当たりました。

 いけないことだと分かっていましたが、アナスタシア殿下は逃げるどころか、懲りずに向かって来ます。

 いいではないか。自分の妹を出来損ないだと言っても。自分の理想から外れたアナスタシアが悪いのだから。と、レオ様は思うようになってしまいました。

 もう自分では止められなくなっていたのです。


「アナスタシアがいなくなれば、こんな感情もなくなるはずだと・・・だから・・・今日こそ追い出してやろうと・・・思って・・・」

 レオ様はそこまで言うと、私から少し離れました。

「レオ様・・・?」

「もう大丈夫だ。・・・ちゃんと話をしたいから」

 私に抱きついたままで話を続けるわけにはいかないようです。


 レオ様はアナスタシア殿下を見て、

「アナスタシア。何故、逃げなかったんだ?何故、父上と母上に言わなかった。もっと早くカーライルに言えば良かったのだ。なのに、何故・・・」

「分かりませんか?」

 と、父がレオ様に聞きました。

 レオ様は首を振ります。

「アナスタシア殿下はあなたのことが大好きなんですよ。ですから、告げ口するようなことなど出来なかったのです。ずっと、あなたを庇っていたんです」

 父の話を聞いたレオ様は驚いて、アナスタシア殿下を見ました。


 アナスタシア殿下はサラ姉様に支えてもらいながら、立ち上がると、

「わ、私は、レオ兄様が好きです。憧れていたんです」

 アナスタシア殿下はそう言って、真っ赤になりました。

「アナスタシア・・・」

「殿下のことが好きなアナスタシア殿下にとって、殿下は絶対的な存在だったのです。ですから、あなたが言う『出来損ない』もそのまま受け入れ、自分が出来損ないだから、自分が悪いのだから、殿下が蔑み、無視をするのだと思い込んでいたんですよ」

 と、父が説明すると、レオ様は唇を噛み、

「・・・そうか」

「私、レオ兄様に、存在を無視されることだけは堪えられなくて、私を見て欲しくて、だから、怒らせるようなことをたくさんしたの。・・・ごめんなさい」

 アナスタシア殿下は頭を下げました。

 レオ様は首を振ると、

「止めろ。私が馬鹿だったんだ。すまなかった」

 アナスタシア殿下は顔を上げると、

「そもそもの原因は私から始まったことです。レオ兄様に嫌われてしまって、当然です。でも、私、本当に変わるから、だから・・・」

「・・・」

 レオ様は何と言っていいのか分からないようです。

 レオ様の性格上、気休めに好きになれるとは言えないのです。


「レオ様。アナスタシア殿下が笑った顔、見たことありますか?」

 と、私は聞きました。

「え・・・」

「とっても可愛らしいんですよ。見なきゃ、損です」

「・・・」

 レオ様は首を傾げました。私が何を言いたいのか分からないようです。

「レオ様。クリス殿下はアナスタシア殿下のことをとっても慕ってますよね。それって、アナスタシア殿下がとってもいいお姉様だからですよね。それから、今日、アナスタシア殿下はピアノを弾きましたよね。とっても素晴らしかったですよね。あんなに弾けるようになるまで物凄く努力して、物凄く頑張ったと思うんです。・・・レオ様。あなたの妹君は、笑顔が可愛くて、弟思いで、頑張り屋さんで、そして、お兄様が大好きなとっても素敵な方じゃないですか。・・・きっと、レオ様も本当は気付いていたはずです。色んなことがあったせいで、ちょっと見えなくなっていただけだと思うのです。でも、これからは良いところを見てあげましょう。レオ様はそういうことにちゃんと気付ける人じゃないですか。そうしながら、少しずつ距離を縮めて、話をしていくようにして、だんだんと兄妹らしくなっていったらいいのではないでしょうか。レオ様はまだ11歳でアナスタシア殿下は10歳です。ゆっくりでいいんです。無理しないでいいんですよ。今すぐ答えなくていいんです」

 私はそこまで話してから、アナスタシア殿下を見て、

「アナスタシア殿下も待ってくれるはずですよ」

「・・・」

 レオ様もアナスタシア殿下を見ました。

 アナスタシア殿下は頷くと、

「待ちます。それに、私もレオ兄様に認めてもらうためだけじゃなく、自分のために変われるよう頑張ります」

 レオ様はもうすでに変わりつつあるアナスタシア殿下を見て、目を細めましたが、

「アナスタシア」

「は、はい」

 レオ様は立ち上がると、

「こんな兄を慕ってくれて、ありがとう。それから、本当にすまなかった」

 アナスタシア殿下は首を振って、

「い、いえ。もう良いのです」

 すると、レオ様がとても遠慮がちにですが、アナスタシア殿下の頭をなでなでしました。アナスタシア殿下は嬉しさのあまりまた泣きました。


「カーライル。今回のことでは本当に面倒を掛けた。それに、私はずっと、城の人間を騙し続けていた。もちろん、キャスやリバーも・・・。悪かった」

 父は首を振ると、

「殿下は少し間違えていただけです。私たちが今まで見てきた殿下が本当の殿下の姿なのですから、騙してなどいませんよ」

 そう言ってから、アンバー公爵様と並んで立つと、「王族方を守る五大公爵でありながら、殿下一人に辛い思いをさせてしまいました。至らなさを痛感しております。申し訳ございませんでした」

「アナスタシア殿下に対しても、両陛下にお任せせずに、もっと積極的に対処に乗り出すべきでした。申し訳ございませんでした」

 と、アンバー公爵様が言うと、二人は揃って、頭を下げました。


 レオ様はこれでもかと眉をしかめて、

「二人とも、顔を上げろ。皆のせいではない。アナスタシアのことについては、シュナイダーのことがあっても、通常通り5歳で交流の場に出すべきだったのだ。その時に何かあっても、対策を早めに講じることが出来た。それを私が無理矢理10歳まで閉じ込めて、心の成長を遅らせ、他の人間と接する機会を奪ってしまった。罰を与えるだけではいけないと言うことに、私は長い間、気付けなかった。全て私の責任だ」

 レオ様は唇を噛みましたが、私の父は溜め息をついて、

「ですから、あなたはそうやってすぐに自分のせいにしてしまうからいけないんですよ。何のために私たちがいると思っているんですか。もう少し肩の力を抜いて、甘えたっていいのですよ」

「う、うむ。そうだな」

 レオ様は照れながら、頷きました。


 すると、サラ姉様が・・・。

「レオンハルト殿下。あなたの重荷を私にも持たせて下さい」

「え」

 レオ様は驚きます。

 サラ姉様は微笑んで、

「何を驚いているのですか?私は将来、レオンハルト殿下の姉になるのですよ?」

「そ、それは、そうだか・・・」

「レオンハルト殿下の重荷は皆の重荷です。一人で持つ必要はないのです。今の五大公爵様方はもちろん、将来、跡を継ぐリバー様やシュナイダー様も、皆、喜んで持ってくれるはずです。それにジャスティン殿下と二人でこの国を豊かにさせていこうと誓ったのでしょう?それなら、一人で頑張る必要はないのですよ」

 レオ様はサラ姉様の言葉を噛み締めるように頷くと、

「・・・そうですね。私は思い上がっていた。未熟なのに、自分一人で何とかしなくてはならないと思い込んでいた」

 そして、サラ姉様を見て、「サラ嬢。ひとつ頼みたい事がある」

「まあ。なんでしょう」

「私がアナスタシアに対してしたことをサラ嬢から兄上に、全て話してもらいたい。今の私には出来そうにない。だが、ここにいる人間以外では、一番先に知っていて欲しいんだ。他には私から話すが・・・」

「?今、出来ないとは何故・・・」

 と、父が聞きますと、

「今、すごく、眠いのだ。・・・いつもあまり眠れなかったが、今日は良く眠れそうで・・・」

 と、言いながら、レオ様の足がふらついて・・・。

「おっと」

 父はレオ様の体を支えました。

 レオ様はすでに・・・。

「眠ってらっしゃるな」

 アンバー公爵様はレオ様の顔を覗き込むと、「長い間抱えていた苦悩からやっと解放されたのかもしれませんな」

 レオ様の寝顔はいつもより幼く見えました。

 

 私はレオ様の安らかな寝顔を見て、涙がこぼれました。

 私は今までレオ様の色々なサインを見逃していたのかもしれませんね。

 ごめんね。レオ様。生涯の友と言いながら、今まで何もしてあげられませんでしたね。


 でも、私とレオ様はこれからも変わらず、ずっと一緒ですからね。



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