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本当の顔

『キャス。私はある人を救いたい。キャスに力を貸して欲しい。多分、キャスでないとだめなんだ』


『ある人って・・・誰ですか?』

 と、私は父に聞きました。


 でも、聞かなくても、分かっていたのです。



 レオ様はふたつの顔を持っているそうです。私やリバーたちに見せる顔とアナスタシア殿下に見せる顔・・・そのふたつの顔は全く違うそうです。でも、私が見てきたレオ様の方が本当のレオ様だと思う。そう信じたい。と、父は言いました。

 私は半信半疑でしたが、父に協力することにしました。

 もうひとつの顔なんて、私の知らないレオ様なんて現れなければいい。と、思いながら・・・。


 父は私たちが庭で『のらさん』と一緒に遊んでいた頃、アンバー公爵家の母が泊まる部屋に瞬間移動の魔法で入りました。その部屋ではアンバー公爵様が父を待っていました。

 私とサラ姉様は晩餐会の着替えや髪のセットを急いでしてもらい、もう魔法が使えるサラ姉様が鳥を飛ばし、父に準備が整ったことを知らせました。

 知らせを受けた父はアナスタシア殿下と共に私たちの部屋に魔法を使って移動しました。

 その時、アナスタシア殿下からダンレストン公爵家の昼食会での一件について、謝罪があり、そして、涙ながらにレオ兄様を助けて欲しいとお願いされました。

 私とサラ姉様は謝罪を受け入れ、協力を誓いました。


 晩餐会終了後、私たちはまた大急ぎで着替えると、アナスタシア殿下のお部屋に父の魔法で移動しました。

 それから、アナスタシア殿下のお部屋と繋がっている化粧室で待機となりました。

 ちなみに父はそこまでで体力が尽き、しばらく休んでいました(化粧室と言っても、とても広いです)。


 私たちはじっと待ち続けました。私はそんな中でも、レオ様が来なければいいと願っていました。父だって、そう思っていたはずです。

 そこへ、アンバー公爵様の鳥が舞い降りて・・・。


 私たちの願いも空しく、レオ様は私が知らない顔を見せ、アナスタシア殿下に対して、酷い言葉を浴びせたのです・・・。



 私にもうひとつの顔を見られたレオ様は叫びながら暴れました。

 父とアンバー公爵様に押さえられても、暴れ続けます。

 レオ様の叫びは、痛み、苦しみ、悲しみ、怒り・・・色々なものが混じっていて、思わず耳を塞ぎたくなります。

 でも、だめです。耳を塞いでは、目を反らしてはいけないのです。

 私は涙を拭いました。泣いている場合じゃない。私はレオ様を救う為にここにいるのだから。


「レオ様!」

 私は駆け寄りましたが、レオ様は気付かず、叫びながら、無茶苦茶に足と手を動かしています。「レオ様!!!」

 私は今まで出したことのない大声でレオ様を呼びました。

 レオ様は暴れることを止め、私を見ました。

「離してあげて下さい」

 と、私が言いますと、父もアンバー公爵様もレオ様から一歩離れました。


 レオ様はその状態のまま動きませんでした。ただ私を見つめています。ガラス玉のような瞳にも色々なものが混じっていました。

 私は無理に笑みを浮かべると、

「大丈夫ですよ」

 と、言って、レオ様を抱きしめました。


「大丈夫です」

 私はレオ様の背中を撫でながら、「レオ様は私の生涯の友です。何があっても、嫌いになんかなりませんよ。なれるわけないですよ。リバーだってそうです」

「う、嘘、だ」

 レオ様は酷く震える声で、「き、ゃす、は、み、見たのだ、ろ、わ、たし、が、悪魔になっ、とこ、ろ、を・・・な、なのに、嫌いにな、れない、なんて、嘘、だ」

「嘘ではありません」

 私はレオ様を少し離すと、顔を見て、「私は嘘はつきません。信じられませんか?私が信じられませんか?」

 レオ様は小さくですが、首を振りました。

 私はレオ様の小さな顔を両手で包むようにして、

「だって、あれは本当のレオ様ではないんですから。本当のレオ様は人をからかうけど、優しくて面倒見が良くて、良く笑って、たまに拗ねちゃう・・・そんなレオ様が私の知っている本当のレオ様なんです」

「・・・」

「ねえ、レオ様。私、レオ様がお友達になってくれるまで、お友達なんていなかったんですよ。ずーっと。私、顔に似合わず、内気ですし、『ども噛み』持ちだから、同じ子供の話相手なんてリバーしかいないんじゃないかって、お友達なんて出来ないんじゃないかって思ってました。・・・なのに、レオ様は私のお友達になってくれましたよね。私にサンドイッチを作ってくれたのは覚えていますか?美味しかったなぁ。めだかさんの絵も書いてくれましたよね。私、一生大事にしますね。私、レオ様たちを『落とし穴』に落とそうとしたけど、結局、許してくれましたよね。まあ、私が自分で落ちたんですけどね。あ、その時、シュナイダー様が笑いましたよね。楽しいこといっぱいありましたよね。たくさん一緒にいましたよね。5歳の時から、初めて会った時から、ずっと。私、レオ様に出会えて本当に良かった。私、レオ様が大好きです。これからもずっと一緒にいたいです。何があっても、私はレオ様の友達です」

 レオ様の目から大粒の涙がこぼれます。

「レオ様は私が泣いていたら、涙を拭ってくれました。頭をなでなでしてくれました。抱きしめてくれました」

 私はまたレオ様を抱きしめ、髪を撫でます。

「だから、私だってそうします。レオ様の悲しみ、苦しみ、痛み・・・私に見せて下さい。絶対逃げませんから」

 レオ様は私を抱きしめ返すと、

「キャス・・・キャス・・・」

 私の名を呼びながら、泣きました。


「ねえ、レオ様。レオ様に感謝していることはまだまだあります。友達になってくれただけじゃなく、私をシュナイダー様やサラ姉様に紹介してくれて、それから、ルークと会わせてくれたことです。レオ様のお陰で私の世界は広がりました。レオ様がいるから、今の私があるんです」

 アナスタシア殿下を支えるように抱きしめているサラ姉様が頷いて、

「私も感謝しています。レオンハルト殿下のお陰でキャスと友達になれました。それから、ジャスティン殿下に跳び蹴りしてくれたんですよね。あの方にはそれくらいしないとだめですものね。レオンハルト殿下のような弟君がいて、ジャスティン殿下は本当に幸せ者です」

 と、優しい声で言います。

「ああ。こんなこともありましたね。私がお父様にちょっと怒っていたら、お父様はお城で嫌われ者の役目をしているのだから、私にまで悪く思われたら、可哀相だ。だから、許してやってくれって・・・」

 私の父は目を細め、

「そうなのですか。ありがとうございます。私はキャスに怒られてしまうと本当に堪えますから」

 と、言って、レオ様の肩を撫でると、「嫌かもしれませんが、私も殿下のことが大好きなのですよ。あなたがどんなに素晴らしい方なのか私は知っています。皆、知っています」

「私も感謝していますよ。私の長い話を何だかんだで最後まで聞いてくれる殿下に感謝しています。私に似て、無表情で何を考えているのか分かりにくい孫と付き合ってくれて、本当に大事に思ってくれていることも。ありがとうございます。レオンハルト殿下」

 アンバー公爵様はレオ様の頭を撫でました。


「レオ様。レオ様は今日、自分は優しくないと言いましたね。そんなことありませんよ。皆がレオ様の優しさに触れてます。知っています。感謝しています。・・・それを、その優しさをアナスタシア殿下に分けてあげることは出来ませんか?」

 と、私は聞きました。

 ですが、レオ様は首を振って、

「あ、アナスタシア・・・す、すまない。私は、お前を、兄上やクリスと、同じようには、お、思えない・・・」

 それを聞いたアナスタシア殿下の目から涙が溢れ出ます。そんなアナスタシア殿下をサラ姉様が更に強く抱きしめました。



 レオ様はぽつりぽつりと話を始めました。

 ちょっと頼りないけど、自分にはない優しさを持ち、何事にも妥協出来ず、根詰めてしまうレオ様を外に連れ出し、レオはたまには息抜きをしなければダメだぞ。と、色んな遊びを教えてくれたジャスティン殿下のことがレオ様は大好きでした。

 だから、ジャスティン殿下を支えることが自分の使命だとレオ様は思ったのです。ジャスティン殿下の為に自分が汚いことでも何でもしようと。

 そんなレオ様にとって、我が儘なアナスタシア殿下は頭の痛い存在でした。アナスタシア殿下は何かにつけ、人の良いジャスティン殿下を振り回していたからです。そして、ジャスティン殿下もそんなアナスタシア殿下にとても甘く・・・。

 これが大人になっても続いたら?国王陛下が妹の我が儘を何でも聞いてしまう・・・そんな国王陛下を民がどう思うか・・・。レオ様はそんな先のことまで考え、自分はアナスタシア殿下に厳しくしようと決めました。なのに、アナスタシア殿下は自分に突っ掛かり、全く言うことを聞かない。そのうち、レオ様もうんざりして、何かあった時には注意するようにして、普段は距離を取ることにしようと決めました。ところが、アナスタシア殿下は仲の良い従兄弟であるシュナイダー様を困らせるだけ困らせて、ついには、表情を無くさせてしまったのです。そんなシュナイダー様を見たレオ様はアナスタシア殿下に対して、激しく怒り、憎しみさえ覚えるようになりました。


 そして、レオ様は。


 アナスタシア殿下がいなくなればいいと思うようになってしまったのです。



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