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露見(アナスタシア殿下視点)

 私はカサンドラ様、サラ様、そして、シュナイダー様に謝った。もちろん、口先だけの謝罪じゃない。私の出来る限り、心を込めて、謝った。

 カサンドラ様もサラ様も快く私の謝罪を受け入れ、これから仲良くしましょうね。と、言ってくれた。何故、私なんかにこんなことを言ってくれるのだろう。・・・二人は優しいのね。

 シュナイダー様には、あの頃、逃げてばかりで私こそすみませんでした。と、逆に謝られてしまった。シュナイダー様は何も悪くないと言いたかったけど、首を振るだけで精一杯だった。

 更にシュナイダー様は私と握手をしてくれた。私はその手の暖かさに涙が出そうになったけど、手を離した途端、お兄様がよく言えた!と、言って、私を抱きしめた。お兄様の方が今にも泣きそう。・・・だけど、また妹に甘いって言われちゃうから、ほどほどにしてね。

 

 そして、レオ兄様は・・・何も言わなかった。

 皆に挨拶をし、足早に部屋から出て行った。



 私は部屋に戻ると、侍女に手伝ってもらって、ゆったりとした部屋着に着替えた。

 退室しようとした侍女にありがとう。と、言うと、一瞬、とても驚いた顔をされた。

 そう言えば、今まで何かしてもらっても、お礼なんて言ったことはなかった。

 こういう所も変わっていかなくては。


 それから、私は落ち着きなく部屋の中を歩き回っていた。


 30分くらい経った頃、ドアが音もなく開いた。


 ・・・レオ兄様だった。


 レオ兄様はいつものように私を蔑むような目で見ながら、また音もなく、ドアを閉めると、

「どういうつもりだ。謝罪なんかしやがって。カーライルの入れ知恵か」

「ー・・・」

 私はレオ兄様のいつもよりずっと低く冷たい声に震え上がった。

「冗談じゃない。お前をシュナイダーの誕生日会に誘ったのは、お前を城から追い出す理由を作ってやろうと思ったからだ。ダンレストン公爵家の昼食会ではあれだけのことをしてくれたが、兄上の婚約破棄騒動のせいでお前をどうこうする暇がなかった。だから、今度こそはと思ってたのに、謝罪なんてふざけた真似をしやがって。私は絶対に認めない。シュナイダーが、サラ嬢が・・・キャスが許しても私は絶対に許さない」

「れ、レオ兄様。お願いです。許して下さい。私、これから変わりますから・・・だから、どうか許して下さい」

 私は懇願したけれど、レオ兄様は鼻で笑って、

「はあ?お前が変わろうがそんなことどうでもいいんだよ。変わったって、どうせ何の役にも立たないだろうが。お前はこの国に必要のない人間だ。お前の存在は国王となる兄上の邪魔にしかならないんだ。なあ。出来損ないのお前にだって、それくらいのことは分かるだろ?・・・分からないか?なら、お前が分かるまで、私や兄上の前から消えるまで言ってやるよ。出来損ないのお前なんか必要ないっ、出来損ないのお前なんかいなくなればいい!」

 レオ兄様は最後の方はほとんど叫んでいた。

 私はあまりの言葉に立っていられなくなって、座り込んでしまった。

 そんな私にレオ兄様が近付こうとしたその時・・・。


「そこまでにして頂けませんか」

 その声と共にカーライル様が化粧室から出て来た。

 レオ兄様がハッとして、そちらを見ると、

「な、何故、視察に・・・」

「視察は嘘です。あなたが妹君を蔑み、人間としての尊厳を無視した発言をする証拠を得るためにしたことです。私がいないとなれば、あなたは必ず実行に移すはずだと思いましたから」

 カーライル様は淡々とした口調で告げた

 すると、部屋のドアが開き、アンバー公爵様も入って来て・・・。

「アンバーのじいさん・・・」

 アンバー公爵様は小さく息を吐くと、

「カーライルが言ったこととは言え、信じたくはありませんでした。・・・非常に残念です」

 その声は少し震えていた。


 カーライル様はレオ兄様の前まで歩いて来て、

「殿下を罠に嵌めるようなことをしてしまい、申し訳なく思っています。・・・ですが、今止めないと、あなたの心もアナスタシア殿下の心も壊れてしまうと思ったのです」

「・・・」

 レオ兄様はどこか虚ろな目でカーライル様を見ていたけど、不意に肩を落とし、頭を垂れた。 

「何かおっしゃりたいことはないですか?」

 と、カーライル様がレオ兄様に問い掛けた。レオ兄様は黙っていた。カーライル様の問い掛けが聞こえていないのかと思ってしまうくらいだったが、それでも、カーライル様はレオ兄様の言葉を待ち続けた。


 すると、レオ兄様がようやく口を開いた。

「キャスとリバーには言わないでくれ・・・知られたくない・・・嫌われたくない・・・」

 その声はレオ兄様の声だとは思えないくらい弱々しかった。

 カーライル様は眉を寄せると、

「黙っていろと?あの子たちに何も知らせなくて良いのですか?隠し事をしたままですか?変わらず付き合えると思っているのですか?あの子たちはあなたにとって何ですか?」

「・・・」

 レオ兄様は何も言わない。何も言えないのかもしれない。


 カーライル様は溜め息をついて、

「そんなあなたに、私の子供たちを会わせるわけには・・・」

 すると、レオ兄様は弾かれたように顔を上げると、

「私からキャスを奪うのか?!」

 カーライル様はゆっくりと首を振ると、

「キャスはあなたの物ではありません。そういう考え方もやめ・・・」

「うるさい!カーライルに何が分かる?!キャスは私がやっと見付けた安らぎなんだ!キャスがいるから、人間らしい部分を失わないでいられるんだ!絶対にキャスは離さない!離すものか!」

「・・・」

 カーライル様はレオ兄様のあまりの剣幕に言葉を失ってしまう。

「キャスといると、私の心の中にある、アナスタシアを憎むどす黒い物が消えるんだ!だからっ、」

 と、レオ兄様が言いかけた時、カーライル様が出て来た化粧室からサラ様に手を引かれながらカサンドラ様が姿を現した。


「レ、オさ、ま」

 カサンドラ様の顔は涙で濡れていた。


 レオ兄様の怒りに染まった瞳が、カサンドラ様の姿を認めた途端、驚愕の色に変わり、そして、それは見る見るうちに絶望に覆われていき・・・。

「あ・・・あ・・・」

 レオ兄様はカサンドラ様に向かって、何度も何度も首を振っていたけれど、頭を抱えながら、膝をつくと、「うあああぁーーー・・・っ!!」

 悲痛な叫び声を上げた。



 誇り高いレオ兄様をこんな風にしてしまったのは私のせいだ。


 私はどうやって、償えばいいの?



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