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私に出来ること(アナスタシア殿下視点)

 どうしよう!よりによってカーライル様に知られてしまった。またレオ兄様に冷たくされる?もしかしたら、本当に城から追い出されるかもしれない!


 私は俯くと、

「い、いえっ、私、何も言ってません!」

 と、言いながら、何度も首を振った。

「アナスタシア殿下!」

 カーライル様は強い口調で私を呼ぶと、私の手を握った。

 私が顔を上げて、カーライル様を見ると、

「話して下さいませんか。一人で抱える必要はないんですよ。あなたは本当にこのままでいいと思っていますか?勇気を出して下さい」

 カーライル様はそう言って、私の好きなとろけるような笑顔を見せた。

 その笑顔を見た途端、涙が溢れて来た。

 そして、泣きながら、今までのことを、レオ兄様に愛されなかった日々を打ち明けた。


 カーライル様は額に手をやると、

「まさか・・・もう大丈夫だと思っていたのですが・・・申し訳ありません。私たちの落ち度ですね。レオンハルト殿下はともすれば私たちより頭がいいし、本心を隠せる」

 私は首を傾げると、

「レオ兄様のそういった面を知っていたのですか?」

 カーライル様は頷いて、

「シュナイダー君からアナスタシア殿下を離すよう、レオンハルト殿下が両陛下に頼まれた時に、ちょっと問題発言が・・・」

 私は目を細めると、

「私のような出来損ないを妹だと思えない・・・ですか?」

 カーライル様は驚いて、

「ご存知だったんですか?」

「はい。・・・両親がカーライル様に?」

「五大公爵全員にです。妹君を出来損ないであるとか、城から出て行くよう仕向けるだとか、更に両陛下に対して、脅しを掛けるような発言をしたことはけして見過ごせない問題ですからね」

「それで・・・」

「ですが、シュナイダー君を思うあまりに出た言葉ですから、それほどの悪意はないのではないか。それから、レオンハルト殿下は私たち大人と一緒にいる事が多く、その分、アナスタシア殿下の子供っぽさが我慢ならなかったのではないか。と、私たちは考え、もっと同世代の子供たちと接する機会を与えることにしました。それが、婚約者選びをさせた理由です」

「そうだったのですか・・・」

「レオンハルト殿下にはシュナイダー君とルーカス君がいましたが・・・失礼ながら、アナスタシア殿下のことがきっかけで、他人との関わりを極端に避けるようになったシュナイダー君は王都から離れていたこともあって、それどころではありませんでしたし、ルーカス君はレオンハルト殿下命ですから、あまり・・・ねえ」

「そ、そうですね・・・」

 カーライル様の言わんとすることは分かるような気がする。あの方は『レオ兄様馬鹿』ですものね。

 それよりも・・・私のせいでシュナイダー様はそんなに嫌な思いをしてたんだ・・・。今更だけど、本当に今更だけど、思い知らされた。


「私の息子であるリバーとレオンハルト殿下を引き合わせることが目的でした。リバーなら物おじせず、自分の考えを言えますからね。それから、レオンハルト殿下が婚約者選びに乗り気になるよう仕向けるために、私がカサンドラを婚約者候補とするのを最後まで反対していたと言う噂を流しました。レオンハルト殿下は私を困らせるのがどうもお好きなようですからね。実を言うと、レオンハルト殿下がカサンドラと打ち解けるのは難しいだろうと・・・いえ。初対面時の二人を見て、その可能性は全くないだろうと考えていましたが、どういうわけか、レオンハルト殿下はカサンドラととても親しくなり、面倒も良く見てくれました。そして、レオンハルト殿下自身、色々な経験をし、本当に楽しそうにしていました。それで、私が大丈夫だろうと判断したのです」

「・・・」

 レオ兄様がたまに私に優しかったのは、私が世界で一番嫌いなカサンドラ・ロクサーヌのお陰だったのかもしれない。


 カーライル様は溜め息をつくと、

「私の判断ミスですし、皆、事態を軽く見ていたのでしょう。それに、レオンハルト殿下は愚かな真似などしないと信用していましたから」

 私はハッとして、

「レオ兄様は愚かなことなんてしていません!私が出来損ないだからいけないの!」

「あなたは出来損ないではありません!」

 カーライル様は強い口調で言うと、「アナスタシア殿下は、ある意味、レオンハルト殿下に心を支配されてしまっています。レオンハルト殿下の気を引きたいがあまりに怒らせ、更に疎まれると言う、悪循環に嵌まっています。兄を慕う気持ちは誰にでもありますし、素晴らしいことです。ですが、そのせいで、盲目となり、レオンハルト殿下こそが正しく、絶対的な存在だと思ってしまう。だから、あなたはレオンハルト殿下の言葉に囚われて、自分だけが悪いと、出来損ないだと思い込んでしまう。・・・自分の妹を出来損ないだと言う人間が正しいですか?あなたの大好きなお兄様は間違っています。そのことも理解してください」

「・・・レオ兄様が間違っている・・・」

 私は初めて聞いた言葉のように声に出した。


「完璧な人間なんてこの世にはいませんし、レオンハルト殿下も完璧ではありません。そうありたいと思うがこそ、妥協が出来ずに、あなたを蔑むのかもしれませんが」

「わ、私はレオ兄様に好かれるにはどうしたら・・・」

 カーライル様は眉を寄せて、

「そんな考えもやめないとなりません。レオンハルト殿下のためだけに生きているわけではないでしょう?」

 でも、私はその思いで生きているようなものだもの。

 お父様やお母様、お兄様、クリスに家族として、大事に思ってもらっているのは、こんな私にだって分かっていた。

 だけど、レオ兄様に存在を認めてもらえない以上、私も家族の一員だと胸を張って言える日なんて来ないのかもしれない。


 私が黙り込んでしまっていると、

「このことは両陛下にお話しますね」

 と、カーライル様がとんでもないことを言うものだから、私は思わず、大きな音をさせながら、立ち上がると、

「やめて!カーライル様に話したことも後ろめたいのに、お父様とお母様にまで知られたら、私、どうすればいいの?!」

「レオンハルト殿下が怖いのですか?」

 カーライル様は少し怖い顔になると、「それで、あなたに仕返しをするような人間ならば、言い逃れをするような人間ならば、私が公爵としての地位をかけて、レオンハルト殿下を糾弾します。レオンハルト殿下には間違いを認め、悔い改める機会を与えなくてはなりません。王族を守ることだけが私の役目ではありません。正しい方向へ導かなければならないのです。・・・アナスタシア殿下。これはあなただけのためじゃない。レオンハルト殿下、あなたのお兄様のために言っているのです」

「・・・」

「あなたも苦しいかもしれませんが、きっと、レオンハルト殿下も苦しんでいるはずです。自分の二面性をひた隠しにしていることが何よりの証拠でしょう。ちゃんと悪いことだと分かっているのです。今ならまだ間に合います。あなたがお兄様を救うのです」

「・・・私がレオ兄様を救う・・・」

 そんなことはこれまで考えてもみなかったことだった。そんなことが私になんかに・・・「私に出来るのでしょうか・・・」

 カーライル様は微笑んで、

「出来ますとも。大好きなお兄様のためでしょう」

 私は頷いた。そうね。レオ兄様のためだと思えば、頑張れるわ。


 こんな私にもレオ兄様のために出来ることがあると知って、急に目の前が開けたように、気分が軽くなったのだけど、

「さて、まず初めにあなたがしたことについて、反省をしましょうか。経緯や何故そんなことをしたか、それについて、どう思うか、これから、どうすべきか。・・・そうですね。ノート、20ページ分書いてもらいましょうか」

 と、カーライル様がちょっと散歩にでも行きましょうかとでも言うように事も無げに言った。

「えっ!」

 私が驚愕の声を上げると、カーライル様はおやと首を傾げて、

「30ページがいいですか?お兄様を救う前にあなたが変わらないと意味がないんですよ。カサンドラやサラ様にも謝るべきなんですよ。シュナイダー君にも謝っていないでしょう」

「・・・カーライル様が謝れと言うのなら・・・」

 私がぼそぼそと言うと、

「やっぱり30ページですね。ノートを持って来ます」

 カーライル様は溜め息混じりにそう言うと立ち上がった。

「ま、待って。カーライル様」

 私は止めようとしたけど、カーライル様はにっこりと笑って、

「まだ何かおっしゃるのなら、50ページにしますよ?」

 ・・・カーライル様の笑顔って、何故、たまに怖い時があるのかしら。


 それから、私は反省文ばかり書くことになったの。

 カーライル様は私が書き上げた反省文を読んで・・・。

『読む価値なし』・・・5時間もかけたのに、一行読んだだけで、ごみ箱に直行してしまった。

『これが反省文ですか?弁解してるだけでしょう。反省の意味から説明しましょうか?』・・・1時間説明された。

『ごめんなさいと書けば、反省していることになると思ってますか?ごめんなさいは禁止です』・・・申し訳ありませんと書いたら、凄い目で睨まれたわ。

『シュナイダー君が好きだから、好きだから、好きだから!あーっ!どこがそんなにいいんだ!好きなら何をしてもいいってわけがないでしょう!押して駄目なら、引きなさい!畜生!』・・・シュナイダー様に恨みがあるのかしら?

『え?右手が痛い?では、左手でどうぞ?』・・・ひ、ひどい。

 ・・・私、本気で泣いたわ。カーライル様は泣いてる私を見ても眉一つ動かさなかったけれど。


 そうして、反省文を何回も書き直し、何回も読み返しているうちに、物事を客観的に見ることが出来るようになった。

 今までの自分がどれだけ我が儘だったか、人の気持ちを考えられていなかったか、ようやく分かってきた。

 私は今までの自分を恥ずかしく思った。

 何とか変わりたいと思った。いいえ、必ず変わらないと。


 反省文を書き続けて、8日が経ち・・・。

「いいでしょう。まあ、おまけですが」

 やっと合格をもらえたわ!

「カーライル様。私、カサンドラ様とサラ様、シュナイダー様に謝りたいです」

「口先だけだったら、反省文、50ページですよ?私が見破れないだなんて思ってらっしゃらないですよね?」

 カーライル様はにっこりと笑った。


 こ、怖い・・・。



 その日、ずっと断って来たシュナイダー様のお誕生日会に出席するようにと、レオ兄様が直接言って来たの。


 ・・・どうしてかしら?



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