あの方はシュナイダー様の元にいます
いよいよアンバー公爵家にやって参りました!今回は体調も万全です!朝食も腹八分目で抑えました!
今まで、五大公爵家の交流会の時にしか、お邪魔したことはありませんし、おまけに、お泊りなんて初めてですからね。ワクワク、ドキドキです!
ですが、浮かれてばかりもいられません。
アナスタシア殿下も来られるのです。
初めは両陛下とジャスティン殿下に勧められても、行かないと言い張っていたようですが・・・。
「いつ見ても素敵」
馬車の中から、私は湖の中央にあるアンバー公爵家のお屋敷をうっとりと見つめていますと、
「キャス。同室のサラ様にご迷惑を掛けないようにね」
母のマリアンナが言いました。
「はい」
と、私は答えましたが、
「食べ過ぎちゃダメよ。眠れないからって、部屋からふらふら出ていっちゃダメよ。逆に眠くなったからって、変なところで寝ないでね。あ、ぼうっとして階段から落ちないでね。それから・・・」
ひぃっ!注意事項が多過ぎです!
勘弁してー・・・と、思いつつ、外に目をやりますと、
「あっ!レオ様とシュナイダー様!」
庭にいるレオ様とシュナイダー様を発見しました!レオ様がこちらに向かって、手を振っているので、私は馬車の窓を開けて、手を振り返します。ふぅ。助かりました。
ちなみにレオ様は昨日からアンバー公爵家に泊まっています。
多分、アナスタシア殿下と一緒に来たくなかったのだと思います。
サラ姉様によると、レオ様のアナスタシア殿下を見る目を見ていると、自分が凍り付きそうだとジャスティン殿下がおっしゃっていたそうです。兄としては、情けない話ですが、そういうお話もするようになったのだなあと思いました。
馬車が止まり、リバー、母と続いて、私が降りますと、
「キャス!」
早速、レオ様が抱きついて来ました。・・・挨拶として、受け入れましょう。
「皆様、私の為にお越しいただきありがとうございます」
と、シュナイダー様が丁寧にお辞儀しました。
「お招きありがとうございます」
私たちも挨拶をしていますと、
「こんにちは!」
ルークが走って来ます。一番乗りではなかったようです。ちぇ。
ルークの後ろからは私の母と同年代の女性がやって来ていました。ルークママですね!初めてお会いします!
「初めましてー。ターニャ・シャウスウッドと申しますー。お会いできて光栄ですわー。息子がお世話になってー」
ルークママはとても朗らかにご挨拶されました。とても明るい方のようです。
初めての方が苦手な私がリバーの側でまごまごとしていますと、ルークママが私を見て、
「カサンドラ様ですね。ルーカスから良く話を聞いてますわー。お綺麗で、お優しくて、楽しい方だってー」
「いや、自分は面白い方だとしか・・・」
と、ルークが言いかけたので、「いってー!」
ルークママはルークに強烈なゲンコツをお見舞いしました。
「余計なことを言わないのっ」
と、ルークママは注意をした後、唖然とした私たちに気付いて、一瞬、気まずそうな顔を見せたものの、「おっ、おほほほー。この子ったらねー、私が甘やかしたばっかりにー、皆様にご迷惑をかけていなきゃいいんですけどねー。おほほほー」
「・・・」
何だか楽しい方のようです。そして、ルークは頭を抱えながら、しゃがんでいます。どれだけ強いゲンコツを落とされたのでしょうか。まあ、いい気味です。私を面白い方なんて言ったんですからね。私はごく普通の方ですよ。
その後、お母様方はお茶とお喋りを楽しみ、子供の私たちは庭で遊ぶことにしました。
「わあっ!」
一匹の犬さんが私に飛び掛かって来ました。「のらさん、元気だったー?!」
『落とし穴作戦失敗』の助演俳優犬(?)である『のらさん』はシュナイダー様に躾をしてもらった後はリバーに飼い主を探してもらうことになっていましたが、シュナイダー様が飼っている大型犬さんたちと仲良くなり、離れ離れにさせてしまうことを忍びなく思ったシュナイダー様が『のらさん』も飼ってくれることになったのです。うーん。『のらさん』がちょっと羨ましいですね。
「のらさん。良かったねー」
私はのらさんのお腹を撫でてあげながら、「どうして、血統書付きの犬さんたちに気に入ってもらえたんだろうねー」
「くぅーん」
『のらさん』は気持ち良さそうです。
「自分、分かる気がします・・・」
ルークの目には、私の周りにいるレオ様、シュナイダー様、リバーが『血統書付きの犬さん』に見え、私が『雑種の元お馬鹿犬さん』に見えているようで・・・。何ですと?!
「のらさん。あの赤いのをやってしまうのです!」
私、ルークを指差して、命令しましたが、
「わおんっ!」
『のらさん』は私に飛び付いて来ました。あれ?
「他は出来るようになったのですが、人を襲わせようとしても(もちろん、番犬としての訓練です)、『のらさん』はなかなか言うことを聞いてくれなくて・・・」
シュナイダー様はとてもすまなそうにしています。ルークを襲う必要はないのでいいんですよ?変な命令をして、すみません。
「まあ、キャスが手懐けた犬だしな」
レオ様?どういう意味でしょう?
私が首を傾げていますと、
「あ、サラ様じゃない?」
と、リバーが言いました。
ダンレストン公爵家の馬車がやって来るのが見えました。
私が走ろうとしたところ、『のらさん』がすごいスピードで走って行きました。んっ?!
シュナイダー様が待てと声を上げても、おかまいなしに『のらさん』はサラ姉様に飛び付きました。
「まあ、のらさん。私を歓迎してくれているのね。ありがとう」
サラ姉様はいきなり飛び付いた犬さんにも天使のように優しく接します。
それにしましても、『のらさん』は尻尾が切れるんじゃないかと言うくらい振ってます。
うーん・・・。どうも・・・。
「キャス。残念だったな。のらはサラ嬢の方が好きらしいぞ」
や、やっぱりですか?!この裏切り犬さんめー!
「シュナイダー様。お招きありがとうございます」
サラ姉様がお辞儀をしました。
「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます」
シュナイダー様は頭を下げてから、「すぐお荷物を運ばせますので」
「ありがとうございます」
サラ姉様はお母様の付き添いはなしです。まあ、私とは違いますしねー。
サラ姉様はそれぞれに挨拶を済ませた後、
「キャス」
私を抱きしめて、「同室なんて楽しみね!たくさんお喋りをしましょうね!」
「はいっ!」
あー、やっぱりお菓子持ってくれば良かったー・・・と、思いつつ、リバーを恨めしげに見ますと、リバーはゆっくりと首を振りました。
お姉ちゃんの考えていることを読みましたね!
「では、私たちもあちらでお茶にしましょうか」
と、シュナイダー様がテラスを手で示しました。
「あ、お土産に我が家のシェフの新作スイーツをお持ちしましたので、良ければお茶と一緒に召し上がって下さい」
おっ!
「楽しみです!ねっ、レオ様!」
「うむ」
レオ様はダンレストン公爵家のスイーツが好きですからね。
そこへ・・・。
「あ、来られたようですよ!」
王室の馬車がやって来ました!白い馬さん(魔法製ですが)と黒の車体のコントラストがカッコイイです!
私たちが馬車に見とれていますと、
「すまない。気分が優れないから、部屋に戻ることにするよ」
と、レオ様は早口でそう言うと、歩いて行きます。
「レオ様!」
私が思わず、声を上げますと、レオ様は振り返ってから、私の側に来て、
「キャス。あれが何かしたら、すぐ私に言ってくれ。今度こそ容赦しない」
「ー・・・」
私は思わず震えてしまいました。
レオ様のガラス玉のような瞳はとても冷ややかだったのです。




