お泊りの準備をしましょう
アンバー公爵家にお泊りする前日の夜・・・。
「リバー!ちょっと来て!助けて!」
私はリバーに助けを求めました。
「キャスー?何ー?」
リバーが私の部屋に入って来ました。そして、「何?まだ寝ない・・・」
と、言いかけて、ギョッとすると、
「な、何してんの?!」
私はベッドの上にお泊り用の荷物を広げていました。もう物で溢れ返っております。
「トランクに全部入らないの。リバー、悪いけど、手伝ってよ」
「入らないって、トランク2個あるのに?」
お泊りは2泊3日の予定になってます。まあ、前世なら、トランク2個はおかしいと思われるでしょうが、一日目は晩餐会、二日目は誕生パーティーがありますので、それぞれ応じた装いに必要なドレス、靴などかさばる物を持って行かなければなりませんからね。
「いいけど・・・」
リバーはベッドの側に来て、「あれ、どうして、魚図鑑?」
「サラ様が同室でしょう?前にお魚さん図鑑が見たいって・・・」
「はい。却下」
リバーはお魚さん図鑑を脇に寄せます。
「な、何故?!」
「二人でのんびり図鑑を見ている暇があるとは思えない。その筒は?」
「レオ様が書いてくれためだかさんの絵よ。きれいに巻いて、筒に入れてあるのよ。図鑑に載ってないからね」
「はい。却下」
リバーは筒を無造作に転がします。あー!めだかさんがー!
「な、何故・・・」
「サラ様は前に実物を見ている」
「あ、そっかー」
「あれ?」
リバーは雨傘を取って、「雨、降るっけ?」
「備えあれば憂いなしよ!」
私は胸を張って言いました。
私、前世では、降水確率0%でも、折りたたみ傘を常備しておりました。残念ながら、この世界には便利な折りたたみ傘はありませんので、馬鹿みたいに大きな傘を持って行かなければなりませんが。
リバーは溜め息をつきますと、
「キャス。気持ちは分かるけど、一応、公爵令嬢なんだから、自分で用意する必要はないんだよ。馬車移動だし、もし雨が降っても、アンバー公爵家の使用人さんがちゃんとしてくれるから。そういうのが彼等の仕事なんだよ」
「な、なるほど!深いわね!」
「深いってほどじゃないと思うけど・・・」
「じ、じゃあ、これは?」
私は大きな布の袋を引っ張りました。
「何?」
「お菓子よ!お喋りしながら食べるの」
私は喜々として言いましたが、リバーはやれやれと言うように首を振ってから、
「はい。却下。全部僕が預かっておく」
と、言って、布の袋を足元に置きました。
「のーっ!!リバーが全部食べるつもりね!」
「のー、って、何さ」
と、リバーは笑いましたが、「僕が食べるわけないだろう。アンバー公爵家でごちそうが出るのに、更にこんなの食べて、おなかが痛くなっていいの?それどころか吐くかもよ?」
「うっ・・・」
そ、それを言われますと・・・。
「ああ。これはシュナイダーへのプレゼントだね。ぐしゃぐしゃになったら困るから、僕のに入れて行くね」
「はい・・・ごもっともです。お願いします」
「どうして、パーティー用と晩餐会用のドレスが3着ずつあるの?」
「ああ、それは悩んでるから、サラ姉様に選んで・・・」
リバーが腕を組んで、怖い顔をしますので・・・「え、選びます。今、選びます!えっと、サラ姉様は黄色が好きだから、オレンジはやめておきましょうか。サラ姉様が濃い黄色だったら、似ちゃうしね。薄いグリーンも光の加減で黄色と似て見えるかもしれないから、あ、すみれ色はどうかしら?事前の調査では、アナスタシア殿下はピンクとか赤が好きらしいし。じゃあ、晩餐会は濃い青にするわ」
リバーは頷いて、
「夜だし、いいんじゃない?じゃあ、僕の小物も合わせるよ」
「良かった!じゃあ、もう大丈夫ね!」
「待って。ハンカチ、こんなに必要?」
「え、シュナイダー様の誕生日会で感動することがあるかも・・・」
「ないです」
リバーはキッパリと言いました。
「はい・・・」
私は数枚取ってから、ハンカチの山を脇に寄せて、「じゃあ、これで・・・」
「枕っている?」
「ほら」
私はポンと枕を叩いて、「枕が変わったら、寝れないって言うでしょう?」
すると、リバーがにっこり笑いました。あの怒りオーラが漂ってくる笑顔です。こ、怖いです。
「ねえ、キャス?」
「ふ、ふぁい・・・」
「自分で特技は『どこでも寝れる』って、誰に言ってんだか分からないけど、再々言ってただろう?忘れた?」
「い、いえ、忘れてません!」
私は何度も首を振りました。
リバーはよしと頷いてから、ぽーんと枕を放りました。お姉ちゃんの枕を雑に扱わないで下さい!
「うん、これでトランクに入るはずだ」
「はい」
私はホッとして、「ありがとうございました」
と、感謝を込めて言いました。
リバーは大きな布の袋とシュナイダー様へのプレゼントを持つと、
「じゃあ、明日は馬車移動するんだから、早く寝るんだよ」
「はーい。おやすみなさーい」
「おやすみ」
と、リバーは私の部屋から出て行こうとして、足を止めると、「あ、最初に言おうと思ってたんだけど」
「え?なあに?」
「キャス、不器用なんだから、自分でトランクに荷物を入れるのはやめておいたら?キャス、不器用なんだし、朝までかかっちゃうよ。と、言うわけで、侍女さんに頼んでね。じゃあ」
と、言って、リバーは行ってしまいました。
そ、そうでした!私、不器用でした!リバーの言う通りです!
ですが・・・2回も不器用だと言う必要はあったのでしょうか?!お姉ちゃん、泣きそうです!
私が何とか立ち直って、侍女さんを呼びに部屋を出ようとしたところ、ドアがノックされました。
「はい?」
私がドアを開けますと、父が居て、
「キャス、ちょっといいかな」
「はい?」
ん?いやに真剣な顔をしていますね。
そうでした!父は地方に視察に行くことになっていて、私たちとはしばらく会えなくなるので、寂しいのですね!
慰めてあげましょう!




