小さな王子様
あの婚約破棄騒動から、2週間が経ちました。
ジャスティン殿下とサラ姉様はもう大丈夫でしょうが、大きな問題が残っています。
アナスタシア殿下です。
父の話によると、アナスタシア殿下は1ヶ月の外出禁止を両陛下から言い渡されたそうです。現在、アナスタシア殿下のお気に入りである私の父が毎日顔を出し、勉強などを見ています。
そのお陰かアナスタシア殿下は落ち着いた様子で毎日を過ごしているようですが、私やサラ姉様に謝る気は一切ないようです。だから、外出禁止も1ヶ月まで延びてしまったのですが・・・私もサラ姉様もずいぶん嫌われてしまったようです。
私はまだ良いとしても、将来、義理の姉妹になるサラ姉様は辛いことでしょう。
私がそんなことを部屋で考えていますと・・・。
「キャスー。レオ様達、来たよー」
と、リバーの声がしました。
今日、レオ様がクリス殿下を初めて我が家に連れて来るのです。
私は憂鬱な思いを振り払うように立ち上がると、部屋から出て行きました。
「は、はじめまして。クリス殿下。カサンドラ・ロクサーヌと申します」
私は緊張しつつ挨拶しました。いまだに初めての方にはすごく緊張します。
「・・・は、はじめまして・・・クリスです」
私よりも緊張しているクリス殿下はレオ様にぴったりとくっついています。か、可愛いです。
それにしましても、クリス殿下はジャスティン殿下にそっくりですね。
レオ様とアナスタシア殿下も似ています。だからこそ、上手く行かないのでしょうか?
「そんなに互いに緊張していると、見ているこちらの方が疲れるな」
レオ様が苦笑いしました。
すみませんねー。と、私は心の中で言いましたが、
「あ、そうだ。クリス殿下。お魚さんを見てみませんか?」
困った時のめだかさんです!
「お魚さん・・・」
「図鑑にも載っていない珍しい魚だぞ。見たいだろう?」
と、レオ様が言いますと、クリス殿下はレオ様の手をきゅっと握って、
「・・・はい」
ぐはっ!可愛い!何て美しい兄弟なのでしょうか!
「おい。キャス」
と、レオ様が眉をしかめて、「何を興奮してるんだ」
「へ・・・」
「息が荒いぞ。あまりクリスに近付くな」
レオ様は左手をしっしと虫さんを追い払うように動かしました。
な、何ですか。普段、くっついてくるのはレオ様ではないですか!まさか、私のせいでクリス殿下が『ども噛み病』を発症するとでも思っているのでしょうか。そんなわけないでしょう!
私がぷりぷりしていますと、
「カサンドラ様ではなく、キャス様なのですか?」
と、クリス殿下が聞きました。
「あ、キャスは私の愛称なんですよ。クリス殿下も良かったら、キャスと呼んで下さい!」
と、言いますと、クリス殿下がポッと頬を染めました。
な、何ですか!この生き物は!可愛過ぎます!私は変な小動物ですが(自分で認めちゃってます)、クリス殿下は可愛過ぎる小動物ですね!
ところが。
「いや、クリスはずいぶん年下なのだから、愛称呼びは失礼だろう」
レオ様は何故か不服そうです。
いや、失礼なのは、あなたのセクハラ行為の方でしょう。
私の方がよっぽど不服ですが、クリス殿下の前でお兄様のセクハラ行為をばらすわけにはいきませんので、何も言えずにいましたが、
「いいのではないですか?愛称呼びした方が打ち解けるのではないでしょうか」
と、リバーがナイスな提案をしました!ですよね!クリス殿下も私のように内気みたいですからね!
「で、では、キャス、ち、ゃんと・・呼びます・・・」
クリス殿下は遠慮がちにそう言うと、真っ赤になりました。
ぐはっ!まさかの『ちゃん』付けですか!可愛いです!レオ様、この可愛過ぎる小動物さんを我が家に置いて行って下さい!
私は一人興奮してましたが、その側でリバーとレオ様は何故か睨み合ってます。どうしたのでしょう?男の子は良く分かりません。
「うわー、キャスちゃん、綺麗ー」
と、クリス殿下が目を輝かせながら言いました。
いやだ。私が綺麗だなんて、照れます。・・・何て言うのは冗談で、クリス殿下はめだかさんを見て言ったのです。え?分かってました?そうですか。ちぇ。
「先程、餌をあげたばかりなので、今度また一緒にあげましょうね」
餌は与え過ぎてはいけませんからね。
「はい!」
クリス殿下は元気良く答えました。
めだかさんのお陰で、打ち解けられそうです。
しばらく、池の前でレオ様たちと過ごしていますと、
「殿下ー!」
と、大きな声が聞こえて来ました。ぬ。この声は『レオ様馬鹿』ですね。
振り返ってみますと、やっぱりルークでした。ところが、後ろからはシュナイダー様も来られてます。私、ちょっと頬が赤くなったのが自分でも分かりました。シュナイダー様と会うのはあの日以来ですからね。
「どうしたんだ。二人とも。今日は来れないと言っていなかったか?」
と、レオ様が聞きますと、
「実はどちらも午前中に用事がありましたので、殿下たちの出発を遅らせない方が良いかと思いまして」
と、シュナイダー様が答えました。
「変な遠慮をするなよ」
「ルークはともかく私は午前中だけでは済みそうになかったので」
リバーが首を傾げて、
「なのに、わざわざ来たの?」
「そう時間もありませんので、早くお渡ししたかったのです」
シュナイダー様は封筒の束を出しました。
「?それは?」
と、レオ様が聞きます。
「私の誕生日会の招待状です。皆さんに出来るだけ早くお渡ししたいと思い、こちらへ来たのです」
と、シュナイダー様は安定の無表情で言い、それを聞いた私たちはぽかんとしてしまいました。
「何をそんなに驚いているんですか?」
既に招待状を貰っているルークは不思議そうにしています。
いや、普通に驚くでしょう!
何故なら・・・。
「その顔で誕生日会?!これほど誕生日会が似合わない男はいないぞ!」
と、レオ様はシュナイダー様の顔を指差しながら言いました。
レオ様・・・さすがに失礼ですよ。




