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誓い

 あれが嘘泣きだったこととサラ姉様に『間抜け』と言われたショックでジャスティン殿下は唖然としていましたが、

「だ、だが、アナスタシアに厳しいレオが何も・・・」

「疑わしきは罰せず。と言ったところだと思います。それにあの場で嘘泣きだとばらして、更にアナスタシア殿下の品位を貶めて、何になりますか?・・・公然と非難した私が言える立場ではないですが」

 サラ姉様はジャスティン殿下に言い聞かせるように話してます。まるで、学校の先生のようです。


 ジャスティン殿下は肩を落とすと、

「私は本当に間抜けだな・・・」

 がっくりしているジャスティン殿下が気の毒に思ったのかサラ姉様は目を細めていましたが、

「ジャスティン殿下は先程、これからアナスタシア殿下に対して、厳しく接して、叱れるように・・・と、おっしゃいましたね?」

「う、うん」

 ジャスティン殿下、また何かきついことを言われるのではないかと、ビクビクしています。


 しかし、サラ姉様は笑みを見せて、

「もちろん、必要だと思います。ジャスティン殿下にはこれからアナスタシア殿下に対して、毅然とした態度を取って欲しいと思います。ですが、厳しくしたり、叱ったり、罰を与えるだけでは、アナスタシア殿下を良い方向に導くことは出来ないのではないでしょうか。私も、その、あのような大変な方(ちょっと気を使っているようです)をどうすればいいのか分かりませんが、それは、これから王族の方々、その周りの方々、もちろん私を含めて、皆で考えていかなければならないことだと思うのです。・・・ですが、ジャスティン殿下。あれが嘘泣きだと知っても、これからまた間違いを犯しても、アナスタシア殿下のことをけして見捨てないで欲しいのです。そして、ジャスティン殿下ご自身も、簡単に騙されて、何も悪くないキャスを責めたような失敗を二度としないよう、目に見えている部分だけで判断などせず、物事を慎重に見極め、確たる意志を持って行動することが必要なのではないでしょうか。それは、これからのジャスティン殿下にとって、きっと、役に立つはずです」

「・・・」

 ジャスティン殿下はサラ姉様の言ったことを噛み締めるように何度か頷いた後、「何だか変わったね・・・」

 と、ぽつりと言いましたが、

「ところで」

 と、サラ姉様はジャスティン殿下が言ったことはまるで無視して、「次は私たちの話を致しましょう」

 待ってました!


「初めにお聞きしたいのですが、顔を見て話をしたいとおっしゃったのは、ジャスティン殿下ですのに、私と目を合わせないとは、一体どういうおつもりなのですか?」

 ズバッと、切り込みましたー!「いえ、今だけではなく、これまでもそうでしたね。私は見るに堪えない顔をしていますか?」

 ジャスティン殿下はまるで頬を叩かれたように、ハッとしますと、

「と、とんでもない!サラは美しくて、気品もあるのに、愛らしさもあって、清楚で、可憐で、美しい、あ、言ったか。あ、それで、そのっ、サラはともかく完璧なんだ!」

 と、ジャスティン殿下は真っ赤になりながら言いました。

 サラ姉様もさすがに真っ赤になります。


「ひ、一目惚れだったんだ。だから、レオと昔からの慣例なんてなくしていこうと話をしていたのに、まず先になくそうと思っていた『婚約者選定会議』を利用して、君を婚約者にしたんだ。わ、私なんて、王子であることしか、他の男に勝てるところなんてない。だから・・・そうするしかなかった」

「・・・」

「サラを前にすると、頭も口もろくに回らなくなってしまうんだ。そんな自分に呆れられたらと思うと、怖くて、目が合わせられなかった。で、でも、何より、サラが、か、可愛過ぎて、は、恥ずかしかったんだ」

「ジャスティン殿下・・・」

 サラ姉様は溜め息混じりでそう呼びますと、「私はそのせいでずっと苦しんでいたのですね」

「も、申し訳ない!」

 ジャスティン殿下は頭を下げましたか、

「謝って下さるのは良いのですが、一国の王子が簡単に頭を下げてはなりませんよ」

 と、サラ姉様が言いましたので、ジャスティン殿下は慌てて、顔を上げました。


 サラ姉様は頷くと、

「私が変わったとおっしゃいましたね?」

「え?あ、ああ」

「私、泣いて、泣いて、落ち着いた頃、ふっと、何を悲劇のヒロインぶっているのかしら。と、思ったのです。私、婚約破棄をすれば楽になると、一度は逃げました。ジャスティン殿下にはアナスタシア殿下や周りの人間に何を言われても動じない、強い女性がふさわしい。そんな風に思いました。ですが、私がそうなればいいのではないかと思い直したのです。そして」

「さっ、サラ、それって!」

 と、ジャスティン殿下が遮るように声を上げたので、

「まだ話しているのですから、途中で遮らないで下さい」

 今のサラ姉様はおっちょこちょいな生徒に注意する先生のようです!

 ジャスティン殿下がぼそぼそと謝り、サラ姉様はまた頷くと、

「そして、この部屋の前で弱さを見せてくれたジャスティン殿下を見て、私、嬉しく思いましたわ」

「え、嬉しく・・・?」

「けして、飾ることなく、弱いところ、情けないところを私に見せてくれたことが嬉しかったのです。そこで初めて、ジャスティン殿下が私を好きなのだと確信出来たのです。それから、貴方は私ではないと駄目なのだと言うことも確信しました。私は既に完璧な方より、これから一緒に成長していける、ちょっと情けないくらいの方がいいです」

「さ、サラ・・・そ、それじゃあ、婚約破棄は・・・」

「私と一緒に成長してくださるなら、破棄を破棄致します」

「も、もちろん!一緒に成長していくよ!」

 ジャスティン殿下が勢い込んで言いますと、サラ姉様は悪戯っ子のような笑顔を浮かべて、

「口だけで終わったら、承知致しませんわよ?」

「誓う。私は君と一緒に成長して行くと、誓うよ。私は君に相応しい男となることを、誓うよ。これからは君がいつも笑顔でいられるよう、けして、不安にさせるような態度を取らないと、誓うよ」

 ジャスティン殿下はとても凛々しい表情で言いました。だ、誰ですか?って、思うくらいキリッとしています!愛の力はすごいです!

「私も貴方の傍からけして離れないことを誓います」

 サラ姉様はジャスティン殿下の手を握ると、「私もこれまで一度も言ったことはありませんでしたね。・・・私、ジャスティン殿下のことが大好きです」

 そう言って、本当に天使のような笑顔を見せました。 



 私とレオ様は残念ながら、父に引っ張られ、広間に戻ることにしました。

「あー、良かった。肩の荷が降りた思いです」

 と、父が言いましたので、レオ様は首を傾げますと、

「?どういうことだ?」

「私の責任でもあると思っていましたから。アナスタシア殿下があまり良い精神状態でないことを知りながら、3人だけにしてしまいましたから。反省しています」

 父はそう言って、溜め息をつきました。

「いや、カーライルは悪くない。今回、何もなかったとしても、いずれ何か起こっていたはずだ」

 そう言ったレオ様は少し厳しい表情をしています。


 私の方はとりあえず、サラ姉様とジャスティン殿下の思いが通じ合って、良かったなあー・・・と、思ってましたが、ハッとしました。私、言わば、ジャスティン殿下を叩いたのです!ぎゃあ!何てことを!

 私は立っていられなくなり、座り込んでしまいました。

 レオ様はそんな私にびっくりして、

「キャス!どうした?!」

「わ、私、と、とんでもないことを・・・ジャスティン殿下をパーンって・・・」

「あ、ああ、今頃・・・」

「わ、私、国外追放とか・・・されちゃいますか?」

 私が不安げに言いますと、レオ様は笑いましたが、私の頭のてっぺんにキスをして、

「そんなことあるわけがないし、私がさせないよ。ありがとう。キャス」

 と、言ってから、私を抱きしめようとしましたが、

「はい!調子に乗らない!」

 父がレオ様を抱えました。

「か、カーライル!何をする!」

 レオ様が手足をばたつかせます。

「私が殿下を抱きしめて差し上げますよ」

「嫌だ!キャスがいい!年寄りは嫌だ!」

「と、年寄り?!」

 まだ33歳の父が愕然としました。


 それから、何故か父はレオ様を抱えたまま歩いています。

 レオ様は降ろせと言いながらも、どこか楽しそうで、どこか嬉しそうです。このおふたりは、何だかんだで、仲が良いんですよね。

 もうすぐ広間と言う所で、

「リバー、シュナイダー様」

 リバーとシュナイダー様の二人が待ち構えていました。

「どうして、キャスがレオ様に変わってるんです?」

 リバーは面白がっている様子です。

 レオ様は赤くなると、

「も、もう降ろせ」

「はい。かしこまりました」

 父は笑いながらレオ様を降ろし、着地したレオ様はぷくっと頬を膨らませました。


「あの、どうなりましたか?」

 と、シュナイダー様が不安そうに聞きます。

「シュナイダー様。安心して下さい。ジャスティン殿下とサラ姉様はもう大丈夫ですよ」

 と、私はにっこり笑って言いました。

 すると、シュナイダー様はホッとしたように・・・。


 父は目をまんまるにさせていましたが、

「・・・なあ、キャス。シュナイダー君の笑顔を見たら、魂を抜かれるって聞いたことがあるんだけど、私たち大丈夫かな?」

 と、ヒソヒソと私に聞いてきました。

 もうっ!お父様ったら、せっかく、シュナイダー様が微笑んだんですから、私、浸りたいんですよ!邪魔しないで下さい!

 占いは信じないくせに、そんな都市伝説的なことは信じるんですか?!



 こうして、大スキャンダルになるところだった婚約破棄騒動はその日のうちに、無事、終結し、両陛下とダンレストン公爵の話し合いでただの痴話喧嘩で済ますことになりました。速やかになかったことにするのが一番良いらしいです。大人の世界は私には分かりません。


 その数日後、サラ姉様から手紙が届きました。私に対するお礼の言葉が綴られていましたが、サラ姉様はレオ様とジャスティン殿下を比べるような発言をしたことをいまだに後悔しているようです。ジャスティン殿下は自分はそうされても仕方のないところがあったし、反省している。だから、気にする必要はないとおっしゃったそうですが・・・。


 私はふとサラ姉様が、人の感情はどうしようもない。と、おっしゃったことを思い出しました。

 頭では分かっていても、感情が追いつかないことが人間には良くあります。レオ様に対する嫉妬のようなものが、兄弟の情を上回ってしまったら?

 ですが、今回、ジャスティン殿下は成長するとサラ姉様に誓いましたし、何より、サラ姉様が側にいれば、大丈夫だと思うのです。


 大丈夫ですよね?





 ジャスティン殿下はまだヘタレなままですが、劇的変化は有り得ませんし、これで良いかなと思うのですが、いかがでしょうか?


 サラ姉様は毒舌になろうが、やっぱり天使でした。これからが楽しみですが、残念ながら、メインキャラではないので・・・キャスたちが『魔法学園』に入学してしまうと、出番はあまりないと思います。それまでにジャスティン殿下との仲を何とかしなければと思い、今回の騒動となった次第です。


 キスくらいさせてあげようかと思いましたが、まだアナスタシア殿下のことがありますのでやめました。




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