毒舌になりました
レオ様の後に続いて、父が私を抱えて走ってます。広間を出る時、そんなことをしてはなりませんよ!と、母の声がしましたが、聞こえなかったことにします!
王子様と公爵が人様のお屋敷を走り回るなんて有り得ませんが、お許し下さい!
「な、なんだってこんなことを・・・」
と、父が息を弾ませながら言います。
「おおお、ととと、ががが・・・」
私、お父様、頑張れ!と、言いたいですが、舌を噛みそうなので、やっぱり止めておきます。
「あれ?キャス、どっちだ?」
さすがにサラ姉様の部屋までは知らないレオ様が聞きましたので、
「みみみ、ぎぎぎ」
私は何とか答えます。
レオ様が右に曲がりました。
曲がれば、真っ直ぐ長い廊下が続いています。ダンレストン公爵家は横に長いお屋敷なんです。
真っ直ぐ続く廊下を走っていたレオ様が、
「おっと」
急ブレーキで止まります。
父も慌てて、止まりました。
レオ様が角からそうっと顔を出して、
「兄上がいる。あれがサラ嬢の部屋かな?」
私は膝を付くと、レオ様と同じく顔を出して、
「そうです」
ジャスティン殿下がドアをノックしています。
「サラ。頼む。開けてくれないか。ちゃんと顔を見て話をしたいんだ」
サラ姉様が部屋の中から何か言っているようですが、聞こえません。
顔なんて見たくないとでも言われたのか、ジャスティン殿下は落胆したように肩を落とし、息を吐きましたが、すぐに背筋を伸ばすと、
「今回のことは本当に悪かった。カサンドラ嬢は何も悪くなかったのに、妹が言ったことを・・・え?あ、うん。カサンドラ嬢には謝罪した。カサンドラ嬢は私の謝罪を受け入れ、水に流すと言ってくれた。初めはちょっと変わった子だと(何ですと?!)、あ、いや、あんなに良い子なのに妹が言ったことを鵜呑みし、傷付けてしまった。恥ずかしいよ。それに・・・情けなかった。婚約者である私よりずっと君のことを分かっていたからね。私は本当にこの6年何をやっていたんだろうね・・・」
ジャスティン殿下の声が震えています。
じ、ジャスティン殿下、泣きそうですか?!
ジャスティン殿下はドアに額を付けると、
「もう情けないついでに全て話そうと思う」
ジャスティン殿下は『婚約者選定会議』を利用して、サラ姉様を婚約者としたことを話しました。それから、そのことを、シュナイダー様を婚約者としたかったのに、廃止により出来なかったアナスタシア殿下に気を使い、アナスタシア殿下に黙っていたことも。
「アナスタシアが君がダンレストン公爵令嬢だから、私が仕方なく選んだと思っていたのも全て私のせいだ。もちろん、私の妹への接し方も間違っていた。普段、妹が我が儘過ぎるのも分かっていたし、何とかしなければならないとも思っていた。でも、アナスタシアがほとんど突然、シュナイダー君に会えなくなって、ひどく落ち込んで見ていられなかった。何もかもアナスタシアのせいだと言うことは分かっている。それでも、私だけは妹の味方でいたいと思ったんだ。・・・何でも出来るレオとは違って、妹はとても不器用な子なんだ。私は妹の気持ちの方が理解出来た。私こそ、不器用で愚かな人間なのだから。だから、余計に肩入れをしてしまった」
私の上で顔を出しているレオ様が溜め息をつきました。・・・何を考えているのでしょう。
「だが、私は妹を甘やかし過ぎた。レオにも何度も忠告されていたのに・・・。私があの子をあんな風にしてしまったんだ。今回のことで、それが良く分かった。私の愚かさが招いた結果だ。これからはアナスタシアに対して、厳しく接して、ちゃんと叱れるよう・・・」
ジャスティン殿下がそこまで言ったところで、ドアが開いて・・・。
「痛っ」
ドアに接近し過ぎていたジャスティン殿下の額がドアにぶつかりました。
「まあ!ごめんなさい!」
と、サラ姉様が声を上げました。
ん?!いい気味だ。なんて、呟いたのは誰ですか?!
サラ姉様は部屋から出て来ますと、
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫」
ジャスティン殿下は額をさすりながら、「で、出て来てくれたんだな」
「ええ。言い足りないので」
と、サラ姉様はいやにキッパリと言いました。
うん?サラ姉様、一体、どうされたのですか?キャラ変わってません?
「私、思うのですが・・・ジャスティン殿下はそこまで、アナスタシア殿下に影響を与えてなどいないのではないのでしょうか」
「は?」
ジャスティン殿下はぽかんとします。
「はっきり申しますと、ジャスティン殿下はアナスタシア殿下の人格形成上に全く影響など与えていません。ですので、自分のせいでああなったと思うのはジャスティン殿下のただの自惚れです」
「・・・」
ジャスティン殿下・・・声も出ない様子です。
そして、父とレオ様は必死に笑いを堪えています。
「私、もちろん、アナスタシア殿下が好きな人、シュナイダー様に会えなくなったことは可哀相だと思います。ですが、アナスタシア殿下はそれに酔っているところがあるのだと感じます。レオンハルト殿下だって、アナスタシア殿下が礼儀正しくすれば、間違いなく会わせることを許したと思いますわ。それなのに無駄な時間を過ごして、レオンハルト殿下に対しては当たり散らして、ジャスティン殿下に対しては同情を誘い、シュナイダー様に会えたと思ったら、同じことを繰り返す・・・もう誰かのせいではなく、アナスタシア殿下ご自身の責任なのです。ジャスティン殿下だけは味方でいたいとおっしゃいましたね。それは間違ってはいませんが、私はそんなジャスティン殿下のお気持ちをアナスタシア殿下は利用しているだけにしか見えないのです」
「あ・・・」
ジャスティン殿下は反論しようと口を開きましたが、
「でなければ、あんな嘘なんて言わなかったのではないでしょうか?例えば、あの時、ジャスティン殿下でなく、レオンハルト殿下が先にあの場に現れていたとして、アナスタシア殿下が同じことをしたと思いますか?」
「・・・」
ジャスティン殿下は無言で首を振ります。
「嘘泣きもばれるでしょうし・・・」
「え」
ジャスティン殿下は唖然としましたが、私も同じく唖然としました。
あれ、嘘泣きだったんですか?!
「分からなかったのはジャスティン殿下とキャスだけです」
ま、まじですか?!
「まあ、キャスはそれも彼女らしいと思いますが、実の兄であるジャスティン殿下の場合はただの間抜けですわね」
そう言って、サラ姉様はやれやれと首を振りました。
さ、サラ姉様、何故、急に毒舌キャラになったのですか?




