苦しみと二人の諍い
私、カサンドラ・ロクサーヌ、今、シュナイダー様にぴったりと寄り添っております。
さっきまで、泣いておりましたし、何よりサラ姉様のことを考えておりましたから、こうなっていることには全く気に止めておりませんでした。
ど、どうしましょう。もうほぼ涙が止まりましたので、離れた方がいいですよね。
そう言えば、シュナイダー様はいつの間にか私の身長を追い越してしまいましたね。今までは私が一番高かったのに。あ、攻略対象キャラの中でシュナイダー様が一番が高いんですよね・・・じゃなくて!身長のことはどうでも良いのです!この状況をどうすべきかです!
何て風に私は一人動揺しておりましたが、
「私のせいですね」
と、シュナイダー様がぽつりと言いました。私が顔を上げますと、すぐ近くにシュナイダー様の顔があって、超至近距離で見つめ合いました。
私は顔どころか全身、つま先まで真っ赤になったような気がしましたが、
「え、私のせいって・・・」
「サラ様とジャスティン殿下のことです。私がアナスタシア殿下を傷付けるような態度を取らなければ良かったのです。そうすれば何事も起こらなかった」
「で、ですが、シュナイダー様は悪気があったわけではないし・・・私が、不用意に言ってしまったことがいけないのです」
シュナイダー様は唇を噛むと、首を振って、
「アナスタシア殿下は従姉妹として、大事に思っていますが、それ以上の・・・同じような思いは返せないのです。どうして、私にここまで執着してくるのか、本当に理解出来なかったし、ただただ困惑するばかりで・・・正直、迷惑でしかなかった。でも、傷付けたくもなかった。ですから、避けるしかないと思いました。殿下がアナスタシア殿下を遠ざけてくれて、心から安堵していました。どんなにアナスタシア殿下を傷付けていたのか知らずに、呑気なものですね」
「シュナイダー様・・・」
・・・シュナイダー様もずっと、苦しんでいたのですね。
「情けないですが・・・私にはまだ人を好きになると言う気持ちが分かりません」
私は首を振って、
「情けなくなんてないです。私だって・・・」
すると、シュナイダー様は私の頬に残った涙を拭って、
「カサンドラ様のことも傷付けましたね・・・全て私のせいです」
「そんなことありません」
私とシュナイダー様が少々近すぎる距離で話していますと、走って来る足音がしました。
「あ!シュナイダー、キャスは」
角から現れたのはレオ様でした。
レオ様は私とシュナイダー様が寄り添っているような姿を見て、驚いたようで、口をあんぐりと開けました。
私とシュナイダー様は慌てて、お互いから離れますと、
「い、今からお連れするところでした」
と、シュナイダー様が言いました。
「あ、あのっ、私、泣いてしまって、シュナイダー様にそのっ・・・」
私は何故か弁解しようとしましたが、
「別に私は何も聞いていない」
と、レオ様は素っ気なく言いました。
ですよね・・・。やましいことなんて何もしていないのに、何故、弁解なんかしようとしたのでしょう。
「キャス。兄上が話をしたいそうだ。行くぞ」
レオ様がマントを翻して、歩いて行きます。
「レオ様、ジャスティン殿下は私に何のお話が」
「それは兄上にしか分からない」
「で、ですよね」
レオ様は不機嫌そうです。あんなことがあったので、気が立っているのでしょうか。「レオ様、私のせいで、あんなことになって、す、みませんっ」
「キャスが悪いわけじゃない。アナスタシアが悪いんだ」
「で、でもっ、あのっ」
レオ様、歩くの早いです!私、体力ないですし、どんくさいんですから!
「あっ!」
私、案の定、足がもつれて、「ぎゃっ!」
派手に転びました。
・・・痛いですが、それより、私、もっと、可愛い声、出ないんですかね?
「カサンドラ様。大丈夫ですか」
シュナイダー様が助け起こしてくれました。
「す、すみません・・・」
は、恥ずかしい。
レオ様が振り返り、私を心配そうに見ていましたが、
「殿下、何を苛々されているのか分かりませんが、少しはカサンドラ様のペースに合わせて頂けませんか」
と、シュナイダー様は私を立ち上がらせながら言いました。
「別に苛々などしていない」
レオ様はそう言ってから、やや乱暴に髪をかき上げました。
「そうですか。なら、良いのですが。・・・カサンドラ様、お怪我は?」
「ちょっと擦りむいただけですから、大丈夫です」
すると、レオ様がこちらに来て、
「苛々などしてないと言っただろうっ!」
シュナイダー様に噛み付くように言いました。
「ええ、ですから、そうですか。と、言いましたが、それが何か」
シュナイダー様がいやに挑発的に言います。一体、どうしたのですか?!
「その言い方が気に食わないんだ」
「言い方ですか?もっと、別のことが気に食わないのでは?」
「何だと?お前こそ、キャスと抱き合ってたところを私に見られて、気まずいからって、突っ掛かるな」
だ、抱き合ってません!
「殿下の方がよほど突っ掛かっているのでは?」
レオ様はカッとなると、
「お前っ」
「や、やめてくださいっ」
私は声を上げました。「な、なんなんですか!どうして、レオ様とシュナイダー様まで、そんな風になっちゃうんですか?!わ、私、こんなのもう嫌です!」
せっかく止まっていた涙がまた溢れて来ました。
私がまた声を上げて泣いていると、
「・・・すまない」
「すみません」
二人は私に向かって、謝りましたが・・・。
「う、お・・っ・」
私は、私ではなくお互いに謝ってくださいと言おうとしているのですが、声が詰まって、言葉になりません。
すると、
「何をしているんですか」
リバーがやって来ました。
「うあー!」
私はリバーに駆け寄り、縋り付きました。「あう、ううっ、うー、ええっ、うえー」
リバーは私を抱きしめると、
「二人とも、何故、姉が泣くようなことをするんです?」
レオ様とシュナイダー様を責めるように言いました。
「すまない・・・」
「すみません」
と、二人はまた謝りましたが、
「そうではなく、お互いに謝って、仲直りしろと姉が言ってます」
と、リバーが言いますと、二人はぽかんとして、
「言ってます?泣いてるだけじゃないか」
と、レオ様が言いました。
「僕には分かりますよ」
と、リバーはごく当たり前のことのように答えると、「キャス、怪我してるね。どうしたの?」
「ぁうっ、うっ」
「転んだんだ。お母様に手当てしてもらおう」
「ううっ」
「ほら、背負ってあげるから、乗って」
リバーがしゃがみました。でも、私は重いですし、恥ずかしいです!
私は首を振って、
「う、うっ」
嫌ですと訴えましたが、
「乗らないと抱えて行くよ。早く。ジャスティン殿下も待ってる」
「うー・・・」
私は仕方なく、リバーの背に乗りました。
私とリバーの後ろをレオ様とシュナイダー様が並んで歩きながら、
「結局、リバーにはかなわないってことか」
「・・・そうですね。双子とは普通の姉弟以上に近いのでしょうね」
そして、二人は顔を見合わせて、
「その、シュナイダー、悪かった」
「私も気が立っていて、失礼なことを言いました。申し訳ありません」
ようやく二人は謝りました。
「な、なんて言うか、初めてだったな。言い争うなんて」
「・・・そうですね」
「シュナイダーはいつも私に遠慮するからな」
「そんなことありませんよ。今までだって、素に近いものを出せるのは殿下の前だけでしたし・・・」
「私の前だけ・・・?」
「そうです」
「ふうん・・・そうか」
「・・・そうです」
なんて会話が続きまして・・・(多分、二人とも照れてますよ!)。
私もリバーも黙って、そんな会話を聞いていましたが・・・(あ、いえ!聞き耳を立てていたわけではありません!聞こえてきたんです!)。
「僕、何か恥ずかしいんだけど」
と、リバーが言いましたので、私はぶんぶんと音がしそうなくらい頷きました。とてつもなく同意します!
「私、鼻血出そう・・・」
レオ様とシュナイダー様が可愛らし過ぎて!!
すると、リバーは、即座にこう言いました。
「それは勘弁して」
・・・はい。堪えます。




