キャスと天使の受難。その1
「キャス!元気そうね!」
そう言って、ダンレストン公爵令嬢サラ様が私を抱きしめてくれました。
私も抱きしめ返しますと、
「サラ姉様も!」
・・・ふふ。私、サラ様に『キャス』と呼んでもらえるようになりました。そして、私は『サラ姉様』と呼ばせてもらってます。呼び捨てでいいと言って下さいましたが、私が3つ年下ですので、遠慮して、『サラ姉様』と呼んでみたところ、サラ姉様は何故か頬を赤くして、『とってもいいわね!』と、おっしゃいました。
本日、ダンレストン公爵家で月に一度の五大公爵家の交流会が開かれています。
今回は、昼食会と言うことで、軽めの食事が用意されています。ダンレストン公爵家はスイーツの種類が多く、味も抜群なので、今日もとても楽しみにしておりました。も、もちろん、サラ姉様にお会いすることが一番の楽しみですよ?
「ジャスティン殿下たちはまだのようですね?」
「ええ、今日はご兄弟が皆様来られるそうだから、何か手間取っているのかもね」
「皆様?アナスタシア殿下もクリス殿下もですか?」
まさか、ご兄弟が勢揃いをするとは思ってませんでした。
「ええ、それに両陛下も出席されるのよ」
それはすごいです!もちろん、私は両陛下にお会いしたことはあります。
その時、レオ様と親しくしてくれてありがとう。と、王妃様が声を掛けて下さいました。私、緊張のあまり『ども噛み』が再発してしまい、レオ様は笑いましたが、王妃様に一睨みされると、レオ様は途端に笑うのを止めました。さすがのレオ様もお母様は怖いようです。面白いものが見れました。
すると、サラ姉様が溜め息をつきます。
「?どうされたのですか?まさか、ジャスティン殿下がツンツンし過ぎてるのですか?」
前にうっかり、ジャスティン殿下はツンツンし過ぎだ!と、サラ姉様の前で言ってしまったので、照れから、ついそっけなくすることを『ツンツン』だと説明しました。さすがにジャスティン殿下が可哀相なので、デレについては説明してません。
「違うのよ」
サラ姉様は首を振って、「アナスタシア殿下とは王城で何度か会っているのだけど、あまり打ち解けられていないのよ。嫌われてしまったのかしらと思うと・・・。将来は義理とは言え、姉妹になるのだから何とか仲良くしたいのだけど・・・」
サラ姉様はまた溜め息をつきました。
「きっとジャスティン殿下を取られたようで寂しいのかもしれませんね。ジャスティン殿下はアナスタシア殿下をとても可愛がってらっしゃるそうですから」
・・・ルーク情報ですが。
サラ姉様は頷くと、
「そう・・・そうよね。私には兄弟がいないから分からなかったわ」
「私もリバーに婚約者が出来たら、リバーを取られるみたいに思って、泣いちゃいますかね・・・」
あ、想像しただけで、切なくなります。
私、よっぽど切なげな顔をしていたのか・・・。
「でも、兄弟の絆はそう簡単に切れたりなんてしないわよ」
サラ姉様が励ますように言って下さいました。
ですよね!リバーは私の『魂の片割れ』ですからね!
私はホッとしますと、
「義理とは言え、優しいサラ姉様と姉妹になれるアナスタシア殿下が羨ましいです」
「あら」
サラ姉様は悪戯っ子のような笑みを浮かべると、「キャスがレオンハルト殿下と結婚したら、私たち姉妹になるわよ?」
「!さ、サラ姉様!何を言うんですか!」
「だって、キャスが羨ましいなんて言うから・・・ふふ」
サラ姉様、意味ありげな笑みは止めて下さい!
「そんなの絶対ないですから!」
「絶対?」
「そうです!だいたいレオ様は私のこと、珍獣扱いしてますから!」
「ちんじゅう?」
サラ姉様は首を傾げます。
この世界には私のような『珍獣』はいないようです。い、いえ!私は珍獣ではありません!
「その、レオ様は私のことを、変な小動物扱いしてるんです!」
「変な小動物・・・」
サラ姉様は呟いてから、「ふっ」
・・・ぬ?今、吹き出しました?
遂には、手で口を覆うと、小刻みに震え始めてしまいました。
「・・・サラ姉様。その通りだとか思ってませんか?」
「っ、い、いえ、そ、そんなことないわ。そ、そんな」
サラ姉様は手を振りながら、「ただ、『変な』は失礼よね。『変わった』の方がいいかもしれないわね」
「・・・」
どこが違うのですか?
「と、ともかく、私はキャスとレオンハルト殿下はお似合いだと思うのよ」
その話はもう終わったかと思ってましたのに!
「で、ですから、レオ様にはいずれ素敵な女性が現れるんです!だいたい、サラ姉様もご存知のように、私が好きなのはシュナイダー様なんですからねっ!」
と、私はつい声を上げてしまいました。
・・・女の子同士でお話をしていましたので、ちょっと人の輪から離れた所にサラ姉様と一緒におりましたから、私、油断していました。
「あーら」
私の背後から、その声と共に、黒ーいオーラが漂って来ました。
「ひっ」
・・・背筋に震えが走りました。
「貴女、シュナイダー様のことが好きなんだぁ」
「・・・」
私・・・出来れば、振り返りたくないです。もう一目散に逃げ出したいくらいです。ですが、そういうわけにもいかず、ゆーっくりと振り返りました。
私の後ろには、アナスタシア殿下が仁王立ちしていました。
とーっても、怖い顔をしています。
・・・もしかしたら、今日は私の命日になってしまうかもしれません。
ひぃっ。




