確執の原因
「うわー、ルークって、字が下手ね」
現在、ルークからの手紙を読もうとしているところです。
「書き慣れてないんだろうね」
と、実は達筆のリバーが言いました。
ルークの字は書きなぐっているようにしか見えません。
何故、ルークから手紙が来たかと言いますと、私からの質問の手紙に対する返事をくれたのです。
何を質問したか。これしかありません!
『レオ様とアナスタシア殿下はどうして仲が悪いか』です!
シュナイダー様が原因なのは分かりますが、それにしたって、あんなに仲が悪くなるものでしょうか。レオ様はあまりアナスタシア殿下のことを話したがらないので、ルークに聞くしかなかったのです。
「さて、なになに・・・」
私はルークの読みづらい字を我慢して手紙を読み始めました。
一番の原因はシュナイダー様でした。そして、結論から言いますと、それだけが原因でした。
ルークは詳しく書いてくれていますので、お話しますね。
アナスタシア殿下は今はお元気ですが、クリス殿下と同じように、幼児期に体が弱かったため、ご両親や兄であるジャスティン殿下からとても大事にされていたそうです。そうなると、たった一つ歳が上なだけのレオ様は乳母さんや侍女さんに任せっきりにされたそうです。かと言って、レオ様がそれに嫉妬したかと言えばそうではなく、レオ様は自立心旺盛でしたので、一人で自由にしていたそうです。
ただそれが体が弱く、行動を制限されていたアナスタシア殿下の癪に障ったのです。ですから、事あるごとに、アナスタシア殿下はレオ様に突っ掛かり、レオ様はそれにうんざりして、兄妹の距離が近付くことはありませんでした。
シュナイダー様がどう絡むかと言いますと、レオ様たちのお父様である国王陛下の妹君がシュナイダー様のお母様ですから、シュナイダー様は赤ちゃんと言っていい頃から、従兄弟であるレオ様とずっと一緒に過ごしていました。
シュナイダー様は外で遊べないアナスタシア殿下を気遣い、本を読んであげたりしていたようです。その優しさに触れ、アナスタシア殿下はシュナイダー様を好きになりました。
好きになったら、一直線らしく、アナスタシア殿下はシュナイダー様にはっきりと思いを示し、どこに行くにもシュナイダー様にべったりだったり、度々シュナイダー様を王城に呼び寄せるようになってしまったそうです。
そんな日が続き、シュナイダー様にある変化が出て来ます。元々感情を表に出すのが苦手でしたが、笑うことはたまにはありました。なのに、ほとんど表情をなくしてしまったのです。シュナイダー様の無表情は御祖父様であるアンバー公爵を倣ってのことではありますが、従姉妹であるアナスタシア殿下の前で嫌な顔を見せるわけにはいかないという気持ちが強くあって、そうなってしまったのです。シュナイダー様は人嫌いと言うわけではありませんが、他人に必要以上にくっつかれることが好きではありません。今でも、レオ様相手でもある一定の距離は置いています。なので、アナスタシア殿下が嫌いではないですが、べたべたされることに堪えられなかったそうです。
と、言う訳で、シュナイダー様に良くない変化をもたらしたアナスタシア殿下にレオ様は腹を立て、両陛下に、アナスタシア殿下をシュナイダー様に近付けないようにして欲しいと頼みました。初めはそこまでしては娘が可哀相だと国王陛下は渋りましたが、実際、シュナイダー様とアナスタシア殿下の様子を見て、結局、レオ様の頼みをかなえました。
もう10歳になるアナスタシア殿下が五大公爵家の交流会に姿を見せなかったのはこういうことがあったからなんですね。納得です。
「じゃあ、どうして、この間はここに来たのかな?」
と、リバーが聞きましたので、
「あ、えーと、弟の面倒を良く見る良いお姉さんになったし、もう10歳になったので、行動を制限することは止めてやろうと、両陛下がレオ様にお願いしたって・・・なになに・・・『婚約者選定会議』自体潰したので、もう勘弁してやってと泣きつかれたとレオ様は言っていた?」
そうです。レオ様は今まで何百年と続いていた『婚約者選定会議』の廃止を、8歳にして成し遂げたのです。
アナスタシア殿下は会議が行われたら、シュナイダー様が婚約者候補に上がるはずと考え、そうなったら、またシュナイダー様と一緒にいられるようになるから、どうってことないと高を括っていたのです。
ですが、さすがレオ様です。
まず、私、カサンドラがまた婚約者候補に上がっては困る私の父、カーライル公爵を味方につけ、他の五大公爵様方の説得させました。
アンバー公爵様はあまりに幼い頃に結婚相手を決めることは視野を狭くし、縛り付けることにもなるし、王族の婚約者に決まったと安心し、精神的成長が出来なくなるのでは・・・と、言うことで賛成し、他の方も、ここのところ五大公爵家と王族の間での婚姻が続いているため、他の貴族家が、婚約者を選定する五大公爵や8人の大臣に不満を持つ可能性があるなで、廃止にした方が良いだろうと賛成されました。
孫であるサラ様がジャスティン殿下の婚約者となったダンレストン公爵様は賛成も反対も出来ませんでしたが、私の父が、そもそもはジャスティン殿下がサラ様を望んでいたのだから、それには当たらないので気にする必要はないと説得し、ダンレストン公爵様の賛成も得ました。
五大公爵が皆、賛成となったので、後は簡単です。
貴族院でも採決を取り、ほぼ100%の賛成を得て、『婚約者選定会議』の廃止が決まったと言うわけです。
レオ様は何もしてないだろうと思われそうですが、貴族院の会議に自ら出席し、皆が納得するよう説明をされたそうです。
レオ様に厳しい父も褒めてました。すごいですねー。
「・・・て言うか、ルークったら、手紙の中でちょくちょくレオ様自慢を入れて来るんだけど」
と、私は言ってから、リバーを見ました。
リバーも私を見て、
「「レオ様馬鹿ー」」
私とリバーは声を合わせて言うと、笑い合いました。
「・・・それにしても、アナスタシア殿下はさぞショックだっただろうね。そりゃ、両陛下も可哀相に思って、シュナイダー禁止令(全く会わせなかった訳ではないですが)を解いて欲しいとレオ様に頼むわけだ」
「リバーったら、嬉しそうに言わないの。アナスタシア殿下の婚約者候補になるのが嫌だからって」
「いや、候補になっても、僕は選ばれないし。それに僕より、キャスが気が楽になると思って」
私は笑ってしまうと、
「レオ様は私なんかを選ばないことは分かってるから、そんな心配したこともないわ」
リバーは首を傾げて、
「レオ様の理想の女性が現れること信じてるから?」
「うん!」
私は頷きました。
「どこからその自信が来るんだか」
と、リバーは呆れたように言います。
ふふん。見てらっしゃい。と、私は思いましたが、溜め息をついて、
「兄妹の確執はそう簡単になくならないわねえ」
「どうにかしたいの?」
「だって、私とリバーは仲良しでしょう?レオ様とアナスタシア殿下もそうなって欲しいもの」
「僕たちくらい?無理じゃない?」
と、言って、リバーはにっこり笑いました。
ぎゃあっ!そ、そんな可愛いことを言わないで下さい!
そ、それよりです。このままでは、アナスタシア殿下はヒロインのライバルにすらなれません。一年遅れるだけでも大きなハンデだと言うのに。
私はシュナイダー様が好きですが、シュナイダー様ルートにまで入って行くわけにはいきませんからね。
ちなみにゲームのアナスタシア殿下は、王族の力を使って、シュナイダー様の心を縛り付けたくないと、シュナイダー様を婚約者に選んではいませんでした。
うーん、何故、アナスタシア殿下のキャラはこんなに違うのでしょうか?




