双子の弟
「きゃみしゃま・・・」
「キャス?」
「・・・きゃしゅ?やや、きゃみしゃま・・・」
「キャス!僕だよ!いつまで寝てるのさ!」
その声にハッとした私は目を開けました。
すると、目の前には、私と同じ金色の髪に青い瞳の男の子がいて・・・。
「リバー」
双子の弟、リバー・ロクサーヌである。
「僕の名前言えたね。今さっき、ひどい舌ったらずだったのに」
私はむっとして、
「し、失礼ね。起きたばかりだきゃりゃ・・・あ」
リバーは笑って、
「大丈夫。まだ5歳だもん」
と、言って、私の頭をなでなでしました。
私と同じく、美しい母、マリアンナ・ロクサーヌの血を引いているリバーは文句なしの美形で、以前の私なら、頭なでなでに鼻血を出していたかもしれませんが、現在の私は5歳で、前世の記憶に現世の情報を取り入れてから、すでに2年が経っていますので、弟・・・しかも、双子で自分に似ている男の子に見とれることはさすがになくなりました。まあ、最初の頃はちょっとやばかったですが。
それよりも・・・。
私はリバーの手を払って、
「同じ年でおまけに弟でしょー、やめてよねー」
こんな私にも姉のプライドはあるのです!
「だって、キャス、噛むの嫌がってるじゃないか」
そうなのです。前世の野崎明日香のように、どもるし、噛んでしまいます。家族の前では、焦った時にだけですが、他の人の前では、多くそれが出てしまいます。
家族はまだ幼いからと楽観視していますが、舌ったらずな悪役令嬢?そんなの有り得ません。早くなんとかしなくては。
そうだ。アナウンサーのように早口言葉を練習するのはどうでしょう。あかまきがみ・・・となりのきゃくは・・・。
「リバー?キャスは起きた?」
母、マリアンナがキャスの部屋に入って来ました。
リバーは私のベッドから降りて、母の元に歩いて行くと、
「起きたけど、また独り言、言ってるよ。まあ、しょうがないよ。独り言はキャスの趣味、ううん、唯一の特技だし」
・・・失礼な弟です。そんなのは特技とは言いません。確かに特技は今のところ、『どこででも寝れる』ですが、成長すれば、もっと、増えることでしょう。
あ、そうです。大事なことを忘れていました。私の双子の弟、リバー・ロクサーヌは『魔法学園でつかまえて』の攻略対象キャラの一人なんです。
カサンドラとは仲の良い姉弟だったが、ヒロインの登場により、その関係にヒビが入ってしまう・・・。
皆に愛されるヒロインに嫉妬したカサンドラはリバーに向かって、ヒロインより私が大事よね。魂の片割れである私を裏切らないわよね。的なことをしつこい程言うのです。しかし、その度にリバーの心は離れて行くことになり、ハッピーエンドの場合、カサンドラは公爵家から追い出され、別宅でひっそりと暮らす。となります。良かった。国外追放じゃなくて。
それにしましても、カサンドラって、怖いですよねー。魂の片割れなんて、大袈裟です。しかし、私も10年後には同じことを言わなくてなりません。その時に噛まないよう今から練習するべきでしょうか。
ちなみに、リバーの攻略法は、『貴方のお姉様だもの。何をされても、憎めないわ』的な方針を貫けば、楽々ハッピーエンドとなります。簡単です。
「キャス」
リバーが私を呼びます。「早く起きて。一緒に朝ご飯食べよう」
私はにっこり笑うと、大きく頷きました。
リバーは可愛い弟と言うだけではなく、頼りになる兄でもあります。心底憎まれたくはありません。全てが終わったら、土下座も辞さない覚悟です。
「私と言う障害が二人の絆をより強くするはじゅ。必ずやり切りましゅ」
・・・ん?
前世であまりに喋ることがなかったからでしょうか?噛み噛みです。