王子様の天敵。その2
この王女様、大丈夫でしょうか?
お父様は33歳ですよ?
「カーライル様が城の者を叱責している時のあの鋭く厳しい目・・・私、ぞくぞくするのよね・・・」
アナスタシア殿下はうっとりとしています。
・・・へ、変な性癖ですか?
「でも、私だけにはとろけそうな笑顔で接してくれるのよね・・・」
レオ様は鼻で笑うと、
「娘と同じ年頃だから、優しくしているだけだと思うが」
「でも、残念ながら、カーライル様は二番目なの。一番愛している人とは、とーっても差があるのよね」
アナスタシア殿下は両腕を大きく広げて言います。
「カーライルはお前の一番になっても、別に嬉しくないと思うが」
と、レオ様は突っ込んでますが、アナスタシア殿下は手を握り合わせると、
「カーライル様には申し訳ないけど、一番愛している人が素晴らし過ぎるのよね!」
と、何故か空に向かって言いました。そして、何故こんなに芝居がかっているのでしょうか。
おまけにレオ様の突っ込みを見事なまでにスルーしています。
レオ様は舌打ちして、
「うっとうしいな」
手厳しいですが、ちょっと同意したいです。
「おい。アナスタシア。お前がカーライルを愛していようがいるまいが、一番の人間が誰だかどうでもいいが、一体何しに来たんだ。聞いてやってもいいぞ」
と、レオ様がやや声のボリュームを上げて言いました。
アナスタシア殿下はそれで我に返ったようにレオ様を見て、
「シュナイダー様はどこよ。私の一番はシュナイダー様なんだから」
アナスタシア・レイバーン・カルゼナール。この国の王女様であるこのお方は、『魔法学園でつかまえて』で、シュナイダー様を選択した際のライバルキャラです。
王女様がライバルなんです!前にシュナイダー様の攻略が一番難しいと説明しましたが、無表情だけが理由ではないのです。
ですが、おかしいです。こんな人の話を聞かなかったり、私のことをただの小娘だとかきついことを言ったりするような方ではないと思ってましたのに。おまけに父を愛してるだなんて!
シュナイダー様がヒロインとハッピーエンドになった際、幸せそうな二人を離れた場所で見つめながら、そっと涙を拭って、『幸せになってね。シュナイダー様』とアナスタシア殿下は言うのです!私、攻略に喜びながらも、アナスタシア殿下が可哀相で・・・ホロリと来ました。
ちなみに私、カサンドラはアナスタシア殿下の取り巻きとして、ちょこちょこ登場します。レオ様を手に入れる為にアナスタシア殿下に気に入ってもらおうと協力するのです。レオ様を手に入れるなら、シュナイダー様とヒロインが上手く行った方がいいでしょうに。
先のアナスタシア殿下が幸せそうなシュナイダー様とヒロインを見つめながら涙する場面ですが、更に離れた場所からカサンドラはそんなアナスタシア殿下を見つめながら、ハンカチをキーッと歯で引っ張って、悔しがるのです。丈夫なハンカチを何枚か仕入れておきましょう。
私はそんなことを考えていましたが、
「来てないの?!」
と、言うアナスタシア殿下の声で我に返りました。
「あいつは毎回一緒に来ているわけじゃない。残念だったな」
レオ様は意地悪げに笑いながら言いました。
「笑うなんて、ひどいわ!レオ兄様が一緒じゃないとアンバー公爵家に行ったちゃだめだって言うから、ここまで来たのにっ!」
「お前がシュナイダーに付き纏って、迷惑を掛けるからだろう。あいつが嫌がっているのが分からないのか?」
「分からないわよっ!無表情じゃないのっ!」
「はっ」
レオ様は馬鹿にしたように笑って、「良く見てれば、ちょっとした違いに気付くはずだ。それで、愛してるだの良く言えたものだ。だいたい誰のせいでシュナイダーがああなったと思っている」
・・・うん?どういうことですか?
アナスタシア殿下は真っ赤になると、
「私のせいだって言うの?!だからって、ずっとこのままなんて嫌よ!いい加減、邪魔しないで!」
「お前が礼儀正しくすればいいだけだ。一目も憚らずにシュナイダーにべたべたするからだろう。見苦しい」
と、レオ様は言いましたが、今度は、アナスタシア殿下が、
「はっ」
レオ様そっくりに笑うと、「レオ兄様。人の事、言えるの?レオ兄様だって、このカサンドラ・ロクサーヌにべったりだったって言うじゃない。私、それを聞いて、我慢の限界に来たのよ」
「キャスと私は違う。キャスは嫌がっていない」
「へ・・・?」
いや、そんなことはありませんが・・・。
「何よりキャスは私の友だ」
そうなんですよねー。だから、結局、許しちゃうんですよねー。
私はうんうんと頷いていましたが、
「ばっかじゃないの」
と、言って、アナスタシア殿下は声高らかに笑いました。おお!参考にしたい高笑いですね!
レオ様はムッとして、
「何が可笑しい」
「何が友よ。レオ兄様はお子様ね。男と女の間で友情なんか成立するわけないじゃない」
まぁ。ずいぶんマセたことを言うのですね。
「そういう一般論はどうでもいい」
「一般論こそどうでも良くないわ。レオ兄様だって、そのうちこの人に手を出すかも知れないわ」
レオ様は真っ赤になると、
「レディが良くそんなことを!いや、お前はレディでも何でもない!」
「あーら、レオ兄様、お顔が真っ赤よ。もう何かしてたりして?」
「う、うるさい!」
おー、レオ様が押されてます。珍しいところを見ました。
それにしましても、いつまでこの兄妹喧嘩は続くのでしょう。困りました。私、間に入れそうにありません。
そこへ・・・。
「キャス?・・・レオ様も。何をしているんです?」
と、リバーの、可愛い弟の声がしました。
グッドタイミングです!ここはリバーに助けてもらいましょう!と、私は思いながら、リバーの声がした方を見て・・・。
「?!」
私、ギョッとしました。




