王子様の天敵。その1
驚いた私は、
「え、レオ兄様って・・・え?」
まずレオ様の顔を見ました。だって、当て嵌まるのはレオ様だけですからね。
すると、レオ様はゆっくりと後ろを向きました。
私も後ろを向くと、一台の馬車が止まっていて、その側に女の子が立っていました。遠目でも、美少女だと分かります。私たちとそう変わらない年頃のようです。
「レオ兄様!」
女の子はもう一度、声を上げると、ずんずんとこちらに向かって、歩いて来ます。
レオ様は溜め息をついて、
「・・・妹だ」
「あ、ああ!あ、アナスタシア殿下ですね!」
アナスタシア殿下は私たちより一つ年下なだけですが、今まで五大公爵家の交流会には訳あって、出席されたことはありません。ですから私とは初対面ですが、私はアナスタシア殿下のことは知ってます。ただ私が知っているアナスタシア殿下よりはずいぶん幼いので、すぐには気付きませんでした。
ストロベリーブロンドの豊かな髪を弾ませながら、アナスタシア殿下が私たちの前まで歩いて来ました。そして、立ち止まり、腰に手を当て、つんと顎を上げます。ポンコツ悪役令嬢である私が見習いたいくらい堂に入ってます。
何とも愛らしい顔立ちに、私は思わず魅入っていましたが、
「あなたね。カサンドラ・ロクサーヌって」
レオ様と同じ瞳が私を見据えています。
ひっ・・・何か、怖いです。
私は怯えましたが、挨拶せねばと思い、
「ふぁい、わ、私がカサンドラ・ロクサーヌでございま、す」
と、何とか言うと、お辞儀をして、「お、お目にかかれて光栄で、す」
アナスタシア殿下は鼻を鳴らして、
「何よ。全然大したことないじゃないの。気品や威厳がないどころか、ただの小娘じゃない。これが五大公爵家の令嬢だなんて・・・あのカーライル様の娘がこれって」
うっ。その通りなので、何も言い返せません。年下に小娘って、言われました!
「まあ、その通りだが」
と、レオ様が同意しやがりました。レオ様、ひ、ひどいです!
ですが、レオ様はにっこり笑って、
「でも、キャスはこれでいい」
と、言って、レオ様は私の髪をなでなでしてくれました。
「レオ様・・・」
レオ様は私の生涯の友です!
私は感激しましたが、アナスタシア殿下は目を吊り上げて、
「本当だったのね!レオ兄様がこの女にたぶらかされてるって!」
・・・昔、どこかで聞いたような気がします。
何故、こういう考えに至るのかさっぱり分かりません。
私だけでなく、他の女性でも、レオ様をたぶらかすなんて出来るわけないじゃないですか。
「おい。アナスタシア。お前こそ、それでもこの国の王女か」
レオ様はアナスタシア殿下を見て、「いきなり現れて、挨拶もなしに、他人の批判か。お前こそ、人間性に於いて、王女という身分に全く釣り合ってないな」
アナスタシア殿下はその言葉にカッとなると、
「そんなことっ」
と、反論しようとしたようですが、
「まあ、いい。帰れ」
レオ様はそれを遮りました。
全然良くないです!あんなキツイことを言って、更に帰れですか?
レオ様は妹君にあまりに冷たくないですか?
だって、こんなに可愛らしい方ですよ?私と同世代ですが、私よりもずっと小さくて、ずっと華奢です。守ってやりたいと思って当然なのに・・・。
「レオ様、ち、ちょっときつくないですか?」
私がおずおずと言いますと、
「うん?キャスにはあんなこと言わないぞ?」
レオ様はにっこり笑って言います。
「ど、どうして・・・」
「キャスは可愛いから」
「はいっ?!」
私は真っ赤になりましたが、
「キャスは変な小動物みたいで可愛いぞ」
レオ様にこにこ笑顔で言います。
は?変な?変な小動物?私、薄々感じておりましたが、レオ様は私を珍獣扱いしているようです。自分が膝枕されるより、する方が嬉しそうだった理由が分かりました。
私が何だか複雑な気持ちでいると、
「だか、これはあらゆる意味で可愛くない」
と、レオ様はアナスタシア殿下をちらっと見やってから言いました。
ひぃっ!そんな言い方ありますか?!
アナスタシア殿下が泣いてしまうかもしれません。と、私は心配になって、アナスタシア殿下を見ましたが、アナスタシア殿下のつんと澄ました表情は変わることなく、
「別にレオ兄様に可愛いだなんて思われなくても結構よ」
と、言い返しました。なかなか気が強いお方のようです。
おふたりの間には火花が散っています。火花なのに、触れたら凍り付きそうです。
どうして、こんなに仲が悪いのでしょうか?私とリバーとは全く違います。
私は殺伐とした空気を何とかしなければと思い、
「あ、あの、アナスタシア殿下」
「何?」
アナスタシア殿下はレオ様から目線を外さずに言いました。
「こ、こちらに来られたのは何か・・・ご用があって・・・ではないのですか?」
「そりゃそうよ。でなきゃ、カーライル様もいらっしゃらないのに来るわけがないでしょう」
「あ、あー・・・父とは王城で会えますしね・・・」
「毎日は無理ね。カーライル様は居住棟には来ないから」
「あ、そうですよね。私、王城のことは全く詳しくなくて」
「じゃあ、これをここに置いて、キャスが王城に来ればいい」
と、レオ様が言いました。
「れ、レオ様、いくらなんでも・・・」
いいわけがないでしょう!
「これはカーライルを気に入っているから、喜ぶだろう」
「えっ、父を?」
すると、アナスタシア殿下はどこかうっとりした表情で、
「ええ、私、カーライル様を愛してますもの」
なぬっ?!




