シュナイダー様のお願い
後半、リバー視点が入ります。
もうどうでもいいかもしれませんが、『落とし穴作戦』失敗後のお話をします。
穴に落ちて、汚れてしまった私は、お風呂に入り、服を着替えました。
その間、庭師さんたちが、テーブルセットを綺麗にしてくれました。キズも付いていなかったそうで、本当に良かったです。皆さん、本当にありがとうございます!
私が着替え終えた後、皆で、ルークのお母様が作ったシフォンケーキをシュナイダー様が淹れたお茶と一緒にいただきました。とっても美味しかったです。是非、レシピを教えて欲しいです。私はもちろん食べるだけですが。
その後、なぜか拗ねていたレオ様を仕方なく膝枕してあげました。
「前にあれだけ慰めたのに、結局、リバーが良いのだな」
と、レオ様はぶつぶつ言ってました。意味が分かりません。
リバーは珍しく膝枕するのを止めず、どこか得意げな顔をしてました。意味が分かりません。
シュナイダー様が笑ったのは、登れないと泣きそうになりながら言っていたくせに、ヘビを見るや、凄い勢いで落とし穴から出て来た私が可笑しかったのと、普段私に過剰なスキンシップをするくせに私に抱きつかれて、真っ赤になって、慌てているレオ様が面白かったそうです。
私とレオ様の合わせ技でシュナイダー様から一本を取った感じですね。
作戦は失敗でしたし、何だかめちゃくちゃになってしまいましたが、シュナイダー様が笑ったところを見れたことが、唯一、良かった点ですね。
ところで、私がヘビだと思ったのは、自分で落とし穴に落ちないよう目印に置いていたロープでした。はぁ・・・。
『落とし穴作戦』失敗の元凶である『のらさん』ですが、自身も大型の犬さんを飼っているシュナイダー様がきちんと躾をしてくれるそうです。
躾をしてもらった後は、リバーが飼い主を必ず探すからと言ってくれました。
良かったです。これでおやつ抜きは免れます。
皆さん、こんなお馬鹿な私のために色々していただいて、本当にありがとうございました。
もう『落とし穴』は二度と作りません。
飼うことが出来ない野良犬さんに餌をやったりしません。『のらさん』ごめんね。一番悪いのは私です。
私は『のらさん』を入れた檻が(ちっとも大人しくしないので)、馬車に乗せられ、アンバー公爵家に行ってしまうのを、切ない気持ちで見送りましたが、
「餌をやった人間に似たんでしょうかね」
と、ルークがぽつりと言ったので、睨んでやりました。失礼ですよ。むぅ。
それを聞いたレオ様が大笑いし、
「ルーク、お前、上手いこと言うな!」
褒められたルークは目を輝かせて、
「お褒めいただき光栄です!」
と、言って、敬礼しました。
このうっとうしい『レオ様馬鹿』をどうにかして欲しいです。
私がぷりぷりしながら、屋敷に戻っていますと、
「カサンドラ様」
シュナイダー様が声を掛けて来ました。
な、なんでしょう。やっぱり、『落とし穴作戦』のことを怒ってるのでしょうか。
私はとりあえず、
「あの、『のらさん』お世話になります。どうぞよろしくお願いします」
と、言って、頭を下げました。
「ああ・・・それはもういいですよ。何度もお礼も言っていただきましたし」
「はい、では・・・」
「あの、これからも殿下とルークと親しくしていただけたらと思いまして・・・」
と、シュナイダー様は言いました。
「・・・」
いきなりどうしたのでしょう?
私は次の言葉を待ちましたが、シュナイダー様は何も言いません。
「・・・」
「・・・」
沈黙が続いて・・・。
「ダメ・・・ですか?」
シュナイダー様が眉を寄せて言いました。それによって、目尻も少し下がります。声もいつもより、か細く、私はそこからシュナイダー様がとっても不安そうにしていることが分かりました。
すみません!ちょっとときめいてしまいました!
「ダメなんて、とんでもないです!」
私が慌てて言いますと、シュナイダー様はホッとしたように、
「ありがとうございます」
「でも、どうしてですか?」
「殿下はカサンドラ様と一緒の時、年相応のただの子供でいられますから。とても楽しそうなんですよね。ルークも殿下のことばかりで、このままでは、視野の狭い人間になっていたと思います。カサンドラ様が叱ってくださって、本当に良かったです。それに、カサンドラ様はリバーに色々教えてもらえと言ったでしょう?私もリバーは適任だと思いますし(けして腹黒になって欲しいわけではなく)、ルークが変わるきっかけを与えてくれたカサンドラ様に感謝しています。・・・私は思うばかりでこれと言って何も出来ませんでしたから」
そう言って、シュナイダー様はまた目尻を下げました。ですから、ときめきますって!
「シュナイダー様は友情に厚い方なんですね!」
「えっ」
シュナイダー様は驚きました。
今日は色々な面を見ています!感激です!
「シュナイダー様も入るんですよね?」
「はい?」
「レオ様とルークだけでなく、シュナイダー様も私と親しくしていただけますよね?シュナイダー様がいないとレオ様もルークも寂しいじゃないですか。ですから、皆一緒ってことですよね?」
「はっ、はい」
「良かったです。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」
私とシュナイダー様は深々と頭を下げました。
そして、同じタイミングで顔を上げて、シュナイダー様と見合わせた私は何だかおかしくなってしまったので、声を上げて、笑いました。
そんな私を見ながら、シュナイダー様は少しだけ頬を緩ませました。
−−−−−−−−−
「リバー」
レオ様が話し掛けて来ました。
「はい?何でしょう?」
と、僕は言いながら、レオ様が姉とシュナイダーを見ていることに気付きました。
姉は頬を染め、瞳を輝かせながら、とてもいい笑顔をしています。面白くないですが、姉の幸せの為です。堪えますとも。
なんてことを僕が考えていると、
「・・・キャスはシュナイダーが好きなのか?」
「・・・」
・・・へえ。気付いたんだ。まあ、鈍い方ではないしな。と、僕は思いつつ、
「さあ、どうでしょうかね」
否定も肯定もしない方がいいだろうと思いました。
「ふーん・・・そうか」
と、レオ様は言いました。どっちかハッキリしろと言われるかもしれないと思っていましたが。
何を考えているのだろう?と、レオ様を見ていると、
「シュナイダーなら、まあ、いい」
え?いいの?
意外でしたが、それなら、あの過剰なスキンシップも減るかなーと、期待しましたが・・・。
「キャスー!」
レオ様が走って行って、姉の後ろから抱きつきました。
「ぎゃっ!」
姉は悲鳴を上げると、「いきなりなんですか?!びっくりするじゃないですか!やめて下さい!」
「いきなりじゃなきゃいいのか?」
レオ様はにやりとして、「さあ、中に戻るぞ。まだ膝枕してやってないからな」
「うー・・・」
姉は、レオ様に引きずられて行きました。
シュナイダーならいいとか言いながら、早速、邪魔するって、何故だ?意味が分からん。と、僕が思いつつ、首を傾げていると、
「リバーさ、リバー」
今度はルークが話し掛けて来ました。ちなみに姉に倣い、皆、『ルーク』と呼ぶことになりました。
「何?」
ルークはとても真顔で・・・。
「カサンドラ様はシュナイダーが好きなんですね」
・・・レオ様。こういうデリケートな話題は周りに聞かれないところでして欲しかったです。僕もうっかりしてました。恥ずかしさのあまり姉が泣くかもしれません。
それより、いやに、ルークが真顔がなので、ひょっとして、姉を・・・と思いましたが、
「良かったー!回りくどいやり方で殿下の心を捉えるつもりではと疑っていたので!」
と、満面の笑顔で言うと、「殿下ー!」
レオ様を追いかけて行きました。
「はい・・・?」
あいつも意味が分かりません・・・。
ただ、うっとうしい『レオ様馬鹿』だと言うことは分かります。やはり何かしらの教育は必要ですね。
それにしても、僕の周りには・・・。
「意味不明な人が多いな・・・」
と、僕は呟きましたが、姉の独り言が移ったわけではないです。




