笑われて当然です
私、信じられない光景を見ました!
テーブルセットの椅子が全て倒され、テーブルの上に一匹の犬さんが上がっているのです!
「の、のらさん・・・」
『のらさん』は私が穴を半年かけて掘っている間に仲良くなった野良犬さんです。
母、マリアンナは幼い頃、犬さんに追い掛けられたことがあり、犬さんが大の苦手です。犬だけはお願いだから、飼わないでね。と、良く言っていました。
ですから、庭師さんにも懐かれては困るので、餌をやってはいけませんよ。と、言われていました。
私、それを無視して、こっそりのらさんにお菓子を与えていたのです。もうおねだりされれば好きなだけやっておりました。
と、言うわけで、のらさんは躾もされていない、食いしん坊のお馬鹿犬さんになってしまったのです!
テーブルの上に何かあると思ったのでしょうか?のらさんはテーブルの上に乗って、おまけにテーブルを舐めています。
ひぃ!お母様お気に入りのテーブルと椅子がめちゃくちゃです!
母に私がのらさんにお菓子をやっていたことを知られたら、間違いなくおやつ抜きにされてしまいます。テーブルセットのことを含めると一体何日おやつ抜きになってしまうのでしょうか?!
気付けば、私・・・。
「ぎゃあああー!おやつがーーー!!」
と、叫びながら、無我夢中で駆け出していました。
のらさんが耳をピンとさせると、私の方を向きました。
「のらさん、降りてーーー!」
と、私は走りながら、声を上げますが、のらさんは首を傾げると、またテーブルを舐め始めました。
ひぃ!このお馬鹿犬さんめー!
私がさすがに怒鳴ってやろうとした時、
「?!」
突然、地割れが起こり、私は地面に飲み込まれてしまいました。
「ぎゃっ!」
私はお尻から着地しました。
さすがの私も、次の瞬間には地割れが起きたわけではなく、自分で掘った落とし穴に落ちたのだと気付きました。
私はショックで呆然としていましたが、
「キャス!」
「カサンドラ様!」
と、声がしたので、顔を上げると、レオ様、シュナイダー様、ルークが顔を出していました。
「大丈夫か?!」
「レ、オし、しゃまー、登れましぇんーーー」
私が半ベソで言うと、
「待ってろ。人を・・・」
と、レオ様が言ったところで、私の目の前をシュルンと細くて長いものが落ちて行きました。
・・・。
細くて長いもの・・・。
私の苦手な・・・。
「ぎゃあああーーっ!ヘビさんがーーーっっ!!」
私は爪の間に土が入るのも気にせず、必死で土の壁を駆け上がりました。そして、リバーに抱きつくと、
「うわあああーん!リバー!ヘビさんがーー!」
私は泣き叫びました。
ですが、リバーはここにはおりません。
「き、キャス!落ち着け!私はリバーではない!」
「うわーーっ!リバー!助けちーー!」
「おいっ!」
私、リバーではなく、レオ様に抱きついていました。抱きつくどころではなく、しがみついてます。
私にしがみつかれたレオ様は真っ赤になりながら(自分からスキンシップするのはいいが、されると恥ずかしい(笑))、
「お、おい!落ち着けと言っているだろう!」
と、言っていますが、私はわんわん泣いているので、何も聞こえません。
ところが・・・。
「ふっ、あはははっ」
と、誰かが笑い出しました。
私が泣いていると言うのに、笑うなんて!と、そちらを見ると・・・な、何と!
「あはははっ」
シュナイダー様がおなかを抱えて笑っているではないですか!
あまりの衝撃に涙が引っ込みました。
それから、私もレオ様もルークも唖然として、シュナイダー様を見ていました。
シュナイダー様は笑いながら、眼鏡を外し、笑い過ぎで出た涙を拭います。
・・・眼鏡を外したシュナイダー様はずっと幼く見えます。
残念ながら、シュナイダー様はまた眼鏡を掛けた頃には、笑いは治まっていました。
「・・・申し訳ありません」
シュナイダー様は咳ばらいをしてから、言いました。頬がうっすら赤くなっております。笑ったことが恥ずかしかったようです。か、可愛いです。
ところが、
「ところでこの穴はどうしたのでしょうね」
と、シュナイダー様が言いましたので、当然、私はギクリとしました。
ルークは改めて穴の中を見ると、
「あれ?布を張っていたようですね?」
ぎゃあ!お馬鹿さんのくせに何見つけてるんですか!
穴の上に要らなくなったカーテンを張って、その上に土を薄く敷いていたのです。
「・・・キャス?」
レオ様が私の体を離し、私を真正面から見据えました。ひぃっ!
「お前、何故、ここに穴があるのか、知っているのではないか?」
私は目を反らすと、
「に、にゃんのことでございましか?」
「私から、目を反らさず、『ども噛み』せずに答えろ」
そ、そんな無茶な!
「お前、これは落とし穴だな?」
ぎゃあ!
「カサンドラ様、何やってんですか?!」
ルーク!う、うるさいですよ!
そこへ・・・。
「うわー、大変ですねー」
と、言いながら、リバーがやって来ました(リバーは離れた場所で一部始終見て、大笑いしてました)。
レオ様はジロリとリバーを見て、
「リバー。これのことを知っていたのか?」
「存じ上げません」
リバーはそうきっぱり言い切りますと、穴の中に目をやってから、「これが姉なりの趣向を凝らしたおもてなしのつもりだったのでしょう。レオ様も知ってますでしょう?姉が前々から、突拍子もない行動をすることは。今更、目くじらを立てないであげてくださいよ。・・・おまけに自分で落ちたのですから」
リバー・・・『くださいよ』の後、若干、声が震えてませんか?
レオ様はこれでもかと眉をしかめながらも、
「まあ、確かにこうなってしまってはもう責める気にもなれないな」
と、言って下さいました。
「うわーん!リバー!」
私は泣きながらリバーに抱きつきました。
リバーがすぐに抱きしめてくれます。
リバーのお陰で、自分で掘った落とし穴に自分で落ちた上に、更に怒られてしまうという羽目にはなりませんでした。
半年間の苦労が水の泡になってしまったのです!もうこれ以上、耐えられません!リバー、ありがとう!
私はリバーに抱きしめられ、泣いていました。
「やっぱり、キャスには無理だったか・・・」
と、リバーが呟いた気がしますが、聞かなかったことにします!




