悪役令嬢は王子様の幸せを願う
私、まだルークと音楽室にいます。
もう飽きましたよね。私もです。ふぅ。
「殿下の理想の女性が存在するとおっしゃいましたが、本当ですか?」
ルークが腰に手を当て、私を見下ろしながら言いました。
取り調べされてる気分です。何だか疲れました。カツ丼は胃にもたれますので、紅茶とオレンジジャム付きのスコーンを下さい。
そうです!客間に戻って、シュナイダー様が淹れた紅茶が飲みたいです!シュナイダー様はお茶を淹れることが得意なのです!執事さんのようで萌えます!
「キャス様、どうしたんですか?にやにやして。気持ち悪いですよ」
むぅ。失礼ですね。さっきまで私の前でしょぼぼーんとしてたくせに、急に刑事さんぶったり、生意気言ったりして。
「私、疲れました。この取り調べからの解放を要求します!」
と、私、言ってやりました。
「取り調べって、話を聞いているだけです」
「ルーク。私のために何でもするって、言ったでしょう?だから」
「いえ!」
と、ルークは即座に、「あくまで自分の主君は殿下ですので。殿下を何よりも優先します!」
キッパリ、ハッキリと宣言しやがりました!何がカサンドラ様のために何でもやります。ですか!嘘つき!じゃあ、レオ様のあの過剰なスキンシップも止めてくれないってことですか?!当てが外れましたよ!
「では、話に戻ります。殿下にとって、大事なことですからね」
・・・はいはい。分かりましたよ。ちゃんと話しますよ。
「レオ様の理想通りの方がいるのは本当です」
「どうして、キャス様がご存知なんですか?」
「えっ、どうしてって・・・」
うっ。困りました。前世で乙女ゲームをプレイしたからです。なんて言えません。
えっと・・・・あ!そうです!
「カーライル家お抱えの占い師さんに聞いたんです!」
と、私が言いますと、ルークは頷いて、
「なら、信憑性がありますね」
この世界では占いを信じている方が多く、王城にも占い師さんがいらっしゃるそうです。
ちなみに両親は一切信じていませんので、お抱えの占い師さんなんていません。父、アンドレアスは王城の占い師さんに対して、あの胡散臭いの何とかならんものかな。と、良く言っています。
実は私も信じてません。何故なら、前世で『長生きする』と言われましたからね!三千円返して欲しいです!
まあ、占い師さんはもういいとして、『カーライル家』を出せばなんとかなるものなんですね。ルークはこれで通しましょう。
「と、言うわけで、レオ様と理想の女性が上手くいくように協力し合いましょう!」
「はい!」
と、ルークは元気良く答えてくれましたが、「キャス様はそれで良いのですか?」
「?はい?」
良いに決まっているではないですか。
私、ヒロインがリバーに向くのは困るのです。
ヒロインがリバーに向いてしまうと、悪役令嬢として転生した私は、ちょっとした邪魔なり、意地悪なりしなくてはなりません。ですが、『弟を取られるのが寂しくて、ちょっと意地悪しちゃいました。ごめんね。えへっ』くらいで済まされる程度で抑えられたらと思ってます。
それに、ポンコツな私のことですから、何か失敗するか、予期せぬことが起こったりして、カーライル公爵家から追い出される可能性もあります。
それなら、最初から、レオ様に向くように持っていけばいいのです!
私はレオ様の理想の女性を知った時に心を決めたのです。
ヒロインを本当に必要としているのはレオ様です。ですから、私、レオ様の幸せの為に尽力します。それによって、レオ様に嫌われてもかまいません。レオ様も私と今は仲良くしてくれていますが、いざとなれば、私より、生涯を共にする最愛の人の方が大事に決まってます。
レオ様がルークに対して、冷たく淡々と責めている様子を目の当たりにして、ハッキリ言って、ゾッとしました。あれを自分にやられたら、私、立ち直れないかもしれません。
ですが、どの道、ずっと、一緒にはいられないのです。私は遠く離れた場所から、レオ様の、私の初めてのお友達の幸せを、願うことにしましょう!
それから、ルーク。一応、謝っておきますね。
私に協力させることで、ルークがヒロインに恋をする可能性を摘もうとしているのです。
でも、レオ様の幸せの為なら、どうってことないですよね!
「ごめんね。てへっ(全然悪いと思ってません)」
そんな私をルークは眺めながら、
「独り言が特技って、本当だったんだな」
と、呟きました。
誰に聞いたんですか?!
レオ様の理想通りの女性はヒロインと言うことになります。
カルゼナール王国ならではの理由ですので、たったそれだけのこと?と、思われそうですが、レオ様は真剣です。
初めての友達であるレオ様に対するキャスの思いは、ルークに負けず劣らず強いので、その分、ルークの扱いは雑になります。




