『魔法学園でつかまえて』
異世界にある魔法学園を舞台とした乙女ゲーム『魔法学園でつかまえて』。
そのままだし、はっきり言ってダサい。
このゲームは、経営危機に陥っていたゲーム制作会社が、社運をかけて、発表したものだ。
しかし、その制作会社は、格闘ゲームで一世を風靡していたのに、門外漢と言っていい乙女ゲームの開発に手を出すとは・・・迷走していたとしか言いようがない。
ゲームそのものの出来と言えば、クソゲーの部類に入れられるかもしれない。
まずタイトルのダサさ加減。次に攻略が簡単過ぎること。その割に値段が高いこと。豪華な声優さんを使っているのに、おかしいくらいに攻略対象キャラと合っていないこと。
そして、何故こんなことをした?!と思うのが、攻略対象キャラは5人いるのだが、その台詞、行動を制作チーム以外の社員から選ばれた5人の人間が、それぞれ一人ずつ考え、そのままゲームにしたらしいのだ。
ある意味、面白い試みかもしれないが、説明書のそれぞれのキャラの絵の隣に担当した社員の顔写真を載せたのはやり過ぎだと思う。
私のお気に入りキャラの担当は60歳は確実に越えている男性だった。台詞が古臭く思えたのも仕方ないことだ。容姿にはあえて触れないでいよう。
声優さんが合っていなかったのも、この血迷ったとしか思えない試みのせいだろう。
どうせなら5人組男性アイドルグループにやってもらえば良かったのにと思う。
『あのー』
と、神様みたいなものが、『君、そのゲームハマってたよね?なんで?』
「キャラの見た目だけですよ!もちろん!」
私は即座に答える。
そもそも格闘ゲームが一世を風靡したのも、『美し過ぎる格闘ゲーム』として話題になったからだ。全てのキャラが美男子だった。もう涎が出るくらい。当然、私もプレイした。不器用な私は10秒も持たなかったが。
『じゃあ、良かったね。カサンドラ・ロクサーヌになれて』
と、神様みたいなもの。が、言ったので、私は眉をしかめてしまうと、
「いや、あの、悪役令嬢って、どうなっても、誰とも結ばれませんよ」
すると、神様みたいなもの。は、小馬鹿鹿にしたように笑って、
『役目分かってるんじゃなかったの?それに、君、あんな死に方して、周りに迷惑掛けたんだよ?なのに、新しい人生を用意してあげてるんだよ?』
私はハッとした。
『ヒロインになれると思った?そんな楽しそうなことさせるわけないでしょ。でも、こういうゲームは悪役がいてこそなんだから・・・』
私はまたまたハッとした。
『まあ、ゲームと現実は違うし、君の行いによっては、ヒロインより・・・』
「分かりました・・・」
『ん?何か言った?それで、君はね、君の意志で動けるんだし、』
「立派な悪役になってみせます」
『ん?』
「ゲームより立派な、公爵令嬢カサンドラ・ロクサーヌになってみせます!」
私は声高らかに宣言した。
『んー、君、自分の事、分かってる?あくまで中身は野崎明日香で』
「まずは近くにいる攻略対象キャラをどうするか・・・」
『・・・話聞かない子だね。それに面倒臭そうなタイプだし』
神様みたいなもの。は、呆れたらしく、溜め息をついたようだが、
『まあ、いいや。せっかくの新しい人生を楽しむんだよ。それは前世で出来なかったことだからね』
その声はとても優しく耳に響いた。