ルークと呼びます。その2
ルーカスはドアを開けようと手を伸ばしたまま固まってしまいました。
・・・何をそんなに驚いているのでしょうか?
はっ!『ども噛み』持ちを見たのが初めてなんでしょうか?!ルーカスは王都で暮らしてますからね。珍しいのでしょう。でも、完治したことはきちんと知らせておかないと。
「あのー、今、ちょっとやってしまいましたが、ちゃんと完治してますよ?」
すると、ルーカスがぎくしゃくした動きながらも、私と向き合って、
「カサンドラ様・・・今、何とおっしゃいました?」
「ちゃんと完治してますよ?」
「いえ、そうではなくて・・・え?ご病気だったんですか?」
「ええ、まあ・・・しつこい病でしたね」
「そうなんですか。今はとてもお元気そうで何よりです」
「ええ、あれは精神的には参りますけど、体には大して影響がないもので」
「珍しいご病気だったんですね」
「ええ、自分以外は見たことないです」
「完治されて良かったですね。ご家族も喜ばれましたでしょう?」
「ええ、父の高い高いも、受け入れましたわ」
使用人さんたちもいたのでとても恥ずかしかったです!使用人さんたちは泣きながら拍手してましたけどね。・・・いい思い出です。
はっ!
私、『ども噛み』で思い出しました!
『ルーカス』には『ス』があります。いつ何時、『ルーカふ』、『ルーカしゅ』になってしまうか分かったものではありません!
せっかくルーカスが私のために何でもすると言ってくれているのですから、何か頼み事をする度に名前を噛むわけにはいきませんよね!
と、言うことで、『ルーカス』と呼ぶ練習をするよりも、手っ取り早い方法を思い付きました!
「私、あなたのことは『ルーク』って呼びますから、あなたも私のことは、キャ、スって呼んでくださいね」
あー、危ない。自分の愛称を噛むところでしたー。『ス』がありますからねー。
そうです。『愛称呼びにしちゃおう作戦』です!
私、あったまいいですねっ!
「ルークと・・・キャス様ですか・・・」
ルークはやや戸惑っているようです。
「様はいらないけど、私もあなたを責め過ぎたと思ってるんです。仲直りの意味を込めて、お互い愛称呼びにしましょう!」
・・・ルークまでキャスと呼ぶようになったら、シュナイダー様も呼んでくれるかもしれませんからね。ふふっ。
ルークは私のそんな思惑も知らず、グリーンの瞳を輝かせて(ルークの髪色は赤です)、
「はい!キャス様!」
と、元気良く言いました。
その意気です。おどおどびくびくのルーカス・シャウスウッドなんてらしくありませんからね。
「じゃあ、そういうことで、話も終わったし、戻りましょうか」
私はドアノブをつかもうとして、
「ち、ちょっと待って下さい!」
ルークが声を上げました。
「はい?」
「話、全然、終わってません!」
「え?」
そうでしたっけ?
ルークは赤くなると、
「自分が殿下を愛してるだとか、キャス様はおっしゃいましたが・・・」
「ええ、ルークが言ったでしょう?」
「言ってません!」
「え、でも、」
「好きだとは言いましたが、愛してるなんて言ってません!どうしたら、そうなるんですか?!」
「・・・え、えっと、で、でも、好きなんでしょう?」
「好きには色々あります!自分が殿下を崇拝する気持ちも好きに入るでしょう?!」
「あー!そうですねー!」
なんだー。私の勘違いでしたー。「えへへっ」
ここは笑ってごまかしましょう!
「・・・」
ルークはじとっとした目で私を見ています。
もー。誰にでも間違いはありますってー。
「すみませんでしたー。じゃあ、戻りましょう!」
逃げるが勝ちです!
しかし・・・。
「待って下さい」
ルークが私の肩を掴んで、回れ右をさせると、私を引っ張って行きます。ぎゃあっ!乱暴なー!
「逃げないで下さい。キャス様。大事な話が終わってません」
ルークは私を椅子に座らせると、私の前で仁王立ちになりました。
怖いですー!ちょっと勘違いしただけじゃないですかー!
ルークのことなんか、雑に扱ってやりますっ!悪役令嬢の取り巻きAにしてやりますからね!攻略対象キャラだからって、攻略法なんか皆さんに教えてあげませんからねっ!!




