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王子様の怒り

 レオ様は立ち上がると、ルーカスを真正面から見据え、

「先のお前の発言はカーライル公爵家に対する侮辱だ。何より古くから、私たち王族の盾となってきた一族に対する侮辱。王族として、許すことは出来ない。子供だからと容赦はしないぞ。お前に対する不行き届きとして、シャウスウッド団長を処分する」

 ルーカスは青ざめると、

「父上は何も・・・」

「処分を覚悟していると言っただろう。処分とはそういうものだ」

 と、レオ様はそう言うと、シュナイダー様を見て、

「シュナイダー、その男を連れて一緒に帰れ。それから、私が帰る時の馬車を寄越すよう、鳥を飛ばしてもらえ」

「・・・かしこまりました」

 シュナイダー様は幼い頃から親しくしていたルーカスを庇うことなく、返事をしました。


 私はぼんやりとレオ様を見つめていました。

 ガラス玉のような瞳も纏う空気も冷たいのに、近付けば、焼き尽くされそうな怒りを感じます。

 レオ様のこんな様子は初めて見ました。ルーカスはもちろんですが、リバーもシュナイダー様も、この場にいる全ての人間が青ざめ、息を詰めています。


「殿下・・・」

 と、ルーカスが震える声で、「お、お許し頂けませんか。せめて、父」

 すると、レオ様は舌打ちしてから、ルーカスを見ました。

 そして、レオ様は身を沈めたかと思ったら、一気に距離を詰め、ルーカスの懐に入り込み、ルーカスのお腹に拳をピタリとつけました。

 私、瞬きも出来ませんでした。

 レオ様はお腹を殴ったわけではありませんが、ルーカスはへなへなと力無く座り込んでしまいました。


 レオ様はそんなルーカスを見下ろしてから、

「鍛練のことはお前に心配してもらう必要はない。キャスが言った通りお前は何様のつもりでいるのだ?人の噂を真に受け、勝手な思い込みでキャスやリバーを侮辱し、私には差し出がましく意見した。私はお前の思うような人間ではないし、なりたくもない。ああ・・・」

 レオ様は冷笑すると、「いいだろう。お前が思う人間になってやる。心を許せる人間しか置かない私が良いと言うのなら、私はお前を置かない。私はお前など要らない。それで良いな?隙を見せたくないから、これまで親しくしていたお前の家族とも一切の関わりを断つ。それで良いな?・・・これがお前の理想とする私だろう?満足したか?」

「で、殿下・・・」

 ルーカスは今にも泣き出しそうです。

「その顔を二度と私に見せるな」

 レオ様はルーカスに背を向けました。



 シュナイダー様がルーカスを立ち上がらせて、部屋の外へと引っ張って行きます。

 ルーカスはがっくりと頭を垂れながらも、何とか歩いていきます。

「・・・」

 これでいいのでしょうか。確かにルーカスは間違いをしました。でも、レオ様を思ってのことです。そんな人を失って、レオ様は本当にいいのでしょうか。

 何より、私もルーカスを責め過ぎました。あの男に似ていると言うだけで。

 おまけにあんなに泣いてしまいました。だから、レオ様も余計にルーカスに厳しくしてしまったのかもしれません。


 ですが、泣いたのはカサンドラではなく、『野崎明日香』なんです。


 今、私はこの世界で生きています。なのに、前世で受けた傷に囚われて、この世界を生きる誰かを傷付けてはいけません。


「レオ様!待って下さい!あの面倒臭い暑苦しい男を許してあげて下さい!シュナイダー様も待って下さい!その思い込みの激しい馬鹿を連れて行かないで下さい!」

 私は声を上げました。

「キャス・・・どうしたのだ」

 と、レオ様が私の前に来て、「ルーカスはキャスに対して、酷いことを・・・」

「ええ。ですから、私は許しません。でも、レオ様は許してあげて下さい。この馬鹿はレオ様を思うがあまり、馬鹿なことをしたのです。ここまで、レオ様のことを思ってくれる人を無くしてはだめです!」

「キャス、しかしな。私はこの家で過ごす時間が大事なんだ。それをルーカスが勝手な思い込みで台なしにしようとしたんだ」

「この馬鹿は何も知らないのですから、仕方ありません!」

「キ、キャス、さすがにこの馬鹿呼ばわりはダメだよ」

 と、リバーは言いましたが、

「そうだ!」

 私はそんなリバーを引っ張って、「あのお馬鹿さんに、リバーをつけます!教育してもらいます!考え無しにものを言いますから、リバーの思慮深さを習ってもらいます!」

 私はルーカスを見て、「リバーは愛想良くして、相手を油断させてるだけなの。私の弟は腹黒いんだからねっ」

「・・・」

 リバーは参ったなあと言うように苦笑いしました。


 私はまたレオ様に顔を向けると、

「レオ様と一緒にこの家に来て、私たちの様子を見ていれば、お馬鹿さんでも間違いに気付くはずです!ですから、このお馬鹿さんにチャンスをあげてくれませんか?!」

「キャス・・・」

「こういうお馬鹿さんもレオ様には必要です!」

 と、私が言い終えると、

「ふふっ・・・」

 と、微かな笑い声がしました。


 ん?


 レオ様ではありません。リバーでも・・・と、言うことは・・・。

 私はシュナイダー様を見ました。

 何と、シュナイダー様が口元を歪め、微かに震えているではありませんか!

 もしかして、今、笑ってます?!


 ですが、さすがはシュナイダー様。すぐにいつもの無表情に戻り、

「私もルーカスは殿下を崇拝するあまり間違ったことをするのではと危惧しておりました。危惧していながら、今日まで何も出来ずにいました。私の責任でもあります。ですから、もう一度ルーカス・・・いえ、このお馬鹿さんにチャンスをあげて下さいませんでしょうか」

「・・・」

 レオ様は渋い顔をしていますが、明らかに心が動かされているようです。


「レオ様。私はこのお馬鹿さんのことはまだ良く知りませんが、姉もこう言ってます。僕で教えられることは教えますので、どうか、許してあげて下さい」

 と、リバーまでルーカスを許すようレオ様に頼みました。

「ルーカスはキャスを泣かせたのだぞ」

 と、レオ様が返すと、リバーはにっこり笑って、

「ええ、ですから、もちろん、厳しくさせてもらいます」

 ・・・うわー。リバーも怖いですね。


 さて、もう一押しです。


「レオ様」

 私はレオ様の手を取って、「間違いは誰にでもあります。その度に切り捨てていては誰もいなくなってしまいます」

 レオ様は何かに執着する方ではなく、妹の王女殿下と上手く行かなくても、『もういい』で、終わらせた方です。でも・・・!

「レオ様はお馬鹿さんを要らないと言いながらも、寂しそうでした。本当に会わなくなったらもっと寂しくなるはずです。私、レオ様にはそんな思いをさせたくありません。ですから、お願いです。レオ様」

 私はぎゅうっとレオ様の手を握りました。すると、レオ様はもう一方の手を重ねて、

「・・・分かった。ルカースを許そう」

 と、言って下さいました!


 私はパアッと笑顔になりますと、

「良かった!」

 ところが、レオ様は何か企むような悪い笑顔になると、

「条件がある」

「は・・・条件?」

「キャスが私がここに来る度に膝枕してくれたら、許してやってもいい。いや、逆がいい。私が膝枕して、髪を撫でてやる」

 私は顔を引き攣らせて、

「そ、それは・・・」

「決まりだな。じゃあ、今すぐしてやろう」

「ま、待って下さいー!恥ずかしいですっ!だ、だいたいそんなだから、私にたぶらかされてるなんて言われるんですよー!!」

「私がキャスにたぶらかされるような阿呆だと思うのか?」

「思いませんけどっ!私は思ってません!あのお馬鹿さんがっ!」

 レオ様はベッドに座ると、自分の腿をぽんぽんと叩いて・・・。

「さあ、キャス、来ようなー?」

「うーーー・・・っ!」

 こんな恥ずかしいことさせられるなんてっ・・・。


「お馬鹿さんのせいだーーーっ!」



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